第1話 


 「え?美羽みうちゃんが遊びにくるの?」


 私――天音あまね佐奈さなは、ソファに横になっている母に聞き直した。


 母は昼ドラを観ながら、軽いノリで、明日から親戚の子が泊まりに来ることを告げる。


 「そうよー。お爺さんのお墓参りやらで二泊していくみたいよ」


 パリッといい音を鳴らし、菓子皿かしざらに入っているミニサイズの煎餅せんべいを食べる母。


 「泊まるったって、何処で寝てもらう気なの?まさか、私の部屋じゃないよね?」


 いつも夜は、好きなVチューバーのエッティアちゃんの生放送を観てるため、もし部屋に泊まられると気を遣って観れなくなってしまう。

 そんな事態にはなりたくなかった佐奈だが、


 「そうよ?小学5年生の子が泊まるわよ。アンタ、覚えてる?昔、アンタの後ろについて行ってた子よ」


 案の定、泊まらせる気だったようだ。


 美羽ちゃんの事は知らないはずがない。小さい頃、よく遊んだ仲だ。美羽ちゃんが嫌いって訳じゃないが、陰キャの私はあまり人とは関わりたくなかった。


 「だからアンタ、部屋片付けときなさいよね?」


 プルルッと電話が鳴り、立ち上がって電話を取る母。

 電話の主は、いつも長電話になる大崎さんだろう。


 私は項垂れながら、自室へと戻る。

 部屋は散らかっており、女性の部屋とは思われないくらいの惨状になっている。

 目の前に倒れるいつ買ったのか不明の空のペットボトルを掴み、


 「はぁ…とりあえず、部屋掃除しよ…」


※ ※ ※ ※ 


 「短い間ではありますが、よろしくお願いします」


 栗色の髪をしたショートボブの少女――桜木さくらぎ 美羽みうが深々とお辞儀をし、さらさらっと髪が垂れる。

 茶髪少女は顔を上げ、ニッコリと笑い、それを見た母は、


 「あらまー、まだ子供なのに、礼儀がいいわねー!ほら、アンタも挨拶しなさい!」


 母の二歩後ろで茶髪少女を眺めていた私は、釣られるようにして挨拶をする。


「よよ、よろしく…」


 私の元気のない挨拶を聞いた母は、私の方を向き、


 「あんたは…高校生なんだから、しっかりしなさい!」


 理不尽な説教を受け、歳下の美羽ちゃんの前で辱めを受けた佐奈は、逃げるようにして二階に上がり自室へと向かう。


 階段を上がっている中、下の玄関では母親が「佐奈があんなんでごめんねー」と言う声を聞きつつ、佐奈は無視して自室に入るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る