彼女をNTRれないか心配していたら、俺がNTRれそうになっていた

星村玲夜

プロローグ

前編

 昔(と言っても30年は経っていない)、某男性有名人がこんな発言をして炎上したらしい。


「不倫は文化」


 不倫なんて離婚する理由として十分なくらいの最低な裏切り行為なのに、それを文化という、昔から広く受け入れられている慣習なんだと言って正当化しようとしたらそりゃ世間から猛烈に批判されるに決まっている。


 この発言が炎上したということは、この頃は世間も不倫や浮気に対して批判的だったということなんだろう。

 ところが、最近はあまり批判的でなくなってきている、というかむしろ「不倫は文化」というのが事実になりつつあるような気がする。


 このところ、巷で恋人に浮気されたり、恋人をNTRれる事案が頻発しているのだ。

 

 SNSを開けば「恋人をNTRれた……死にたい……」みたいな呟きを頻繁に見かけるし、街中を歩いていると、たまに男女二人がラブラブしているところに急に別の女性が来て、男性の方を思いっきりビンタして泣きながら走り去っていくのを見たこともある。

 

 そして、俺の周りでも――。


「ああ、マジ最悪……」

 

 俺の高校からの友人であり、俺と同じく西城大学理学部の2年生である中川宗太は机に突っ伏し、弱弱しく呟いた。彼は憔悴しきった様子で、お調子者の性格は完全に影を潜めていた。


「大丈夫か? 一日休んだくらいで落単することはないし、今日は休んで心を落ち着かせた方がいいんじゃないか?」

 

 宗太の隣(俺の2個左)の席に座り、宗太に優しく言葉をかけたのは、宗太と同じく高校からの友人である笹井亮介。知的な雰囲気を帯び、黒縁の眼鏡をかけた姿は様になっている。

 彼もこの西城大学の2年生だが、学部は俺や宗太とは違って工学部だ。

 亮介は学部が違うとはいえ、高校の時からよく一緒にいたこの2人と、進学して地元を離れてもまた一緒にいられるというのは運が良かったと思う。

 

 なぜ学部の異なる亮介が俺らと同じ教室にいるのかというと、これから始まる講義がどの学部の人でも取れる科目、俗に言う般教で、これは楽に単位が取れると聞いて三人揃って受講登録したからだ。


「いや、いいよ」

「そうか。あまり無理はするなよ」


 程なくしてブザーが鳴り、講義が始まった。宗太は体を起こし、教員の話に耳を傾けていた。

 俺は教員のつまらない話をぼーっと聞き流しながら、隣にいる宗太の哀れな姿を横目で見て、不憫に思いながら昨夜起こったことを思い返した。

 

 昨夜、彼は彼女の浮気現場を目撃した上に、彼女がNTRれたことを知ることとなったのだった。




 


 



 





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