62 巨人の切り通しとイベント報酬


 激しい熱風が吹き上がる。


「巨人の切り通し」。戦闘エリアは、その名の表す通り左右を切り立った崖に囲まれ、その正面には憤怒の表情を露わにした黒い巨人が立ち塞がっていた。


 熱風と共に舞い上がる火の粉が、雲霞うんかのように宙を漂い、視界を橙色の輝きで埋め尽くす。そしてその向こうから、黒い巨人が放つ燃え盛る火焔をまとった炸裂弾が、次々と戦闘エリア内のプレイヤーを襲った。


 炸裂弾が着弾と同時に弾け飛び、被害が拡大する。


 被弾に次ぐ被弾。エリア内に点灯する火傷マーカーが、みるみるその数を増やしていった。


 おっと!  HPがヤバいじゃないか。急がないと。


 [範囲回復][火傷解除 範囲拡大][範囲回復][範囲結界 状態異常][範囲結界 物理]


 リカバリに次ぐリカバリ。そして、またすぐ次の波の襲来。


 とても忙しい。でも今回は、大規模レイドとあって後方支援の参加人数も多く、俺以外にも回復チームと戦闘支援チームが組まれている。こうしてひと息つけるのも、そのおかげだ。


「ユキムラ君、GPの回復具合はどうだ?」


「そろそろ行けると思います」


「じゃあ、合図をしたらよろしく頼むよ」



 *



「物理Aチーム! お待ちかねの特攻の時間だ! 全員配置に付け!」


 黒い巨人の動きを見据えながら、レオンさんの合図と共に3000GPを投入。彼らの特攻に際して使うのは、この技。


【結界】[至高聖域]!


 相変わらずド派手なCGと共に、宙が裂け、みるみる亀裂が広がっていった。そして、眩い光の奔流の中から、有翼の巨大な戦乙女が顕現する。


 巨人VS巨人 ……まるで怪獣大戦争みたいだな。


 戦場に憤怒の咆哮が轟き、火焔を纏った黒い巨人が、戦乙女の構える白銀の巨大な盾に激突!


 巨人たちの間に、大きな爆発が起こる。


 舞い上がる火の粉。白銀VS黒、そして輝く火焔の橙・黄・赤。


 凄い迫力だ。圧倒される。押し寄せる熱量も半端ない。これ、VRだからいいけど、リアルならとっくに気道が焼けて、熱にやられているだろう。


 巨人たちの動きに合わせて大地が揺れる。


 花火のように尾を引く火焔が虚空に打ち上がり、幾本もの火焔条が錯綜して四方八方に飛散していった。だが、俺たちにそのダメージは届かない。


 そこへ、待ってましたとばかりに、嬉々として物理Aチームが特攻していく。


 うわースゲえ。蟻が角砂糖に群がるみたい。


 彼らの持つ、上級職の鍛冶師渾身の作である、特殊合金で作られた水属性の特効武器が、その威力を発揮した。特効武器から放たれる斬撃が、黒い巨人にヒットする度に、巨人の身体から濛々と水蒸気が立ち昇り、あちこちでボンボン爆発が起こる。


 巨人へダメージは……さすがだね。しっかり入っている。


 じゃあ、俺はGP回復のために祈祷するか。


 [回復の祈り]


【JP祈祷】がMAXになったせいか、あるいは【JP☆秘蹟】を入手したせいかは分からないが、祈りの最中にエフェクトがつくようになった。


 今みたいに、フル装備で聖銀色のゴージャスな「輝煌の典礼服」を着てそれをやると、俺の全身から立ち昇る白いオーラが服に反射し、キラキラ眩しくて仕方がない。エフェクトをカットできればいいのに。


 おやっ?


 戦場の戦乙女の体から、まるで俺と共鳴するかのように眩いオーラが立ち昇り始めた。神官系スキル効果上昇って、スキルを放った後でも効くのか?


 ……今更だけど知らなかった。


 まあいいや。今はそんな検証をする余裕はない。脳筋特攻がこの1回で済む訳がないから、次のために早くGPを回復しないとな。


 *


 繰り返される巨人同士の激突。テンションMAXの脳筋たちによる特攻。消費されるおびただしい量のポーション類。


 後方では破損した武器や防具の修復がせわしなく行われ、補充のポーション類が次々と運びこまれている。


 入念な下準備と、後方組の手厚いバックアップの甲斐があり、『爆炎魔人スルト』は、激しい地響きと共に地に伏し倒れた。


 一斉に湧き上がる歓声。皆で健闘を称え喜び合う。


 こうして、ひとつ目の解放クエスト『巨人の切り通し』は、初回討伐に成功した。



 ◇



《ISAO 映像処理班》


 壁面に設置された大型モニターに、現在進行中のレイドの映像が映し出されている。


「いいね、いいね。これはいい。予想通り巨人VS巨人、黒と白、悪と正義、非常に絵になる対比じゃないか」


「プレイヤーの一斉特攻もいけてますね。臨場感に溢れ、ヴィジュアルに訴えてきますよ、これ」


「おっ!? 結界スキル行使者が【祈祷】したのか。よしよし。追加エフェクトが出てきた。これでますます派手になるぞ。この神官も写してるか?」


「もちろんです。高位スキル使用時からロックオンして撮影カメラ1台振ってます」


「いいぞいいぞ。次の広報PVはこの巨人の激突映像を中心に編集しよう。これだけ派手なら、営業も文句は言ってくるまい」


「そう思います。このところ、第五陣の促販にキリキリしてますからね、営業の人たち。これなら喜びますよ」


「とうとう他社から競合するゲームが出てきたからな。相手は典型的な俺Tuee路線だから、やたら促販PVがド派手なんだと」


「若いユーザー層は、どうしてもそっち系統に取られちゃいますからね」


「この調子で、次のハルピュイアでもいい絵を期待したいな」


「そうですね。あちらもやり様によっては派手になりますから」


「上手くいくことを願おう」


 ◇


 解放クエスト「巨人の切り通し」が終わり、調査班は引き続き、解放された切り通しの南方エリアの探索に行って忙しいらしい。でも、俺たちには最早それは関係ない。


 で、行ってきました、レジャーエリア。


 アドーリアの街を出てすぐ西の山にあるその施設には、以前、【登攀】スキルを鍛えに1人で来たことがある。今回は仲間と一緒だ。


「ロッククライミング」「アスレチック」「ハイロープ」。


 用意されているメニューを、みんなでひと通り回った。こうしてワイワイ言いながらやるのは楽しいね。ついでに、【平衡感覚】【滑空】【登攀】のスキルレベルも上がった。


 そして、戻ってきた調査班の報告によると、切り通しの向こうには「ジュナス湖」という汽水湖があって、その湖の中に人魚(魚人の亜種)の住む水中都市があったそうだ。


 人魚か。ファンタジーっぽいね。以前、ジーク岬で見たセイレーンみたいな感じなのかな? 攻略が進んだら、その内行ってみたいね。


 ただ、その湖から東へは通行止めになっていて、現在は進めないということで、調査班の人たちは、調査を一旦切り上げてアドーリアへ戻ってきたそうだ。


 ……ということは、おれもいよいよ行かなくちゃな。グラッツ王国へ。


 これからどうするか?


 グラッツ王国へ行くには、一旦、ジルトレまで戻って常闇ダンジョンに向かう必要がある。でも、あちらでは単独行動になるわけだし、グラッツ王国に向かう前に、どこかで索冥の飛行仕様を調べておきたい。誰にも見つからずにそっと。


 それに相応しい場所って……。


 他のプレイヤーが入れない非戦闘エリアで、かつインスタンス。広く空間が開けていてノンビリできる場所。条件はこれだ。


 だったらあそこしかないでしょ。


 *


 目の前に広がるのは茫洋とした海原。空を自由に吹き抜ける風が、頬をなぶっていく。晴れ渡る蒼穹が眩しくて、思わず目を細めた。


 その蒼い空を背景に天翔けるのは、白く美しい一体の麒麟。


 霊峰ミトラス。


 その頂上に、俺はまた来ている。


 あの後、王都でみんなと別れ、ミトラス大神殿に寄って、マルソー大神殿長に事情を話した。今回はクエストでもなんでもなく、個人的な都合なのでどうかなって思ったが、索冥に会わせたら一発OK。快く渡航の手配をしてくれた。神獣様の威力って凄い!


 銀の林檎集めをしながら、こうして海をボーッと眺めていると、とても平和な気分になってくる。


 天気もいいし(悪い日があるのかどうかは知らない)、ちょっとしたピクニック気分だな。実際、敷物を敷いてお茶セットを広げながらの日向ぼっこだし。妖精たちも、いつも以上にのんびりとして寛いでいる。


〈乗ってみて〉


 自由に飛んでもらっていた索冥に声をかけられた。ここは遠慮なく背中に乗せてもらうことにしよう。


 鞍とかの馬具がなくてもいいのかなって思ったけど、何故か大丈夫。…というか、麒麟の場合、鞍を載せると背中の五彩の背毛が隠れてしまって、却ってよくないそうだ。


 ただ、掴まるところが首の辺りになるので、索冥が苦しくないか心配になる。


〈大丈夫。そのまま掴まってて。乗り方の練習になるから〉


 どうやら、騎乗の仕方を教えてくれるようだ。手綱なしで、両脚でしっかりホールドし、体を起こして体幹の位置を調整する。その練習を繰り返すと、うまく乗れるようになるらしい。


 せっかくここまで来たんだし、やるか!


 最初はやはり安定しなくて、グラついたり、落ちそうになったりして大変だったが、大空を飛び回ること、どのくらい時間が経っただろうか。新しいスキルが生えてきた。


【体幹支持Ⅰ】


 あと【平衡感覚】と【滑空】のスキルレベルも上がった。


 ちょっと調子に乗って飛び過ぎたかもしれない。時刻を確認するとかなり時間が経っていた。でもそのくらい楽しかったんだ。


 現実ではあり得ない、飛行する生き物に乗るっていうシチュエーションに、興奮せずにはいられなかった。


 ◇


 思いっきり空を満喫したあとは、寄り道せずにジルトレに戻った。


 先日、始まりの街の近くで出会ったイナバ君が、もう大神殿に来ていた。エリーにメールを送っておいてよかったよ。俺のいない間、彼がイナバ君の面倒をいろいろと見ていてくれたらしく、すっかり懐いていた。エリーって実は兄貴タイプだったんだな。


 俺も、支援系神官の育成方法について、イナバ君に助言をしてみた。熱心に聞いてくれたが、ジルトレに来て他の神官職のプレイヤーと接したのも、かなり刺激になったらしい。どのルートを選ぶか迷いが出ている感じだ。


 もっと俺が見てあげられればいいんだろうけど、予定が詰まっているしな。


 *


 自室で、落ちていた虹彩果樹の実を拾い集め、久々にアイテムボックスの整理をすることにした。容量にはまだ余裕があるが、ゴチャゴチャして使いにくくなってきたからだ。


 ISAOのアイテムボックスは、使い放題なのによくできていて、パソコンのように簡単にフォルダ分けができる。階層も3階層までOKで、文字制限はあるがフォルダ名もつけられる。


 武器・防具・消費アイテム・食材……と整理していくと、いつ手に入れたか覚えがないものが出てきた。


【銀の鍵[**の鍵]】権利者: ユキムラ ※譲渡・売却不可


 鍵?


 いったいどこの鍵だ?詳細情報は……出ない。アイテムボックスから取り出してみる。かなり大ぶりだが、見た目は至ってシンプルな形の鍵だ。クエスト関係か? まあ、今は保留だな。いずれ何かわかるのだろう。


 さて、「巨人の切り通し」の報酬だ。


《解放クエスト「巨人の切り通し」成功報酬》参加上限150名


[参加報酬]

 ・50000G・HP回復ポーション(5)・MP回復ポーション(5)


 [討伐全体報酬]※参加人数で調整された数値です。個人のアイテムボックスに配布されます。

 ・100,000G

 ・HP回復ポーション(25)

 ・MP回復ポーション(25)

 ・アイテム選択券[山]1 ※初回討伐限定アイテム

 ・『爆炎魔人スルト』の素材召喚券 5

 ・『爆炎魔人スルト』R素材召喚券1


 [討伐個人報酬]※貢献度により調整された数字です。個人のアイテムボックスに配布されます。

 ・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1

 ・SSR以上確定/アクセサリ召喚券 2

 ・アクセサリ装備枠拡大券 2

 ・S/Jスキル選択券 1

 ・『爆炎魔人スルト』武器/防具/アクセサリ召喚券 1

 ・『爆炎魔人スルト』アイテム選択券 2


 〈素材召喚券〉・『爆炎魔人スルト』の{皮革・毛・眼・心臓・血・肝・魔石 }から1つ

 〈R素材召喚券〉{・爆炎弾・爆炎鉱・爆炎玉}から1つ

 〈武器/防具/アクセサリ召喚券〉

 ・爆炎魔人の火焔剣

 ・火鼠の籠手・火鼠の脚甲・火鼠の胸当・火鼠の皮衣

 ・火鼠の護符[耐火焔]・巨人の護り[耐衝撃]

 〈爆炎魔人スルト アイテム選択券〉※初回討伐限定アイテム

 ・不尽木 1 ・ 火浣布1 ・火鼠毛 1


 〈アイテム選択券[山]〉※非戦闘エリア用アイテム。取り外し、再設置可能。

 ・丸太橋

 ・丸太梯子

 ・丸太船

 ・魔法のピッケル

 ・魔法のロープ

 ・雪山縦走セット[耐寒]

 ・原木栽培[茸]※屋内/屋外どちらにも設置出来る

 ・筍栽培セット ※屋内/屋外どちらにも設置出来る

 ・山の清流・ワサビ栽培セット ※屋内/屋外どちらにも設置出来る


 いろいろ貰ったけど、チケットはどんどん引いてしまおう。


 ・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1

 →SSR 【瑞雲の腕輪】MND+30 LUK+50


 ・SSR以上確定/アクセサリ召喚券 2

 →SSR 【金銀砂子のロケット 】INT+20 AGI+50 拡張スペース2

 →UR 【メギンギョルズ】「帯」※神力上昇 最も高いステータス値を強化後1.2倍にする


 ・『爆炎魔人スルト』武器/防具/アクセサリ召喚券 1

 →SSR【火鼠の皮衣】VIT+60 INT+20 ※耐火焔


 ・『爆炎魔人スルト』アイテム選択券 2

 →保留


 ・アイテム選択券[山]

 →・原木栽培[茸]※屋内/屋外どちらにも設置出来る


 おっと! ……来たよUR!

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