13 「龍が淵」の攻防①

  湿地帯のほぼ中央に鎮座する、禍々しい黒く巨大なドラゴン。今、その首が後退し、ゾロリと剥き出しになった鋭い牙を見せつけるように、その大きな顎が上下に裂けた。


「ブレス来るぞ! 散開!」

「盾部隊、密集隊形! 後衛後退!」


 直後、不浄を帯びた猛烈なブレスがレイド隊を襲う。壁となった盾部隊の大半に、「不浄」によるステータス異常が点灯し、それによって、さらにHPが大きく削られる。


「聖水!」

「耐えろ! あと10秒!」


「ブレス強過ぎ。さっきより威力増してないか?」

「『毒』だ。毒の霧が混ざってる」


「アンチポイズン! 『毒消し』もだ」

「HPヤバい! 『衰弱』と『毒』と両方ついてる」


 後方から、支援部隊の手によって、次々と回復アイテムや状態異常の治療アイテムが送られてきた。盾部隊に配属されていた戦闘系神官職による治療も行われている。


「ほれっ、回復薬。これでしのげ」


「サンクス。マジ助かる」

「しかしマズイな。ポーション類、ドバドバなくなってるぞ」


「俺もうGPない。スマン」

「いや、よくやってるよ。なんだこの無理ゲー」


「おっ。ブレス終わった。俺、ポーション類補充に一旦下がるな」

「おう。多めによろしく。俺もだいぶ減ったわ」


「いや〜こんなので、最後まで持つのかね」

「仕切り直しかもしれんな」


「うん。なんか無理ぽ」



 


《冒険者ギルド会議室》


「第二次レイド討伐に向けて、お集まり頂き感謝する。まず始めに、前回の作戦で判明した敵の情報を開示する。続いて、被害状況、使用した消耗品・破損した備品の報告。その後、それを元にした作戦の練り直しに移ってもらう予定だ」


「では、情報ギルドから報告させて頂きます。先ほどお配りしました、お手元の資料をご覧下さい」


 *


「そもそも唯のドラゴンゾンビじゃなかったっていうのがな」


「『邪霊龍リントヴルム』。外観はβのドラゴンゾンビとほぼ変わらないのに、HPを1本削るとブレスに毒が入るとか。嫌らしい修正だな」


「βでは何本まで削ったんでしたっけ?」


「2本だな。2本目を削りきった後のブレスで消耗品が枯渇して撤退した」


「それと比べれば、強化されたにも関わらず、3本目の半ばまでいった今回は進歩ってとこか」


 予想していた以上に敵が強化されていた。しかし、βテスト時よりもレイドが進捗したことで、初回討伐に失敗したにも関わらず、会議室に集まったプレイヤーの表情は明るかった。


「聖属性武器・防具と上級聖水のお陰だな」


「【浄化】もよく効いてたな。特に『聖女』さんの【範囲浄化】」


「ほかの祭司や司祭も頑張ったけどな。『聖女』さんのは確かに威力が明らかに高かった」


「やっぱり『住んでる人』はMND高いのね。【浄化】の効果って、MND依存でしょ?」


「『聖騎士』も活躍してたもんな。『聖剣』持って『聖鎧』着た『聖騎士』の一撃で、かなりHP削れてた」


「キラキラしてたよな、なんかあの人。光ってなかった?剣と鎧」


「不浄の霧に触れると、『聖なる武器』や『聖なる防具』はああなるそうだ」


「かっちょええな」



 *



「では、第二次討伐は現実時間で一週間後。それまでに、分担に応じて消耗品と備品の準備を各自よろしくお願いします」


「それと『神殿の人』への交渉もよろしく頼む。必要なら、俺や情報ギルド員も説明に行くので、声をかけてくれ」


「了解。でもあまりアテにしないでね。自信ないわ」


「なんか難しい人なのか?」


「いいえ、とてもいい人よ。ただいつも忙しい人なの」


「そうか。でも、出来れば参加してもらいたいので、くれぐれもよろしく頼む」


「わかったわ。上級聖水も頼まないといけないし、この後、『神殿』に寄ってみるわ」





《施療院》(キョウカ視点)


「すみません。ユキムラさんがこちらにいらっしゃると伺ったんですが」


「はい。司教様は奥の控室でご休憩中です。お見えになったらお通しするようにと仰ってましたので、直接お部屋の方へお訪ね下さい」


「ありがとう。では、入らせてもらうわね」


「どうぞ、お通り下さい」


 ふぅ。


 ここは、いつ来てもなんか緊張するわ。だってNPCの皆さん、ユキムラさんに対して凄く敬ってる感満載なんだもの。


 まあ、現時点ではただ1人のプレイヤー司教で、その中でもエリートであるらしい「正司教」は、この街ではNPCにすらいないらしいし。


 さらに、ここ施療院には、沢山のNPCが治療を受けに来ているらしいから、なるべくしてそういう扱いになっているんでしょうね。NPCの好感度、突き抜けてそう。


 通路を通り、控室のドアを軽くノックする。〈コンコン!〉


「キョウカです。ユキムラさんはご在室ですか?」


 ガチャ! っという音と共に、ドアが内側に開かれた。


「キョウカさん、お待ちしていました。中へどうぞ。美味しいお茶が手に入ったんですよ」



 *



 うーん。癒し。


 NPCが押し寄せるのも納得。美形ってわけじゃないのよ。並よりやや上くらいの容貌なんだけど、この持ってる雰囲気がいいの。癒されオーラっていうか、いわゆる雰囲気イケメンってやつね。


 お茶も美味しいし……って、いけないいけない。本題に入らなくっちゃ。


「ユキムラさん、第二次レイド討伐が、現実時間の1週間後に決まったんですが、ご都合どうかしら?もしよければ、参加して欲しいって前線組の人たちにお願いされてきたの」


「えっ? そうなんですか? 俺なんかで役に立てるのなら参加してみたいですけど、そんなに神官が足りていないんですか?」


「もうね。全然足りていないわね。βの時より入念に準備したつもりだったんだけど、敵も予想以上に強くなっちゃっていて。ユキムラさんが参加してくれたら、とても心強いわ」


「キョウカさんに、そう言ってもらえると嬉しいです。では、是非参加でお願いします」


「じゃあ、参加で返事をしておくわね。私もみんなにいい報告ができて嬉しいわ。今だから言うけど、ユキムラさんが不参加って聞いた時、みんな残念がっていたのよ」


「そうなんですか? それを聞いたら、やる気になっちゃいますよ、俺」


「大歓迎。その勢いで、厚かましいかもしれないけど、聖水作成もお願いしていい?」


「もちろんです。1週間あれば、ご注文数は揃えられると思います」


「助かるわ。今回は量が多いからどうかなって思っていたから」


「最近は、『祈祷』するとかなりGPが回復してくれるようになったので、作製がだいぶ楽になったんです」


「頼もしいわ。私も頑張らなくっちゃ。そうそう、レイドまでに新しい神官服が出来上がると思うの。アクセサリ付きで、かなりMNDが上がるはず。出来上がり次第、持ってくるわね」


「よろしくお願いします。服に負けちゃわないといいんですけどね」


「大丈夫。きっと似合う。楽しみにしていてね」


「はい。お待ちしてます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る