第1章 女神様と3人の少女
獣人族の少女ミミー 編
異世界生活やり直し 前編
「おい、兄ちゃんしっかりしろ! 俺の言ってることがわかるか?」
なんだか乱暴に俺の肩がガシガシと揺すられている。
俺は重い瞼を無理矢理こじ開けた。
そこにはイカツいガタイをした冒険者風のおじさんが、心配そうに俺を見つめる姿があった。
どうやら俺は気を失った状態で倒れているらしい。
うわぁ、野次馬らしき人達に取り囲まれてるよ……
俺の服装はというと…… はっ? なんだこれ? スーツ姿にネクタイまでしめてるじゃないか!
俺がさっきまで装備してた魔道具やらローブやらが一切合切無くなってる……
これって、俺が5年前にこの世界に転生した時の姿のまんまだよ!
ああぁ…… と言うことはやっぱり俺、5年前のあの日に戻ってしまったのか?
重い瞼をこじ開けながら、周囲の様子を眺めてみる。
中世ヨーロッパ風の街並みと見知った人々の顔。
間違いない。ここは通称 『始まりの街』 、正式名称 『ハジマーリ』 の街だ。
「おおっ!目を覚ましたようだな、兄ちゃん。いやー、良かった良かった」
「いやいや、あなたに無理矢理、叩き起こされたような気がするんですが。とっ、とにかく肩が痛いので、手を放してもらえませんか?」
冒険者風のおじさんが、『いやいやスマねーなぁ』、と豪快に笑いながら手を放してくれた。
あー、なんだか懐かしいな、このおじさん。この人って見た目は怖いんだけど結構親切なんだよね。
そうそう、それでこの後、ハジマーリの街をいろいろ案内してくれるんだったな。名前は確か 『オセワスキー』 さん。
って、あれ? やっぱりこの状況って5年前と全く同じだ…… 着ている服だけじゃなく、声を掛けてくる人物も同じ。
そうだよ、よく覚えてるよこのシーン。ついでに言うとこの直後、オセワスキーさんはこう言うんだ。
「「兄ちゃん、ひょっとして『異邦人』なのか?」」
あっ、ハモった。
「おっ、おい兄ちゃんっ! ひょっとして俺の心が読めるのか?!」
あっ、しまった。思わず考えていることを声に出しちゃったよ…… これ状況的に、怪しい奴だと思われるよね。
俺は慌てて言い訳を始める。
「いやいや、そんなわけないでしょう! ほら、あのなんというか、そうっ、俺が着ているこの服、スーツって言うんですけどね、これを見たらほら、やっぱり異邦人だと思われるだろうなって思って、ハハハ……」
『異邦人』とは何か。それはこの世界の外側から来た俺のような転生者のことを、ここではそのように呼んでいるのだ。
異邦人という言葉が定着していることからもわかるように、この世界では、ちらほらその異邦人が存在するのであった。
ちなみに、俺は日本人以外の異邦人を見たことがない。
「俺の名前は岸快晴と言います。日本という国から来ました。多分皆さんの言うところの異邦人なんだと思いますが…… あっ、一応、異邦人のこととか、この世界のことなんかについては、こちらに来る際に女神様のような方からうかがってます」
こんな感じで、俺は簡潔に自己紹介を済ませた。
それから、えーと…… 確か女神様は時間を巻き戻したことは秘密にしておけって言ってたんだっけ?
記憶が曖昧だが、何故かイラッとしたことだけはハッキリと覚えている。
まあ、とりあえずは様子見だな。初対面っていう設定で話を進めればいいか。
「やっぱり異邦人だったか! 俺ぁ、絶対そうだと思ったんだよ! しかし兄ちゃん、女神様と話が出来るなんてツイてるな!」
オセワスキーさんはご満悦なご様子で更に続ける。
「冒険者ギルドには『異邦人サポートプログラム』ってもんがあるんだが、兄ちゃん知ってるか?」
なんだか5年前に聞いたような気がするが、この点についてはよく覚えていない。
俺は詳しくは知らないと答える。
「それはだな、こっちの世界に来たばかりの異邦人が危険な目に遭わないように、冒険者ギルドがしばらくの間、異邦人を保護してやろうってもんなんだ。まあ、詳しい話はともかく、まずはマニュアル通り冒険者ギルドに行ってみようぜ」
正直、俺って異世界生活2回目なもんで、そんなに急いでギルドに行く必要性を感じないんだが。
でも、今、何をすれば良いのか自分でもサッパリわからないので、ここはおとなしくオセワスキーさんの申し出を受けることにした。
さて…… 俺、これからどうやって生きてけばいいんだろう……
まあ、2回も死んだのに、また生き返らせてもらえたことは本当にありがたいと思ってる。
この点については女神様に感謝だ! ありがとう女神様!
でも、何故か素直に感謝すると負けた気がするのだが…… それは心の奥底に封印しておこう。
それから…… また1からレベル上げをやり直さないといけないんだろうか?
訓練という名のレベル上げは本当に大変だったんだからな!
俺は約3年間、それはそれは真面目に訓練に取り組んできたのだ。
あの生活をもう一度やるのは正直言ってキツい。
女神様にもう一度きちんと説明して、なんとか日本に戻してもらえないだろうか…… 無理だろうなぁ……
あれやこれやと頭を悩ませながら、冒険者ギルドへと続く道を進む。
オセワスキーさんと、それから何故か一緒について来ている野次馬の皆さんと共に。
それにしても、野次馬の皆さんの数が多い。というか、さっきより人数増えてる気がするぞ。あんたら仕事しなくて大丈夫なのか?
「なんだかあの異邦人さん、元気ないね」
「そりゃ、急に知らない土地に来たんですもの。きっと混乱してるのよ」
「しばらくは、そっとしておいてやろうじゃないか」
野次馬の皆さんには、今の俺はひどく
ああ、情け無い。野次馬の皆さんの優しさが身にしみる……
「ハァー。とりあえずステータスでも確認しておくか」
ため息混じりに俺はつぶやく。たぶん誰にも聞こえてないだろう。
俺は5年前に女神様からもらった『転生者特典』の一つ、『ステータス確認』を使用することにした。今回も問題なく使えるようだ。
これは、なんとなく『見たいな』と思うだけで、頭の中にパソコンのウインドウのようなものが勝手に出て来るという優れものなのだ。
またため息をつきながら、ステータス画面を確認したところ……
「ハァー、あ? ぐふっ、ぐほ、ぐほ、ぐは! ハア、ハア、ハア…… あれっ? えっ? なんで?」
「おい、大丈夫かよ兄ちゃん! なんかむせてるじゃねえか…… ちゃんと息してるか?」
心優しいオセワスキーさんの言葉も耳に届かない程、俺は興奮していた。
俺の…… 俺のレベルが……
……99!? に……
なってる!?
俺は装備やら魔道具やらが全て無くなってたんで、てっきりレベルもまた1からやり直すものとばかり思っていたのだが……
まてよ、俺は前回、レベル86で魔王に挑んだはずだ。そうか! 魔王を倒して経験値が入ったんだ。更にレベルが上がってるじゃないか!!!
「ヒャッッッッッハァァァァァァ!!! よっっっっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は叫んだ! いや、気がつけば大声で叫んでいた! そう、叫んでいたのだ!!!
ああ、女神様ありがとうございます。レベルは前回から持ち越しなんですね。
というか、きっちり魔王討伐分の経験値までいただいてますよ。
不遜にも先ほど女神様にほんのちょっぴりですが不信感を抱いてしまいました。
ほんのちょっぴりですよ?
本当にすみませんでしたと心から申し上げます!
「おいっ、兄ちゃん本当に大丈夫か!? 」
はっ、しまった。あまりにも興奮しすぎて周りが見えなくなっていたようだ。
我に返り周囲を見回す。オセワスキーさんをはじめ、野次馬各位の俺を見つめる視線が痛い。
「あっ、あの、すみません、なんか一人で興奮しちゃって、ハハハ。なんていうか、こう、吹っ切れた? みたいな。いやぁ、いろいろ悩んでたんですが、やっぱり人生前向きに行かないとダメだなと思いまして、アハハ」
「ま、まあそうだな。兄ちゃんもいろいろ大変だと思うが…… まあ、あれだ、とにかく兄ちゃんが元気になってくれたんなら何よりだ。な、なあ、みんなもそう思うだろ?」
「お、おう。まあ元気が一番…… だな」
「えっと…… そうね。元気になって…… よかったわ」
「まあ、あれだ…… と、とにかく人生はヨッシャでヒャッハーだよな」
野次馬の皆さんが戸惑い気味に答える。
3人目の方の言ってることはよくわからなかったが、とにかく周囲の皆さんの猜疑心は少し緩和されたようだ。
空が青い、岡の緑が美しい、頬を撫でる風が心地いい、ああ、生きてるって素晴らしい! とりあえず命の心配をしなくてもいいようだ。
日本にいるときには想像も出来なかったけど、この世界って弱い者は生きて行けないんだよね。
いや、待てよ、命の心配どころの強さじゃないぞ。
ついさっき、俺はレベル86で魔王を倒したんだ。
今、レベル99になってるってことは、前回より容易に魔王を倒せるってことじゃないか!
なんだ俺、最強じゃないか!?
女神様が言ってた話合いで解決云々はさておき、とにかく今の俺なら、魔王に遅れをとることはないだろう。
なんだか一気に前途が明るくなってきた。
こうして俺は晴れやかな気分のもと、オセワスキーさんはじめ、愉快な野次馬の皆さんと共に冒険者ギルドへと向かうのであった。
それにしても、アンタら仕事しなくて本当に大丈夫なのか?
♢♢♢♢♢♢
「そっ、それでは! 今からダンジョンの探索、じゃなくて見学会? えっと…… とにかく、異邦人カイセイさんに、ダインジョンを見学とか体験とか、いろいろやっていただくイベントを始めたいと思います!」
俺は今、ハジマーリの街近くにあるダンジョンの入口に立っている。
俺の目の前で緊張しながら話をしているこの女性。
この人は冒険者ギルドの職員ナミダーメさんだ。
冒険者達のアイドル的存在で、その容姿は美人というより可愛いと言う言葉がピッタリくる女性である。
それに付け加え、ナミダーメさんはちょっとドジっ娘なのだ。
そこがまた可愛い。
「今回のダンジョン探索も、異邦人サポートプログラムにあるオプションの…… あれ、違うか? あ、そう、施策の一つです! 今回はカイセイさんに魔獣を見ていただいたり、冒険者が魔獣と戦う様子を観察していただくだけですので、絶対に危険なことはありません! カイセイさんの今後の職業選びの参考にしていただければと思っています!」
おっ、ナミダーメさん気合い入ってんな。
まあ、職業選びって言っても、俺、今更冒険者以外の職業に就くつもりなんてないんだけどね。
さて、なぜ今俺がダンジョンの前に立っているのか。
話は少し
俺はオセワスキーさん達と共に冒険者ギルドに向かった。
そこで出くわしたのが、このギルド職員ナミダーメさんだったのだ。
俺はギルドでナミダーメさんから、異邦人サポートプログラムについての説明を聞いた。
いろいろあるサポートプログラムの一つに、ダンジョン見学会? というものがあったのだ。
冒険者歴5年の俺が、今更ダンジョンを見学する必要なんてないんだけど、ナミダーメさんが一生懸命誘ってくれるので、つい……
べ、別に下心なんて…… かなりあると思う……
そんなわけで、俺はサポートプログラムのオプション? の一つ、『装備無償レンタル制度』を利用させてもらい、いかにも新人冒険者です、っていう出で立ちでハジマーリの街近郊のダンジョンの前に立っているのだ。
さて、今から行われるダンジョン見学イベント。いやあ、懐かしいなぁ。
そういえば、5年前にもやったな。確かあの時はめちゃくちゃビビってたんだよな。
ではまた、ナミダーメさんの説明に耳を傾けるとしようか。
「そ、それでは、今回、カイセイさんに同行するメンバーをご紹介します。まずは、こちらにおられるのがミミーさんです」
ナミダーメさんに紹介されたのは、ちっこい獣人族の女の子。
笑顔爆発って感じで、とても元気のよさそうな子だ。
日本でいうなら小学校の2〜3年生ぐらいの年齢だろうか。
「えっと…… こちらのミミーさんは、このダンジョン専属の嘱託契約冒険者をされています」
嘱託契約冒険者ってなんだよ? 本当に大丈夫なのか?
いつ死んでもいいように冒険者を使い捨てにしてるような気もするぞ?
「あのー、ミミーさんは年齢こそお若いですが、えっと…… 獣人族特有の優れた聴覚と嗅覚を使って、遠距離からでも魔獣を見つけることが出来る素晴らしい方なんです。冒険者が新米のうちはまだ危ないんで、高い索敵能力を持つミミーさんが、しばらく付き添ってあげることになってるんです」
なるほど。ダンジョンに潜る新人冒険者のお世話係ってわけだな。
「オレっちミミー。オジサン、よろしくだゾ!」
獣人族の女の子が元気いっぱい俺に挨拶した。
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