37 常闇ダンジョン③
メールでやり取りした後、俺は一旦、冒険者ギルドに寄り、いらない素材を売却した。これで、だいぶアイテムボックスがスッキリしたかな。
そしてすぐにジルトレを出て、ガイアスさんの待つ「ドワーフの集落」に向かった。
「ドワーフの集落」は、ハドック山の中腹にあり「鉱山ダンジョン」のすぐ側に位置している。以前「鉱山ダンジョン」に行った際に、1度だけ立ち寄ったことがある。
住民はもちろん、長い髭を生やした気難しそうなNPCドワーフたちだ。なかにはプレイヤーのドワーフもいるらしいけど、正直俺にはその区別がつかない。
プレイヤーでドワーフになったのは、第一陣では7人いて、全員男性。第二陣は16人で、これも全員男性。女性プレイヤーがいないのは、ドワーフは女性でも髭がモジャモジャだかららしい。その辺りを妥協しないのが、ISAOの運営らしいっていうか……。
到着した集落の各所にある鍛冶場からは、ひっきりなしに槌音が響いている。いかにもファンタジーといったその様子には、ちょっとワクワクするね。
あっ! いたいた。
「ガイアスさん、すみません、お待たせしました」
「いやあ、すぐに来てくれてマジ助かる。困ってたんだ」
「どうされたんですか?」
「転職クエストで素材を集めなきゃならないんだが、数がやたら多いのと収集の場所がな。この辺りのフィールドと『鉱山ダンジョン』……はなんとかなったんだが、『常闇ダンジョン』にも行く必要があるんだ」
常闇か。このところ縁があるな。
「常闇なら、俺さっき行って来たばかりです」
「うんうん。『流星』に『加重』なら、最下層まで行ったんだろう? それもサクッと。サクサクっと!」
「……そうですね。サクッとかどうかは分かりませんが、割とペースは速かったと思います」
「じゃあ、ヴァンパイアなんて一捻り?」
「一捻りとまではいきませんが、【結界】を使えば拘束できるので、割と安全に倒せました」
実際、あのダンジョンは本当に俺と相性が良くて、今回は特に苦戦した覚えはなかった。
「流石だ! さすが中級職神官だな! 実は頼みたいのは、そのヴァンパイア狩りなんだ。ヴァンパイアの心臓石9個、グールの魔石を600個欲しい」
「それは、確かに多いですね」
「3人分だからな」
「3人分?」
「そうなんだ。今ここで転職クエストを消化しているのが、俺を含めて3人。今までの課題では、3人で協力して効率よく素材を集められていた。全員ここまで来ているくらいだから、それなりに闘えるし、問題なく上手くいっていたんだ。ところが最後の最後で『常闇ダンジョン』だ。相性が悪過ぎる」
相性か。
「もしかして、物理職しかいないとか?」
「その通り。付与ならともかく攻撃魔法なんて誰も使えないさ。全員、鍛冶師だからな」
「なるほど。事情は分かりました。素材はパーティで集めればOKって感じですか?」
「話が早くて助かる。パーティを組んでいれば、メンバーの誰かが倒して得たドロップ素材は、自力で入手した扱いになる。図々しい頼みだがやってくれるか? 後で必ず相応の礼はする」
「もちろんです」
「ありがとうな。いやあ、本当に助かる。じゃあ早速だが、メンバーを紹介するから、ついて来てくれ」
*
「ガイさん、どうでした?」
「おう! 快く引き受けてくれたよ。紹介するぜ。我々の救世主、ユキムラ大司教だ!」
ガイアスさんのクエスト仲間は、若い女性プレイヤーと男性プレイヤーで、それぞれ大きな
「初めまして。ユキムラです。微力ですがお手伝いさせて頂きます。よろしくお願いします」
「うわっ。ご丁寧にありがとうございます。私はキャサリン。キャシーって呼んでね。来てくれて本当にありがとう」
「俺は、ムライだ。よろしくな。頼りにしてるぜ!」
「よし! 時間が勿体無い。出かけよう!」
「「「おう!」」」
*
「いやー。こんな楽でいいのかね。何もすることがないぞ」
「なんか申し訳ないわよね。後ろについていくだけなんて。ハンマーに聖属性付与してもらったけど、使う余地なんて全然ないし」
「ここは、ユキムラに任せておけば大丈夫だ。俺たちが出て行く方が邪魔になる。ほらっ」
「うわあ。ゴーストの集団が、みるみる蒸発していってる。すごい勢い」
「大量虐殺って感じだな。いやもう死んでいるんだから、大量昇天か」
「偉い神官様に清められて、ゴーストたちも天国に行けて喜んでいるだろう」
「違いねぇ」
そんな調子で、目的のグールがいる地下15階に突入し、各階を掃除……じゃなくて浄化しながら順調に地下20階まで到達した。ヴァンパイアは、フロア最奥の中ボス部屋にいる。
「ユキムラ、グールの魔石は今何個ある?」
「えっと……196個ですね」
「すごい! ほぼ1人分じゃない」
「取り零しがないから、メチャ集まるのが早いな」
「ヴァンパイアを周回しながら、リポップ待ちの間にグールを倒せば、あとは帰り道でなんとか集まりそうだ」
「ユキムラ君、GPは大丈夫?」
「はい。まだまだ余裕があります」
「ちなみに最大GPって聞いてもいい?」
「2000ちょっと超えたくらいですね」
「そりゃあ、桁が違うな、桁が」
「そんだけあれば大丈夫だと思うが、万一、危なそうなら言ってくれ。グールなら俺たちもそこそこ闘える。まっ、要らぬ心配みたいだがな」
「分かりました。その時はよろしくお願いします。じゃあ先に進みますね」
*
「ユキムラ君、超ジェントルマン。マジいい人」
「おう。あいつはいい奴だぞ。巨乳好きだがな!」
「おっ。同士!」
「やーね。これだから男って。どんだけオッパイが好きなのよ」
「大抵の日本人男はオッパイ星人だぞ。キャシーは結構ある方だからいいじゃないか」
「そういうことじゃないの、もう」
「おまけにユキムラは年上属性だ」
「そこは袂をわかつだな。俺は若い子が好きだ」
「誰もあんたの趣味は聞いてないわよ。ユキムラ君、年上OKか」
「おう。キョウカのライバルになるか?」
「えっ! そうなの?」
「多分な。まだはっきりしてないけどな。割り込むなら、今が最後のチャンスだ」
「キョウカに言いつけるわよ。それに私、略奪は趣味じゃないの」
「それは正解だ。あれ程嫌なものはないからな」
「あれ? ガイさん、まさか経験者?」
「まあな。俺バツイチだし。つまり今はフリーだ。じゃあ、キャシーは俺にしておくか」
「なんでそうなるのよ。誘うなら、もっとちゃんと誘いなさいよ」
「あれ? 脈あり?」
「そうとは言ってないわ。馴れ合いから始まる恋愛は『ない』ってこと」
「女は厳しいなぁ。男心は繊細なんだよ。正面からぶつかって玉砕とか怖いわけ」
「俺は正面からも行けるぞ。それで一回失敗したわけだが」
「ガイさんは、逞しいっすね。俺はなかなか本命には行けないタイプ」
「それは、是非ユキムラを見習った方がいいな。あいつは正面から行くのを避けているようでいて、実は本命一直線な男だ。性格も実直だし、一見優男に見えるが、結構な武闘派だ」
「今1人でガンガン敵を屠っているのを見ると、武闘派なのは納得」
「うん、凄いね。浄化しながら棒で捌いてる。いや、棒で捌きながら浄化してるって感じか」
「武闘派って、何か武術経験者なの?」
「剣道三段って言ってたな。高校までやっていたそうだ」
「リアルスキルあるのに、剣士とか刀士は選ばなかったんだね」
「刀を持つと
「おー。なんか武士っぽい」
「カッコイイね」
「いやあ。あいつマジ、カッコイイぞ」
「確かに雰囲気的にはイケメンかもね。背が高くてスラリとしてるから、資格はありかな」
「……まあ。そういうことにしておこう」
「なんか言った?」
「いや、なんでもない」
「そろそろヴァンパイア部屋に着くんじゃないか?」
「あっ。ユキムラ君が止まった。あそこに集合!」
*
いよいよ中ボス部屋だ。
念のため、みんなの武器に聖属性付与をしてからヴァンパイア部屋に侵入した。
死角から不意打ちを狙ってくるヴァンパイアを【結界】[聖籠]で拘束するのに成功してからは、みんなでタコ殴りだ。
「ヴァンパイア涙目だな、こりゃ」
「聖属性凄い。ここでは無敵」
「よしっ。心臓石GET! 残り8」
「他にこの階層に来ているパーティはいなさそうだから、リポップ用にタイマーを仕掛けておけば、並んでいなくても平気そうですね」
「じゃあ、さっさとグール狩りに行くか」
*
「3時間強で終了! すごい! お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした」
「いや、俺疲れてねえし」
「俺たちは、これから疲れるんだよ。ユキムラ、今回は本当に助かった。ありがとうな」
「本当。ユキムラ君に感謝!」
「ユキムラ、ありがとう!」
「いえ。俺も楽しかったんで。困った時はお互い様ですから、また必要だったら誘って下さい」
「こちらこそだ。そうだ。『流星』と『加重』の件な。強化に使えると思うんだが、ジンともちょっと相談してみるわ。あと、転職してからやった方がいい結果が出ると思うんで、悪いがもうちょっと待っていてくれ」
「お忙しいところ済みません。待つのはもちろん大丈夫です。俺も明日から、次の転職クエストの準備に入るみたいなんで」
「おう! そっちこそ忙しいのに、付き合ってくれてありがとうな。じゃあ、ジンと話した結果は、後でメール入れるわ」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃあ、ユキムラ君またね〜。バイバイ」
3人に見送られて、ドワーフの集落から俺は立ち去った。
今日はよく寝られそうだ。
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