第13話 喜んで頂けると嬉しいです、ハイ。

前回のあらすじ:探索していたら、魔物に襲われている冒険者がいたので助けた。



「到着っと。モフプヨ亭にようこそ。自分で降りられますか?」


「あ、ああ、大丈夫だ。」


 荷台の後部のかんぬきを外して側面部分を下げると、4人の冒険者達は、次々に降りてきた。


「では、案内しますね、こちらにどうぞ。」


 そう言って、食堂に案内する。ライムは私の頭から降り、すでに入り口前にスタンバっているマーブル達と合流、マーブル達は慣れた手つきで入り口を開けてこちらを促している。マーブル達は率先して入らずに、私が入るのを待ってくれている。それに甘えるように、私は4人を引き連れて店内へと入る。マーブル達は4人が入った後に入ってきた。


「改めて、モフプヨ亭にようこそ。4人ですから、そこのテーブルがいいかな。」


「ああ、済まない。」


 4人は促されるまま、テーブル席にそれぞれ座る。4人ともようやく人心地ついたのか、さらに疲労感を増した顔をしていたので、とりあえずリフレッシュしてもらおうと飲み物を用意して、それぞれに置いていく。


「初めてのお客さんということで、これはサービスです。遠慮なく頂いて下さい。」


「こ、これは?」


「この森で採取した果実水です。まあ、美味しいですので、何も言わずに呑んでみて下さい。」


「では、遠慮なく。」


 4人は恐る恐る口を付けると、一様に驚いていた。


「! これは、美味い!!」


「何!? この味!?」


「めちゃくちゃ美味ぇ!!」


「何これ、飲んだこと無い!」


 はい、お約束な感想ありがとうございました。その後すぐに飲み干してしまった。


「ありがとう、おかげでスッキリしたよ。」


「これ、美味しい! ねえ、おかわりできる?」


 どうやら気に入って頂けたようだ。


「ええ、できますよ。ただ、おかわりからは、料金を頂きますよ。」


「もちろん、払うわ! 実際おいくらなの?」


「・・・実にお恥ずかしい話なんですがね、こっちに来て間もないので、正直いくらつけたらいいのかわからんのですよね、、、。できましたら、お客様達に値段をつけてもらいたいのですが。もちろん、一般的な値段でね。」


 こういうときは正直に言ってしまうのがいいだろう。あと、いくら気に入ってもらえたとはいえ、上客専用にするつもりはなく、あくまで一般人でも気軽に食べられる値段にしておきたい。


「えー、、、。こんなに美味しい飲み物に値段なんかつけられないよぅ、、、。」


「でしたら、普段飲まれている果実水と同程度の値段で頼みますね。実際、そこまで手間の掛かるものではないので。」


 おかわりを希望した女冒険者はそれでも悩んでいたが、リーダーらしき男の冒険者が代わりに答えた。


「そうだな。俺たちがいつも飲んでいる果実酒は銅貨1枚だから、銅貨2枚というところでどうだろうか?」


 なるほど。フロストの町と物価は変わらないと考えておけばいいかな。


「いいですね。では、銅貨2枚ということで。」


「ええっ!? この果実水が銅貨2枚!? ほんとにいいの!?」


「ええ、結構ですよ。ただ、これから食事を用意致しますので、飲み過ぎないようにして頂けますと。」


「ああっ、そうだった!! 食べ物は食べてみないとわからないけど、とりあえずあと1杯だけ。」


「はい、ありがとうございます。」


 そう言うと、他の3人も結局おかわりを希望したので、再び4人分の果実水を用意しようと思ったけど、何だかんだ言って、おかわりしてくるだろうし、面倒なので、ピッチャー毎用意してテーブルに置いた。


「今回は特別に、銀貨1枚で結構ですので、ご自分達でお好きに飲んで下さい。」


「ええっ!? これだけの量なのに銀貨1枚でいいの!?」


「ええ、今回はサービスです。」


「ありがとう。では頂くよ。」


 4人は喜んでピッチャーから果実水を入れては飲んでいた。ちなみに、あのピッチャーだと、20杯くらいの量になる。


「では、これより食事の準備に入りますので、のんびりとお待ち下さい。」


 そう言って、私は厨房へと行き、作り始める。メニューはもちろん、3種類のミートパスタである。


 大きな鍋に水を入れて、水温を水術で良い感じにしてから、マーブルが火魔法でコンロに火を入れる。軽く沸騰させたら、1%になるよう岩塩を入れる。


 トマトソースやソフリットについては、十二分に仕込んでおいてあるので、あとは炒めるだけである。


 フライパンを3つ用意して、オリーブオイルをそれぞれに入れて、肉を投入。3つのコンロにもマーブルに火を着けてもらい調理開始だ。


 肉に綺麗な焼き色が付いたら、ソフリットを投入して混ぜるように炒め、それから鍋にパスタを投入する。その後にトマトソースをフライパンに入れてしっかりと混ぜ合わせる。トマトソースの水分が良い感じに減ってきた頃、投入したパスタも水面を泳ぐようになったので、引き上げて混ぜ合わせる。ある程度水分も加える必要があるので、私はあまり水切りをせずに入れるやり方だ。


 良い感じに炒まったので、調理している間にジェミニとライムが用意してくれていた皿に盛りつけて完成。また、マーブル達が頭に台を乗せてスタンバっていたので、それぞれの名前を冠したパスタを乗せた。取り皿とフォークをいれた入れ物は私が持っていくことに。


「おっ! 来たか、待ってました!」


「あら、凄く美味しそうなんだけど!」


「さっきから、いい匂いがして我慢するのが大変だったんだぜ!」


「早く、早く!!」


「お待たせしました。こちらがモフプヨ亭の基本メニューとなる3種のパスタです。今回は、皆さんがどれだけ食べられるのかわからないので、とりあえずそれぞれ2人前を用意しました。お手数ですが、皆さんでそれぞれ取り分けてこちらの皿でお召し上がり下さい。」


 そう言って、4人の前に皿とフォークを置き、それとは別に取り皿から取り分け用にフォークを2本ずつ置く。それが完了してから、マーブル達がそれぞれのパスタをジャンプして置き、その勢いで綺麗に3つとも真ん中まで動いて、見事に中央に到着した。マーブル達の見事さに、4人の冒険者が拍手していた。


「マーブル、ジェミニ、ライム、お見事。練習した甲斐があったね!!」


「ミャア!」「キュウ!」「ピーッ!」


 マーブル達が嬉しそうに私に飛びついた。羨ましそうにこちらを見ていたが、先に食事を促すと、忘れてた! と言わんばかりに食事を始めた。


「!!」


「何これ!?」


「こんな美味いもん初めてだぞ!?」


 そんなことを言いながら、ガッツリ食べ始めた4人。よかった、とりあえず喜んでくれてはいるね。


 4人は最初こそ取り分け用のフォークを使っていたが、そのうち自分たちのフォークで直接取るようになっていった。まあ、そんなもんだよね、普通は。2人前×3皿用意したパスタはあっという間に無くなってしまった。もちろん、その後に続くのはおかわりの要求であった。しかも、今度は取り分けはいらない、とまで。


「今回取り分けにしましたのは、皆さんの好みを知りたかったからです。今回用意したパスタですが、1つは牛と豚の合い挽き、もう1つは牛のみ、最後の1つは豚のみを使用しておりました。ということで、個別でしたら、どちらになさるか言ってください。」


 4人はなるほど、と頷いて、それぞれ自分の好みの味をリクエストしていた。


 改めて注文を受けて、ボロネーゼを再び作る。手の空いたときにサラダも用意しておく。ドレッシングはオリーブオイルに塩コショウを入れてかき混ぜたやつだ。卵はまだ手に入ってないのでマヨネーズは無理。酢もまだなので、フレンチソースも無理ということで、今はこれが限界。でも、これだけでも結構いけるんだよね。マーブル達も喜んで食べてたし。


 追加で作ったボロネーゼも無事完成し、ボロネーゼはマーブル達が、サラダは私がそれぞれ提供した。4人は追加の注文が届くと、すぐさま食べだして、あっという間に完食。満足頂けたようで何よりだった。

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