今どきの若い女の子

 またいつものように超級魔法を披露して、参ノ国の兵士たちを黙らせたまでは良かったんだけど——


「インチキ陛下が魔法を使ったら、一つの街を一瞬で滅ぼしてしまうという話は、本当だったのね……」

 元伍ノ国の王女ツツマシヤカーが、呆然とした表情でつぶやく。


「こんな魔法をくらえば、我が国など1時間も経たずに消滅してしまうではないか……」

 参ノ国の国王イワズトシレータ=ドゥ・テンネンも、よく視線が定まらない目をして言葉を漏らす。


「大事な結婚式の相談をしているのに、まったくうるさいことだ……」

 参ノ国の第一王女シンジラレネーゼ=ドゥ・テンネンは、まったく動じていない。なぜだ?


「流石はインチキ国王陛下なのです。これなら科学の深淵をのぞかれる日もきっと近いでしょう……」

 参ノ国の第二王女キサイナレード=ドゥ・テンネンが、よくわからないことを言っている。言っておくが、左目から暗黒竜なんて出せないからな。


「いつものことながら、陛下には驚かされてばかりだ。陛下のある限り、我が国は安泰だろう。あとはお世継ぎにさえ恵まれれば……」

 我が国の宰相ジンセイ=ズット・クローニン侯爵は…… まあいいや。またアイシューとホニーにボコボコにされても、知らないからな。


 アイシューとホニーは、いつものように口喧嘩をしているし、ミミーは嬉しそうな顔をして女神様にまとわりついている。まあ、この3人はいつも通りなのだが……


 委員長がとても困惑した顔をしているじゃないか。

 ここはひとつ、委員長にフォローの一言でも入れてやることにしよう。


 俺は敵意がないことを示すため、両手を上げて委員長の元へと歩みを進める。


「安心してくれ。俺は君に危害を加えるつもりはない。もちろん………… き、君の隣にいる友人にも危害は加えないさ」

 委員長の友人の名前を口にする際は慎重に、っと。


「君と話がしたいんだ」

 俺がそう言うと、


「私も話が聞きたいです!」

と、返してきた委員長。

 そうか、それはありがたい。それではお話しさせてもらうとしよう。


「いいか、よく聞いてくれ。俺は成り行きでナカノ国の国王になっちまったけど、俺には野心とかそんなものはなくて——」

「あなたのことなんて、どうでもいいんです! 私は女神様のことが知りたいんです!!!」


 …………俺のことはどうでもよかったのか。ちょっと恥ずかしいけど、ここはまったく気にしてない素振りをして年長者の威厳を保つことにしよう。うん、それがいい。


「ちょっと、キララー。あの人、涙目になってるよ」

「ウッセーんだよ! 大人をからかうんじゃネエよ! あっ、しまった……」

 思わず委員長のお隣にいるご友人にツッこんでしまった。


「ヒィ! こ、怖いよ、助けてキララー!」

「あ、いや、別に怒ってるわけじゃないんだよ、ハハハ……」


「ねえ、あそこにおられる方は女神様でしょ? どうして女神の『巫女』だなんておっしゃられるの?」

 委員長が真剣な目をして俺に問いかける。


 ここで嘘をついても、どうにもならないだろう。なにせ委員長は転生直後、女神様と会っているのだから。


 俺は混乱している様子の委員長に近づき、コソッと耳打ちした。

「これは女神様お得意の『設定』ってヤツだよ」

「え? 女神様って中二病なんですか?」


「いや、そういう『設定』じゃなく…… も、ないのかな? まあとにかく、天界にいるはずの女神様が自由気ままに地上に降りてきたらマズいだろ? だから、ここにいる人は、女神の『巫女』コテラさんってことになってるんだよ」


「ということは…… やっぱりあのお方は女神様で間違いないのですね?」

「ああ、あの人は間違いなく、俺たちをこの世界に転生させてくれた女神様だよ。でも、このことは内緒だからな。君の友人にも言わないでくれよ」


「わ、わかりました。絶対に口外しないと約束します。なら、女神様と親しくしているあなたは…… 女神様に選ばれた特別な存在なのですか?」

 やっと俺にも興味を持ってくれたのか…… なんてことはどうでもいいや。


「そんなたいしたモンじゃないけど…… ザックリ言うと、女神様の愉快な仲間の一人かな、たぶん」


「じゃあ…… じゃあ、私もその仲間に加えて下さい!」

 興奮した様子の委員長が、俺の胸ぐらにつかみかかった。


「そ、そんなに興奮するなよ。そもそも俺たち転生者は、みんな仲間みたいなモンじゃないか。とりあえず落ち着こう、な?」

 ハッとした様子の委員長が、申し訳なさそうな顔をして俺の胸ぐらから手を離した。


「転生者はみんな仲間なのですか? 私が住むニシノ国では、私以外の転生者に出会ったことがないもので、よくわからないのです」


「少なくとも、俺はそう思ってるよ。まあ、仲間になる云々は置いておいて、とにかく、女神様は戦争をお望みではない。これはまぎれもない事実だ」


「私もそう思います。私がこの世界に転生したときにお会いした女神様は、とても慈悲深いお方でしたから」


「じゃあ、ニシノ国の兵を連れて帰って——」


 そのとき、俺と委員長の間に体を押し込んできたのは…… 誰だっけ? そうだ、オスカルーさんだ。危うく名前を間違えそうになったが、間違いなくオスカルーさんだ。


「ち、ちょっとオッサン、キララーから離れなさいよ! キララーに変なことしたら、私が許さないんだからねーーー!」

 勇気を振り絞って言葉を放ったのだろう。体がガタガタ震えているじゃないか。

 仕方ない。どこからどう見ても青年である俺のことをオッサン呼ばわりしたことは、許してやることにしよう。


 そういえばこの人、前回のターンでも委員長を慕ってニシノ国を出奔したんだったな。


「委員長、いや、キララはいい友だちを持ってるな。正直、羨ましいよ。安心しなよオスカルーさん。別に変なことはしてないよ」


 俺の言葉を聞いた委員長が不思議そうな顔をして口を開く。

「あの…… この方はオスカルーさんではなく——」


「うわあああ!!! い、今、その話はやめよう、な!?」

 危ないところだった…… 自動翻訳機能さんの性能については、後でコソッと教えてやることにしよう。


「まあ、そう言われるのなら……」

という言葉を俺に残し、キリッとした顔つきになった委員長は歩みを進め、女神の巫女コテラに扮しているつもり満々の女神様の元に近づき、その足元にひざまづいた。


「私は女神の巫女コテラ様に従います。どうか女神様に私の感謝と愛情の気持ちをお伝え下さい」

 そう言って、今度は深々と頭を下げる委員長。


「そんなにかしこまらないで下さい。私は単なる女神の巫女に過ぎないのですから」

 そう言いながら、女神様は両手で委員長の手を取りゆっくりと立たせつつ、コソッと委員長の耳元で、


「お久しぶりです、キララさん。ニシノ国ではご苦労されたようですね……」

と言ったのを、俺は聞き逃さなかった。


 その言葉を聞いた委員長。彼女の瞳から大粒の涙がこぼれた。


 それを見た俺も、思わずもらい泣き……


「チョット、コテラさん! ソイツは悪者なのヨ! 日本で言うところの『ショッカー』なのヨ! そんな簡単に許していいの!?」


 もらい泣き出来なかったじぇねえか……

 ホニーよ、なんでお前の口から出てくる日本の例え話は、いつもそんなにオッサン好みなんだ? まあ、お前の師匠がオッサンだったから仕方ないんだろうけど。


「あの…… 『ショッカー』って、何ですか?」

 ほら…… 委員長が困惑してるじゃないか。

 今どきの若い女の子にそういうことを言うと、こういう反応になるんだよ。


「いいか? 俺が子どものころ、いろんな昆虫型のライダーが出てくる…… って、おいホニー、今は大事な場面だからちょっと黙ってろ」

 いつものように、ホニーはふくれっ面を俺に向けた。

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