「お願い、私を召喚して…」学園一の美少女が、僕のカードになりたいと言いだした件 不遇職でぼっちだった僕が、アイドルと恋人繋ぎにカップルストロー、そしてまさかのペアリングをするようになるまで
佐藤謙羊
第1話
放課後の
ゴブリンは別名『子鬼』と呼ばれるモンスターで、小さい子供のようなナリをしている。
しかしイタズラ小僧のようにずる賢いので、油断はならない。
そしてゴブリンというのは群れで行動するものだが、今回の相手は幸いにも1匹だった。
どうやら仲間とはぐれたようで、しかも武装しておらず素手ときている。
ずっと
僕は腰のベルトに付けているケースから、迷わずあるカードを取り出す。
といってもケースには2枚しかカードが入っていない。
そのうち戦闘に使えるのは1枚だけなので、実質これ一択だ。
「いでよっ、『ハウスキャット・トム』っ!」
かけ声とともに投げたカードは空中で拡大。
ポスターのように大きくなった絵柄から、一匹の猫が飛び出す。
猫の名前は『トム』。
ロシアンブルーという品種で、首には赤いスカーフを巻いていた。
そう、僕のメイン
『カードマスター』はカードを使うことにより、ともに戦う仲間を呼び出すことができるんだ。
僕の自宅で、ペットボトルのフタを追いかけていたトム。
遊びの真っ最中に戦いに駆り出されたのが不満なのか、出てくるなり敵のゴブリンではなく僕をジトッと睨んでいた。
僕はそんなことはおかまいなしに、トムに指示を出す。
「いけっ! トム! ゴブリンをやっつけるんだ!」
しかしトムはダンジョンのすみっこを横切っていったネズミを見つけ、ゴブリンとは逆方向にまっしぐら。
入れ違いで、ゴブリンが僕に挑みかかってくる。
「ああっ、もう!」
僕は姿勢を低くしてゴブリンに体当たりをかます。
押し倒してから、『四の字固め』の体勢に入った。
ダンジョンの部屋のなかに、ゴブリンの悲鳴がこだまする。
「ギャァァァァァァァァァァッ!?!?」
「どうだ、ギブアップしろっ!」
これは僕のサイド
組技を仕掛けることができるんだ。
そして技を掛けた相手が『タップ』、すなわち床を叩いた時点で僕の勝利となる。
ゴブリンは苦悶の表情で手を挙げ、今にも振り下ろしそうだった。
しかしあとひと息というところだったのに、ネズミを追いかけていたトムが勢いあまって僕に体当たり。
四の字固めの体勢がひっくり返った瞬間、今度は僕が激痛に見舞われた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!? ギブギブギブギブぅぅぅぅぅーーーーーーっ!!」
四の字固めというのは反転すると、技をかけた側が痛くなる。
僕はたまらず絶叫しながら床をバンバン叩いた。
しかし『カードマスター』側はタップしても負けにはならない。
そこに、クラスメイトたちが通りかかる。
「おい見ろよ、アレ!」
「カケルのやつ、ゴブリンに四の字固めかけられてるぞ!」
「ゴブリンにあんなやられ方しているヤツ、初めて見た!」
「っていうかゴブリンにやられるのって、普通小学生までだよねー!」
「おもしれーからスマホで撮ってみんなに送ってやろうぜ!」
「さんせー! あたし、ネットにアップする!」
助けを求める僕をよそに、スマホを向けるクラスメイトたち。
僕はその日、『ゴブリンに負ける最弱の高校生』として一躍有名になってしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
モンスターがあふれ、各地にダンジョンや塔を作りはじめた。
モンスターたちにはなぜか現代兵器が通用しずらく、かわりに僕たち人間には『剣と魔法』の力が宿る。
子供たちにはふたつの
学校では剣技や魔法、モンスターの知識が必修科目のひとつとなる。
体育の授業のかわりに、学校の近くにあるダンジョンを探索するようになった。
大人になるのと誰もがいちどは、花形職業である『冒険者』を目指す。
彼らは前人未踏のダンジョンを踏破し、災いをもたらすモンスターを倒して有名になったり、一攫千金の財宝をゲットして大金持ちになることを夢見ていた。
そのため学生時代は、良いジョブ適正を持ちあわせ、剣や魔法の技能に長ける者が人気者になれる。
昔でいうところの、運動部のキャプテンやエースといった具合に。
僕のジョブは、前述のとおり『カードマスター』と『グラップラー』。
2大不人気ジョブなうえに、水と油のような相性の悪さだ。
『カードマスター』というのは本人には戦う能力がほとんどなく、召喚するモンスター頼り。
しかもモンスターはひとり分の仲間とみなされるので、戦闘終了時のパーティ経験値が減ってしまうんだ。
ようは、『カードマスター』というのは仲間2人分に相当する。
それで3人分くらいの強さがあればいいんだけど、戦闘力は1人分ちょっとなので、誰もパーティに入れたがらない。
そして『グラップラー』はもっと酷くて、そもそもモンスターとの戦いで組み技をして、ギブアップをさせるヒマがあったら、剣で斬ったほうがずっと早い。
その二重苦のおかげで、僕はずっとひとりぼっちだった。
……はぁ、せめて使えるカードがもっと増えたらなぁ。
ペット以外の仲間ができれば、もう少しはマシになるはずなのに。
『カードマスター』はモンスターの魂の一部を封じ込め『カード』として使役することができる。
しかしそれにはとてつもない大きなハードルがある。
それは『気持ち』。
モンスターが『僕の仲間になりたい』と思った時点で、僕はカードにモンスターの魂を封印できるんだ。
ようは、強制ではなく任意ということなんだけど……。
モンスターをそんな気持ちにさせるのなんて、無理だよね?
現に、カードマスターのジョブ適正を与えられた先輩たちは、冒険者の道を早々にあきらめてサラリーマンになっていた。
僕もたぶん、彼らと同じような平凡な道を歩むのだろう……。
僕はずっとそう思っていた。
少なくとも、
それは、ある日のこと。
いつものように放課後のダンジョンに潜っていた僕は、珍しく地下2階まで来ていた。
今日に限っては妙にゴブリンが少なかったので、ひとりでも奥まで進むことができていた。
そして、悲鳴を聞く。
「キャァァァァァーーーーーッ!」
その声はすぐ近くから聞こえてきたので、僕はすぐさま隣の部屋へと躍り込んだ。
するとそこには、2匹のゴブリンに今にも襲われようとしている、黒崎さんが……!
黒崎マコ。
同じクラスの女子で、クラスではいちばんの、いや、学園でもいちばん……。
いやいや、日本じゅうで大人気の女の子だ。
なぜならば彼女は、『ソーサレス48』というアイドルグループのひとり。
いまは学業に専念するという名目でアイドル活動を一時休止しているけど、それでもなお彼女の話題をテレビで見ない日はない。
学園のスクールカーストでも頂点どころか、その上に輝く太陽のような存在が、なぜ、こんなところにひとりで……!?
そう思うより早く、僕の身体は動いていた。
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