第8話 足りないものを確認しましたです、ハイ。

前回のあらすじ:食材探し、頑張った。



 探索して回ったので、かなりの種類と量を確保することができたと思う。食堂として考えると心許ないかもしれないけど、ただ、こんな場所にわざわざ食べに来る奇特な者は存在するのだろうか、、、。まあ、来なきゃ来ないで別に構わないけどね。何しろ、今回はヤバそうな魔物を狩るのがメインであとは好きにして良いみたいだし、地位などのしがらみが一切存在しないのは非常にありがたい。


 と、思っていた時期が私にもありました。確かに成果は十二分なものがあったけど、戻って確認したら、肝心要(かんじんかなめ)のものが手に入っていないのだ。そう、それはズバリ塩である。海水があれば、水術でいくらでも用意できるけれども、残念ながらここは森の中である。海? 何それ美味しいんですか? という位に遠い存在なのである。となると、塩を生成してくれる植物、あるいは、それに近い味を出してくれる植物が挙げられるだろう。ここは別世界なのである。そういったものも存在してもおかしくないとは思うのだけど、今日探索してそれらしいものは発見できなかった。いや、別の場所に行けば見つかるかもしれないけど。


 もちろん別の手段も存在する。可能性は低いけど、それに賭けてみたい自分もいたりする。それは、岩塩である。しかし、簡単に見つかるのだろうか? というのも、塩は生活必需品であり、必要不可欠な存在である。塩がないと人は生きていけないので、塩を巡って争いも起こるし、塩を専売できれば、巨万の富を得られる。塩を押さえられると逆らうことはできなくなる場合も起こりうる。


 塩については某時代が起源となった「敵に塩を送る」というものがある。これは、某大名が身勝手な同盟破棄をしたことに対して、破棄された方の大名が塩の供給を止められた際に、宿敵とされる大名が勝手に破棄した大名に塩を送ったという美談であるが、実際には、塩を送った大名はかなりのぼったくり価格で売りつけたのが実情らしい。まあ、あの時代で大名としてやっていくには、それだけのしたたかさが必要なんだろうけど、個人的には某ゲームで過大すぎる評価だと思う。


 話はそれたけど、とにかく塩を手に入れないと、どのみち先には進めないので、どうにかしないといけない。


「うーん、困ったなぁ、、、。」


 良い案が思い浮かばないので、思わず出てきた言葉だが、ジェミニが反応した。


「アイスさん、これだけ集めても足りないですか?」


「ん? いや、これだけあれば、しばらくは問題ないよ。」


「そうですか。では、何が困ってるですか?」


「塩が無いんだよね。」


「塩、ですか? それで、その塩、というのは?」


「簡単に言うと、しょっぱいやつだよ。」


「ああ、あの緑の粒ですか?」


「緑の粒? ああ、そういえばそうだったね。確かにあれもしょっぱかったね。でもね、あれも実際の塩とは違うんだよね。味がほぼ一緒だったから、塩として使ってたけど。もちろん、あれがあれば、十分なんだけど、こっちの世界には残念ながらあれはなさそうなんだよね。」


 あの緑の粒とは、スガープラントと呼ばれる巨大な砂糖大根のような植物で、白い部分からは砂糖のような甘味が、大根葉の部分の葉は塩のような味が、茎は胡椒のような味をもつチート植物のことである。けど、ここにはなさそうだ。


「そうですか、、、。見つかるといいですね。」


「そうだね。で、塩というのはね、、、。」


 塩について3人に説明をする。3人はなるほどと頷いている。ちょこんと座って聞いたり頷いたりしている様子は言うまでも無く可愛らしく、塩が見つからずに少し落ち込んでいた心が晴れていった。


「なるほど、その塩の塊がこのあたりにあると嬉しい、ということですね?」


「うん、そういうことだね。とにかく、植物でも岩塩でもいいから、塩となるようなものを手に入れないといけないんだ。」


「ミャア!!」


「わかりました! 明日はそれを目当てに探索するです!!」


「ボクもがんばってさがすよー!!」


「ありがとう、みんな。でも、マーブルはしょっぱいもの探せる? 途中で甘いもの探しに変わったりしない?」


「フーッ!」


「馬鹿にするな、って? ゴメンゴメン。もちろんマーブルも頼りにしているから、明日もよろしくね。」


「ミャア!」


「あ、そうだ。塩もそうだけど、植物油が欲しいかな。」


「植物油ですか? お肉から出る油じゃダメです?」


「もちろん、そっちも大事だけど、植物油があるのとないのとでは、作れる料理の数が違うんだよね。」


「なるほど! ということは、その植物油というものが手に入れば、美味しい食べ物が増える、ということです!?」


「そういうことだね。」


「ミャア!!」


「では、明日、その植物油というものも探すです!!」


「ボクたちにおまかせー!!」


 レシピが増えると知った3人はさらに気合いが入ったようだ。端から見ていると、可愛い以外の何物でもなかった。もちろん、私のやる気も上昇したのは言うまでも無いことだった。


 そんなテンションで夕食を準備したので、かなり気合いの入ったメニューとなったけど、もちろん材料が足りないため、納得のいくレシピにはなっていなかったが、3人とも満足してくれたようで何よりだった。


 夕食も食べ終わり片付けも済んだところで、食べたいものがふと浮かんできたが、道具が必要だったため、いくつか作ってもらうことにした。


 1つめは石臼である。これはもちろん、小麦を小麦粉にするやつは当然として、他にも脱穀できる程度のものと2種類用意してもらう。


 2つ目は石臼と少し似ているけど、押し麦を作る道具である。石臼との違いだけど、こっちは平たく言うと、固定できる重しみたいなものである。大麦が運良く手には入ったので、米代わりに食べる用だ。


 3つ目はフライパンである。とはいえ、鉄鉱石は見つかっていないので、石でできたフライパンだ。サイズ別にいくつか作ってもらう。ついでに土鍋やスープ用の壺なども増やしてもらうか。


 これらの作成を頼むと、マーブル達は張り切って制作にとりかかった。3人で家を出て行ってしまったので、手持ち無沙汰とマーブル達がいない寂しさもあったが、とりあえず風呂の準備などをして時間をつぶしていた。


 しばらくして3人が戻って来たので出迎えると、3人は酒蔵予定の広い倉庫へと異動したので、私もついて行った。私が来たのを確認すると、マーブルが闇魔法の空間収納を使って、土を出していった。どうやら出て行ったのは、土を取りに行っていたようだ。


 取り出した土を、ジェミニが土魔法で各パーツを成形していく。成形したパーツをマーブルが次々に火魔法と風魔法を使って焼き上げていく。焼き上げが終わったパーツは火魔法だけが消えて風魔法のみを纏っている状態になった。どうやら風魔法で冷ましているみたいだ。十分冷めたパーツを、ライムが取り込んで綺麗にしていく。綺麗になったパーツが順々に並べられていく。


 各パーツの作成が終了すると、マーブルが重力魔法で各パーツを軽量化して、ジェミニが組み立てて、ライムが微調整をして確認していた。いつもながら見事な連携である、と同時に動きが可愛らしくて非常に癒やされる。ホッコリしていたが、石臼と押し麦用の道具はあっという間に完成し、試しにそれぞれ使ってみることに。


 まずは石臼である。脱穀用の石臼に小麦を投入。しっかりと取っ手も付けてくれている辺り、流石である。取っ手を回すと、最初は手応えも何もなかった状態だったけど次第に手応えを感じ、そのまま回していると、やがて手応えを感じなくなった。石臼の下部には2つ引き出しがあり、片方は殻、もう片方は脱穀された小麦がしっかりと入っていた。念のためということで、臼の部分を持ち上げてみたが、残りカスすらない綺麗な状態だったのには驚いた。


 次は、小麦粉作成である。脱穀が完了した小麦を先程と同じように臼に投入。やはり同じように付けてくれていた取っ手を回す。出来上がりが異なるだけで、先程と全く同じ行程なので、割愛。バッチリ小麦粉が完成していた。今回の小麦粉は全粉粒である。


 最後に、押し麦を作る道具の試用である。石臼は取っ手の他に、マーブル達でも回せるように足場みたいなものがあったけど、押し麦に関しては、私以外に作ることはできない、というのも、押し麦はある程度蒸してから重しで押さえつけてから乾燥させなければならないからだ。逆に水術を使えば手軽に美味しい押し麦が作れるということだ。


 ということで、押し麦もあっさりと完成。思った以上に良い出来だったので、私も嬉しかったし、マーブル達も喜んでいた。こうして喜びを分かち合うっていいよね。


 臼などの重たい道具が無事完成したので、マーブル達は残りの食器や調理器具などの作成を、私は先程引いた小麦粉を使って仕込みを行った。同時に押し麦に水を含ませることも忘れない。今回引いた小麦粉だけど、これは手打ちパスタ用の分である。

押し麦もパスタの仕込みも完了した頃、マーブル達も残りの道具を作り終わったようなので、モフモフで御礼をしてから、風呂と洗濯をすませて、再びモフモフタイムを堪能して今日は終了。マーブル、ジェミニ、ライム、明日もよろしくね。


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