「不屈の冒険魂」 [ISAO]The indomitable spirit of adventure online【Web版】
漂鳥
第1章 始まりの街
01 プロローグ
「やーん♡ 黒髪
「二重くっきり、深い〜。天然であれか。睫毛長〜い。横顔まで綺麗。いつ見てもイケメン♡ カシャッ!」
「メチャ足長いし♡ 座っててもスタイルいいのが分かるって、マジカッコいくない?」
「眼福だわ♡ 癒し♡ 同じクラスとか、超ラッキー♡」
「萌え萌え♡ カシャッ!」
……煩い。それにカシャ! ってなんだよ。断りもなく勝手に写真を撮るなよ。
休み時間。廊下の外からかしましい声が聞こえてくる。教室の中からもだ。全て女子のハイトーンな声。その発声元には、隣のクラスの子もいれば下級生もいる。
どこぞのアイドルがこのクラスにいるのか?
いや。ここはごくありふれた公立高校に過ぎない。芸能人なんて、まさかいるわけがない。
……自惚れでなく、あれは全て俺のことを指して言っている。
*
身長184センチ。クラスの男子の中では高い方かな。
子供の頃から剣道をやっていた甲斐があって、程よく筋肉のついた細マッチョ体型だ。基礎トレもさぼらずやっているせいか、腹筋は軽く割れてる(これはちょっと自慢だ)。
家庭の事情(父子家庭・警察官・転勤族)により、炊事洗濯掃除などの家事は、完璧とは言い難いがひと通りはできる。そして、繰り返した転校経験により育んだ人当たりのよさもある。成績もそこそこ(勉強してるし)。
そしてモテる。それはもう嫌になるくらい。
自慢?違うんだ。本当に違う。
このところマジで困ってる。だって、最近の女子といったら、
「ねえ、ねえ。また来ちゃった♡。休みの日は何をしてるのか聞こうと思ったんだ。そうそう、今度の土曜日に公開する映画いいよね。私、ああいうの凄い好き。あの原作読んでる? まだだったら貸してあげる。あっ! でも、一緒に映画を観に行っちゃう方が早いかな? 座席予約、今ならまだ取れるし。それに、映画館のそばに、お洒落なカフェができてね、待ち合わせなんかに大人気で……」
いつもこんな風。
なんていうの? 凄く押しが強くて。これって肉食系っていうの? それは違う? 上手い例えが見つからないけど、なんていうか、とにかくとても一方的なんだよ。
どこにでもひっついてきて、延々と自己アピールをし続ける。自分の好きなTVドラマ・自分の好きな音楽・マイブーム、マイファッション……ひたすら続く自分語り。正直よくわからないし、こちらの話は、ほぼ通じない。
毎日毎日、カラオケに行こう、ゲーセンに行こう、映画を観に行こうって、自分の都合だけを押し付けてきて、俺の都合は聞いてくれない。無理って断っても全然引いてくれないし、泣き真似して、騒いで周囲の注目を引く。
俺からしてみればプチストーカー? って感じ。言い過ぎかな?
でも正直、相手するのはしんどい。脊髄反射レベルまで磨いた受け流し力でなんとか凌いでいるが、いちいち断るのにもかなり精神を消耗するんだ。本当に毎日毎日しつこいし。よく飽きないよな。
困る。本当に。
君たちと違って、俺は忙しいの。マジで。だって家事してるから。
スーパーで買い出ししたり、洗濯ものを取り込んだり、夕飯の支度に、掃除にゴミ捨て風呂掃除。男2人暮らしだけど、やることはいっぱいある。
剣道の朝練に参加してるから、朝パパッと弁当を作れるように、前日に仕込みもしとかないといけないし、その隙間を縫って勉強もしないといけない。
それはもう忙しくて、俺に構うなって言いたくて仕方がなかった。
大学受験に突入して、俺自身に全く余裕がなくなってからは、流石に人当たりの良さも売り切れで、
「つれな〜い。でも、クールなのもまた素敵♡」
って騒がれたけど、全てスルー。逃げるように女子たちを振り切っていた。
……振り切っていた。そう、過去形。過去形なんだよ。
この度、努力の甲斐あって、第一志望の大学に合格・進学することが決まった。俺頑張ったよ、本当に本当にマジで頑張った。
そして1人暮らし。これも親父からOKが出た。だって、大学は転校する訳にいかないからね。
幸い学生寮に入れたので、朝食はつく(希望者は夕食も)から、自分でするのはあと2回の食事と洗濯くらい。そんなのは楽勝だ。剣道も、大学では続ける予定はないので、自由時間は沢山作れる。バイトしても余裕なくらいにね。
合コン? そんなの行かないよ。ウルサイし、まだ酒は飲めないし、さらに金もかかる。
それに、もう空いた時間にやることは決まっているからな。
何って? えっ聞いてない? いや、聞いてもらおうじゃないか。
「最新VRゲーム」
これをGETしたんだ! 運良く予約が取れてギア本体セットを購入したが、凄い高かった。ずっとためていた貯金は枯渇寸前になったほどだ。
でも、やってみたかったんだよね、VRゲーム。ずっと前から。時間的に無理で諦めてたわけだけど。
それが、とうとう出来る。マジで嬉しい。
◇
ってことで、アバター登録。
アバターは、VR機器に刺してあるメモリーカードに、予め数パターン登録できる。ゲームごとにその中から使用するパターンを選ぶんだそうだ。
といっても、このVR機器……超最先端技術を使って開発された新規格のものなので、まだ同じ規格のゲームは少ない。
「現実を超えた超リアル世界を再現」と前評判も高く、VRギアとゲームのセット販売でしか現時点では入手できない。
アバターは、VR機器本体で簡易作成することもできるけど、専用アプリを使ってマニュアル作成をした方が、細かい修正が効いてより自然なアバターができるそうなので、それならとパソコンで作ることにした。
生体情報であるパーソナルデータは、購入時にVR販売店でスキャンしてもらい、既にメモリディスクにインプット済み。その自分のデータを読み込んでと。
出てきた。おっ、俺じゃん。凄い、本当にそっくりだ。
身長とか体格は、あまりいじらない方が操作性がいいって言っていたし、このままでいいか。
顔は、もちろん変える。
理想の「フツメン」にだ。ゲームの中くらい、煩わしさから解放されたい。本心だ。
全体になんとなく納まりのいいパーツだけど、それでいて特徴がなく、地味で、でも人柄はよさそうな感じに、ここを変えて、そこも変えて、もうちょい変えて……こんなものか?
違和感は……ないな。髪色、眼の色は両方とも焦げ茶色。髪は緩めのウェーヴを入れて、長さは襟足くらい。西洋ファンタジーの世界観だそうだから、黒髪よりもこの方が目立たないだろうと予想した。
日焼けはしていないけど健康的な普通の肌色にして……うん、これでいい。全身を眺めてみると、大衆に埋没しそうな感じで非常にGJ。「地味顔の好青年」の出来上がり。
ふーっ。もう3時間近くかかってる。でも満足な仕上がりだ。これでOK、登録。
いよいよゲームだ。ゲーム開幕まであと1時間ちょっと。
*
まずは同意書が出てきた。
ゲーム上の映像・音声及び創作物に関するナンチャラはゲーム会社の所有となり……
ゲーム上で生じたナンチャラについては……は一切責任を問……
アカウントの売買禁止、改造の禁止、不正ツールの使用禁止……
うん、いつものやつね。それと……
《注意事項》
DLされたパーソナルデータ及びアバターデータ間に大幅な乖離があり、当ゲーム操作上支障がある、あるいはプレイヤーの心身に危険が及ぶと判断されたとき、また、……ときは、該当アバターの使用をプレイヤーの許可なく制限できる権利を有します。………etc.
無茶なアバター作成していないかチェックしてるってことか。俺は平気だな。体格弄ってないし。
ポチッと「同意」。
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