冒涜

『実は私、委員長さんにはニシノ国でアイシューさんと一緒に、新しい国づくりをしてもらえないかと、お願いしようと思っていたのです』

 女神様が、なんか調子のいいことを言い出したんだけど……


「……その話、本当ですか?」

 思わずツッコんでしまった。


『あああっっっ! カイセイさん、なんですか、それ! 私が調子のいいことを言って、オイシイところを持って行こうとしてるとか、思ってないでしょうね!?』


「そんなこと思ってませ………………… ダメだ! 俺は正直者だから、嘘なんてつけない!」

 ここで妥協したら、なんだかこのポンコツに負けたような気がして、悔しさのあまり今晩は一睡も出来ないような気がする。


『チッ!』

 なに舌打ちしてんだか…… まったくお行儀の悪い女神様だ。


『いいですか? 委員長さんはニシノ国に詳しいだけでなく、アイシューさんととても気が合うでしょ? それからニシノ国は昔から、規律や規範を重んじる風潮が強いのです。真面目なアイシューさんと委員長さんが協力すれば、きっとこの国の未来は明るいと私は思ったのです。どうですか、わかりましたかカイセイさん?』


「それなら、天界からアイシューを見守る役割は、女神様じゃなくて真面目なパイセンに代わってもらった方がいいんじゃないですか?」


『……もう、いやだわ、カイセイさんったら』


 あれ? 思っていた反応と違うぞ?

 口喧嘩という、唯一女神様と争うことが許された高貴なる戦いにおいて、俺は自分の勝利のため、最大限の嫌味を言ったつもりだったのに。


『天界の留守番をパイセンに代われだなんて、カイセイさんはそんなに私と会いたいのですか? でも、私ってこう見えて、結構忙しいと言いますか、そりゃまあ、どうしてもということでしたら——』


「女神様が天界から見てくださっているのなら安心ですね。ええ、とても安心ですとも」

 とりあえず、俺は軽くいなすことにした。

 まったく…… 俺の勝利へのこだわりを返して欲しいものだ。

 口喧嘩はもうやめだ。そろそろ本題に戻ろう。


「とは言うものの、女神様が下界に来られないということなら、俺もしばらくニシノ国に残りますよ。まあ、アイシューとホニーは、俺の家族みたいなモンですからね」


 俺の話を聞いたアイシューが、怪訝な顔つきで口を開く。

「え? カイセイさん、何を言っているの? ホニーなら、ヒトスジー領に戻ったけど。テラ様からうかがっていなかったの?」


 ……俺は無言で、天井を見つめた。


『な、なんですか、その目は。ひょっとして、カイセイさんは私がうっかりして、連絡を忘れていたとでも思っている——」


「はい、その通りです」

 もう一度言おう。俺は正直者なのだ。


『最後まで聞いて下さいよ! 私はずっと、天界からニシノ国を見ていたのです。だからカイセイさんたちがいる『インチキチン』王国の様子をうかがう余裕がなかっただけです』



「何ですか、その『インチキチン』って? お祭りのお囃子はやしですか? 言っておきますが、祇園祭はコンチキチンで——」


『その情報、必要ですか?』


 ……なんだよ。仕返しのつもりか?

 でもここは我慢だ。今はホニーの所在を確認することを優先すべきだ。

 きっと世のお父さんたちも、毎日の生活の中で娘のために、いろんな我慢をしてるのだろうな。

 世界中のお父さんたちに賞賛を!


「女神様はアイシューのために、ずっとニシノ国の様子を見ていてくれていたんですね。ありがとうございましたってんだよ、チクショウめ。それで、ホニーは今、どこにいるんですか?」

 一部、我慢が出来なかったような気もするが、まあ俺にしては及第点だと思う。



『……何ですか、その何の面白みのない回答は。私がせっかく良いパスを出したと言うのに、カイセイさんはボールを持ち逃げするつもりですか? いいですか? ボールはみんなの友だちであって、カイセイさんだけの友だちではないのですよ?」


「……少なくとも、俺にはそんな丸っこい友だちはいませんし、なにより友だちを足蹴あしげになんてしませんけど?」


『今の言葉、聞き捨てなりません! あなたは、つば◯君を冒涜ぼうとくするつもりですか!』

 ホニーには劣るものの、やっぱり女神様も無駄に日本文化への造詣が深いんだよな。


「もう! テラ様、いい加減にして下さい! テラ様の生きがいが、カイセイさんをおちょくることだという話は以前うかがいましたが、このままでは話が進みません!」

 ぷぷっ、テラ様ったら、アイシューに怒られてやんの。


 俺たちのやり取りを聞いていた教皇が、なにやらウンウン、と一人でうなずいている。そして——

「なるほど。ホニーとか申す赤毛の娘は確か、この男とテラ様が話すと『オモシロ口喧嘩が止まらない』と言っておりましたな。その意味がよくわかりましたぞ。やはり、テラ様のお相手は、ポンコツ仲間であるこの男ではなく、テラ様にもきちんと意見の出来るアイシュー様が適任でありましょう」


「おい、ちょっと待て。ひょっとして、俺は今、悪口を言われているのか? それから、俺って実はポンコツだったのか? でもまあ、ロリコンって言われるより、よっぽどマシだし…… なら、今日から俺はポンコツってことにするよ」

 俺は爽やかな笑顔をみんなに届けた。


 しかし、委員長からは、とても哀しげな視線を送り返された。

 アイシューからは、『またその話か』と言わんばかりの、ウンザリとした視線を向けられた。


 何だよ、その冷たいリアクション。

 俺にとっては、とても大切なことなのに……

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