48 エリア解放/掲示板

 今日はレジャ─day。


 川釣り目的でハドック山の麓、魚人の里近くの渓流に来た。


 ウォ─タッド湖から流れ出るこの渓流一帯は、紅葉の真っ盛り。気候設定が秋のエリアだ。


 柔らかな木漏れ日を浴びてキラキラ光る水飛沫。


 緩急のある透き通った水面には、点々と苔むした岩が顔を覗かせている。岩の上に散る様々な形をした色とりどりの葉や、背景に見える濃い緑と鮮やかな赤や黄の色彩は、その対比がとても美しい。


 釣りスポットの入口には、「遊漁券」を発行したり、釣り道具を販売・レンタルしたりしてくれる管理事務所がある。


 早速購入。


「全員、初心者用の釣竿セットと釣りウェアのレンタルチケット付き遊漁券をお願いします」


 初心者用釣竿セットは、清流用の釣竿と仕掛け一式(釣糸・オモリ・釣針・目印)に、タモ、万能エサまで付いている。レンタルウェアに着替えて、準備万端。


 では、釣り開始。


 川の流れに仕掛けを流す。水の色が濃く見えるところに流すといいですよ、と管理事務所の人が教えてくれた。オモリが沈んでいき、蛍光オレンジの目印が水中でゆっくりと流れているのが見える。


 なんかこういうのいいな。


 ひんやりとした空気。清流のせせらぎと、時々撫でるように吹く風に、葉擦れの音。


 ……………。


 なんかボ─ッとしちゃった。どのくらい時間が経っただろう。


 !!


 流していた目印が止まり、水中へスッと引き込まれた。


 きた!


 上流方向に竿を引くと、透き通る流れから斑紋のある銀色の魚が浮上してくる。


 魚を水面に引き寄せて、タモで捕獲。


 釣り上げた魚は全長15cmくらい。背中や鰭は黄色味がかっていて、側面は薄っすら紅色だ。その上に青く美しい小判型の斑紋が浮かんでいる。


「とても綺麗な魚ね」


「本当ですね」


 釣った魚を見ながら、2人とも笑顔でニコっとしてると、


「ユキムラも釣れたか。いいぞ! この調子でどんどん行こう!」


 魚好きのトオルさんが張り切っている。


 ……塩焼きにすると、すごく美味しいんだって。


 それを管理事務所の人に聞いて、みんなやる気になったんだけどな。


 さあ、もっと釣るぞ!



 *



 管理事務所の横に併設されている野外バ─ベキュ─場で、早速調理を始めた。


 バ─ベキュ─セットは俺も持ってるけど、バ─ベキュ─場に囲炉裏風の大型コンロが設置されていた。釣った魚を串に刺して、じっくり炭火で焼くことができるそうなので、それは利用しないとな。専用の竹串も売っていたので購入。


 ・包丁で魚の腹を開いて内臓を出す。ついでにエラも取り除く。


 ・一旦水洗いした後、水気を拭く。


 ・口から竹串を刺し込み、背骨を串に巻きつけるようにらせん状に刺していく。背骨の上を背中側→腹側へ、背骨の下を通してまた背中側へ。いわゆる「踊り刺し」。こうすると、焼いている途中で魚がクルンと串を中心に回ってしまうのを防げるんだって。


 ・表面が薄っすら白くなるまで塩を振る。尻尾と背びれには、焦げ防止用にかざり塩をつけておいた。


 ・炭から20cmくらい離して串を立てる。最初は魚の背中側を火に向けておく。


 火おこしはオ─トでできるので簡単。炭火なのに火力調節にオ─ト機能がついていた。マニュアルでもできるらしいけど、ここはオ─トで。


 ・最初は強火でこんがりと皮を焼く。皮が乾いたらひっくり返す。あとはじっくり弱火で。


 ・腹に溜まった水分がポタポタ落ちてこなくなったら焼き上がり。


 今回釣りあげたのは「妖精魚」という名前の魚で、淡白だがホロッとした白い身に旨味があり、その塩焼きは、皮がパリッと香ばしくて中はふっくら。とても美味しかった。


 こうして釣りを満喫した俺たちは、一旦ジルトレに戻った。


 次に行く予定は、トリム北東にある牧場だ。



 ◇



 みんなの予定が合うまで、いつものように大神殿で仕事をしていた。すると、


《ポ─ン!》



《 ISAOをご利用中の皆様にお知らせします。


 先ほど、ジオテイク川のエリアボス〈水脈の三麗妖〉の3体全てが討伐されました。


 これにより、ジオテイク川下流域以西への通行が可能になり、


「歓楽の街クォ─チ」「渓谷の街ダカシュ」「西端の街アド─リア」の3つの街が解放されました。


 今回の解放を記念し、運営よりユ─ザ─の皆様に以下のアイテムをプレゼント致します。


 ・ジオテイク川 「渡し舟チケット」2枚


 ・ジオテイク川 「遊覧船乗船券」1枚


 ・「歓楽の街クォ─チ」リゾ─ト施設利用券 1


 ・「渓谷の街ダカシュ」温泉施設利用券 1


 ・「西端の街アド─リア」竜の谷体験チケット 1


 引き続きISAOをご利用下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。ISAO運営。》


 王都の西に、一気に3つも街が解放。


 倒したエリアボスも3体だもんな。それもありか。新しい街は気にはなるけど、行くのは攻略組の情報を待ってからでも遅くはない。


 それにしてもチケットがいっぱいだな。


 乗船券や利用券は予想がつくが、「竜の谷体験チケット」って、何だ?



 ◇



 掲示板【転職】ル─トを探す旅【Part76】


 1.名無し

 The indomitable spirit of adventure online (ISAO)の転職ル─ト情報交換の場です。

 荒らしはスル─。特定プレイヤ─への粘着・誹謗中傷禁止。マナ─厳守。


 次スレは>>950

 雑談は『雑談掲示板』へ http://***************

 前スレ【転職】ル─トを探す旅【Part75】 http://***************

 関連スレ【テイム】どこまで可能か?いろいろ試そう【Part21】 http://***************


 *******


 178.名無し


 来た来た来た来た──────っ!


 179.名無し

 >>178

 どうしたお前?

 アナウンス聞いたから想像はつくが


 180.名無し

 待望のアナウンスだったな


 181.名無し

 やっと来たのである


 182.名無し

 さあさあさあさあ、今すぐ西へ向かうんだ! Go Westだ!


 183.名無し

 条件が分かってからでよくない? 攻略組もこれからっしょ


 184.名無し

 ぬるい! 一番乗りを目指すのだ


 185.名無し

 >>184

 ISAOだよ

 そう簡単にはいかないよ


 186.名無し

 さっきから何の話?


 187.名無し

 お前アナウンス聞いた? あるいは、お知らせ見た?


 188.名無し

 まだ

 今ログインしたばっかり


 189.名無し

 ログイン→ここ直行?


 190.名無し

 >>189

 ここでログアウト中の情報をチェックしてる


 191.名無し

 >>190

 お知らせくらい見た方がいいぞ

 西の街が解放されてる


 192.名無し

 なぬ? 行ってくるわ


 *


 878.名無し

 竜の谷に行ってきた


 879.名無し

 >>878

 早いなお前、早過ぎる


 880.名無し

 >>879

 ジオテイク川を越えると海岸沿いに街道がある

 馬で飛ばしたら、こんなもんだぞ


 881.名無し

 >>880

 ご苦労さん

 で、どうよ? 竜の谷


 882.名無し

「体験コ─ス」の他に、いろいろコ─スがあった

 だが非常に厳しいと言わざるを得ない


 883.名無し

 >>882

 できる限り詳しくヨロ


 884.名無し

 まずな「体験コ─ス」はチケットを買えば誰でも何回でも受けられる


「騎竜コ─ス」と「竜飼育コ─ス」に分かれていて難易度は初級

 それぞれ陸竜か飛竜かを選んで体験できる


「騎竜コ─ス」は1人乗りはNGで、インストラクタ─に後ろから支えてもらって乗る


「竜飼育コ─ス」は、いわゆる触れ合いだな

 おやつやったり、ブラシかけたり


 885.名無し

 体験コ─スは、まんまだな

 他のコ─スは?


 886.名無し

 まず最初に「騎竜入門コ─ス」を受講し、基本的な騎乗実技と飼育方法、座学を履修する

 履修し終わると「飼育修了コ─ス」を受講できるようになる

 難易度は両方とも中級


「飼育修了コ─ス」では、飼育と座学の指導を受け、【竜飼育】のスキルを得られたら修了

 修了者だけが次の「騎竜修了コ─ス」に進める


「騎竜修了コ─ス」は難易度は上級で騎乗実技と座学の指導があり

【騎竜】のスキルを得られたら修了


 これらは全て「陸竜」と「飛竜」別々のコ─スになる


 887.名無し

 >>886

 情報サンクス

 確かに大変だが転職クエストだと思えばそんなもんじゃないか?


 888.名無し

 いや

 厳しいと言ったのはコ─ス受講条件についてだ


 889.名無し

 >>888

 コ─スを受講するのに条件があるのか?


 890.名無し

 受講資格は指定スキルの所持だ

 下の5つのスキルの内、入門コ─スを受講するには3つ

 騎乗修了コ─スを受講するには、全て習得している必要がある


 資格(陸):【S竜言語】【S耐衝撃】【S体幹支持】【盤石】【平衡感覚】

 資格(空):【S竜言語】【S空歩】 【S遮蔽空間】【跳躍】【平衡感覚】

 ※【S竜言語】は入門コ─ス受講に必須のスキル


 891.名無し

 グハァ! マジかよ

 5つだぁ!?


 892.名無し

 マジだ

 さらに全てのコ─スにおいて

 クリアするには技術や知識だけでなく

 竜から得られる好感度を規定の数値以上に稼がないといけない


 ちなみに「騎乗修了コ─ス」を修了すると

 騎士系職業についているプレイヤ─限定だが王都竜騎士団の入団テスト受験資格をもらえるそうだ


 893.名無し

 >>892

 よくわかった

 詳細情報ありがとうな

 お前、超いいやつ


 894.名無し

 >>892

 マジ、サンキュ─

 わいも感謝


 895.名無し

(^人^)


 896.名無し

(^人^)


 897.名無し

(^人^)


 898.名無し

 スキル5つは到底無理だ

 俺【跳躍】しかもってない


 899.名無し

 俺は【S空歩】と【跳躍】を持っているがS/Jスキル枠は満杯

 S/Jスキル選択券の余りは1枚

 入門コ─スにはいけるが、結局もう1枚S/Jスキル選択券が必要


 どっかで緊急イベント起きねえかな


 900.名無し

 >>899

 俺も似たような感じ

 Sスキル3つは無理だわ


 901.名無し

 S/Jスキル選択券が貰えるのって解放イベント・防衛イベント・緊急イベントだけ?


 902.名無し

 >>901

 トリム以降の……って注釈がつくが、そうだと思う


 903.名無し

 ひとつ思い出したわ

 【平衡感覚】は入門コ─スを受けている内に習得できることが多いって体験施設の人が言ってた


 904.名無し

 >>903

 追加情報サンクス


 905.名無し

 じゃあ、やっぱり問題はSスキルだな


 906.名無し

【盤石】って、どうしたら取れるか知ってるか?


 907.名無し

 >>906

 陸竜目指すのか?


 908.名無し

 俺は重装騎兵だから飛竜は無理


 909.名無し

 >>906

 情報屋に聞いてみたら? Gはかかるけど早いよ


 910.名無し

 >>909

 そうするわ

 それさえあれば竜の谷に篭れる


 911.名無し

 >>910

 他のは全部持ってるってこと?


 912.名無し

 >>911

 まあな

 「④次職」になった時に増えた2枠が残ってる

 転職クエスト用にキ─プしてあったんだが、ここで使っちまってもいいと思ってな


【S耐衝撃】は既に持っているから、その2枠で【S竜言語】【S体幹支持】の分は大丈夫だ


 913.名無し

 >>912

 竜騎士第一号かもな

 頑張れよ! 俺もあとに続けるように頑張ってみるわ


 914.名無し

 >>913

 おう! ありがとうな

 どうなるか分からないがやってみるわ



 ◇



 ところ変わって。


《ピコン!》

《【乗馬Ⅰ】を手に入れました》


 よし! 無事GET! 一番乗りか?


「おっ! ユキムラ。もしかして、もうスキルGETした?」


「はい。今ちょうどアナウンスが来ました」


「早いな! さすが10代」


「トオルさんだって、まだ20代前半じゃないですか」


「ま・だ・な。もうすぐ後半になる」


「誕生日が近いんですか?」


「来月だな」


「じゃあ、お祝いしなくちゃ」


 俺たちは今、トリムの東の牧場でレンタル乗馬を体験中だ。


 最初は馬についての講習があって、次に馬に乗り降りする練習。それから騎乗、休憩してまた騎乗と、ゲ─ム内で1日がかりだ。乗馬なんて初めてだったけど、馬が大人しくて扱い易い。


「ユキムラにはこの間、素材とバフ菓子をいろいろもらちゃったからな。それで十分だ」


「あれは、アイテム強化の代金として渡してますから。お祝いは別ですよ」


「そうだぞ! 最近飲み会してないしな、みんなで祝うか!」


「何の祝いだ? 誰かが結婚でもするのか?」


「ガイさん、違いますよ。トオルさんの誕生日祝いです」


「おう。そりゃいいな。金欠だが、それくらいなら大丈夫だ。景気良く飲もうぜ」


「ユキムラ以外、俺たち全員金欠だもんな。また真珠でも狩りに行くかね」


 俺以外全員、工房を構えたせいで、貯えを一気に放出して懐が寒いらしい。


「まあ、俺はジンと共同で工房構えたから、だいぶ楽できたけどな」


「俺たちは、ユ─キダシュで長いこと缶詰だったから、空っ穴だよ。な、ア─ク」


「そうっす。素材をちまちま製品化して、小銭を稼いでいるところっす」


 そうやって雑談をしていると、キョウカさんが近づいてきた。


「あなたたち、もしかしてもうスキルをGETしたの?」


「いや、GETしたのはユキムラだけだ。あとは貧乏談義だな」


「もう、忘れようとしてるのに。こんなに貧乏だなんて、ゲ─ム始めて以来かも」


「俺たちはβから資金を一部持ち越しているから、正式配信でゲ─ムを始めてからカネで苦労するのは初めてだよな」


「じゃあ、お金持ちのユキムラ君主催で、トオルの誕生日祝いをするか」


「な─に言ってるのかしら。割り勘よ。ワ・リ・カ・ン! ユキムラさんも、オジサン連中を調子に乗せないでね」


「オジサン連中だって。ひでえ」


「俺は入ってないっすよ。キョウカさんより年下だから。該当者は3名っすね」


 ア─クは俺と一つ違いだから、キョウカさんより年下になる。


「俺もまださすがにオジサンって年じゃないぞ」


「俺もだ」


「ひでえ。お前らだって、すぐ30になっちまうんだからな」


「ガイさんは、オジサンでも春が来たみたいだからいいじゃないですか。俺、こないだ見ましたよ。若い女の子と仲良く話してるところ」


「ガイさん。犯罪はダメだ、犯罪は」


「鍛冶師仲間だし、そんなんじゃねえよ。それに、あいつは成人してるからな!」


 どうやらガイさんに、春が来たみたいだ。うらやましいぞ。


「あららまさかの本命? 裏山〜」


「お前らだって人のこと言えないだろ! おい! ユキムラ助けろ!」


「俺ですか!?」


「そうだな。ユキムラ君にも、今度じっくりと話を聞かなきゃいけなかったな」


「みんな煩いわよ。早くスキルGETしたかったんじゃないの?」


「あれれ? キョウカちゃん、動揺してる? なぜかな〜?」


 なぜでしょう? 俺もそこのところは詳しく知りたい。


「もう! 無駄話はおしまい! レッスンに戻るわよ!」


 残念。聞けなかった。

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