6話 期待を込めて
女神は額に手を当てて、やらかしたと言わんばかりの表情を浮かべている。
「なっ、何でこんな事に…」
ため息を吐く女神の横に、緑のショートヘアに、白いワンピースを着た可愛らしい少女が立っており、女神が見ていた目の前の水面に映し出された映像を見ている。
「あ〜りゃりゃ、こりゃ、やっちまったね。」
悪びれもなく、女神にそう告げる少女。
そんな彼女を、女神はジッと睨みつける。
「誰のせいですか!誰の!」
その言葉に緑髪の少女は、テヘペロっと舌を出して誤魔化す。
女神は再び、大きなため息をついた。
「あなた、どうやってここまで強力な能力を手にしたのですか?」
「それは、僕とタケシの絆の力じゃないかな!」
えっへんといった仕草で、少女は腰に手を当てて胸を張る。
「確かに、10数年毎日欠かさず信仰されれば、大きな力を手にはできますが…これは明らかに異常ですよ!」
女神は声を荒げて、少女に説明を要求する視線を送る。
「僕だってわからないんだよね。ただ単に僕の能力を、そのままそっくり譲渡しただけだからさ!」
「じょっ、譲渡したのですか!!?」
女神は驚愕の表現を浮かべ、その場に立ち上がる。少女はその横で、え?だめだった?といった表情を浮かべている。
「曲がりなりにもあなたは"神"ですよ!その力を全て渡すなど…あってはならない事ですよ!普通は一部を分け与えるんですから!」
女神の叱責に、少女は少しやばい雰囲気を嗅ぎ取った様子で、問いかける。
「これってどうなるのかな…?」
「わかりませんが…おそらく主神から呼び出されるでしょうね…」
少女は"主神"という言葉を聞いて、背中に冷たいものが伝うのを感じた。
「…どうにもならない?」
その言葉に、女神は今日1番のため息をついて、少女へと告げる。
「私も一緒に、です…恐らく雷が落ちるでしょうね…」
「え?その程度?」
「…あなた、何もわかってないのね…」
そう言って、女神は頭を抱え込むのであった。
◆
その頃、タケシはというと。
ふぅ。魔力の蓄積も完了したようだな。
女神さまには感謝しないと。足向けて寝れないや。
さてと、さっそく魔法の練習といき…
ん?あれ?何かおかしいな…
って、生徒たちが倒れて…ワイド先生まで!?
なになに?何で倒れてんの?
何この状況?!怖いんですけど…
うわぁ、どうしよう…
俺の声は誰にも聞こえないし、そもそもまだ動けないから助けにも行けないし…
あっそうだ!女神さまに助けを求めてみようか!いい案じゃない?そうしよう!
せぇぇぇの!おーい、女神さ…
タケシはふと思った。
ここは異世界。魔力がある。俺はそれを集めるために、魔法?…を唱えた。
みんな倒れている…
いや…そんな事はない…待て待て、よく考えてもみてくれよ!
黒板消しだぞ?ただの黒板消しにそんな力はないだろ…
しかし、タケシの頭には、この力は女神が与えてくれたものだという事が、こびりついて離れない。ラノベでよくある、異世界チート能力…
やっぱりこれって…俺のせいか…?
もしや…やっちまったんじゃね…?
タケシがそう1人で焦っていると、ガチャガチャと音を立てながら、入り口から兵士らしき者が複数名、教室に入ってくる。
それに続いて、少し格の高そうな貴族のような人物もだ。
「生徒たちと教師を早急に保護せよ!原因は魔力欠ではあるが、将来を担う若い芽と、それを育てる我が国の大切な者たちだ!大事に扱え!」
貴族のような人物の指示に従い、兵士たちは倒れている生徒たちを運び始める。
「こっ、国防大臣…殿…」
「おお、ワイド=チョークか…貴殿ですら、魔力欠にやられるとは。もはや本当の意味で"異常"だな。」
兵士へと指示をだす大臣へ、目を覚ましたワイドが声をかけた。
「面目ない…」
頭を押さえながら、ワイドは悔しそうな表情を浮かべる。
「そう悔やむな。これは"異常"だと言っただろう。この魔力欠は、現在国中で起きておるのだ。」
「なっ!?国中でですか?」
「ああ。現在、魔力を必要とする全てが、その活動を止めてしまっておる。影響範囲の詳細は、この学園を中心に、王国の9割と言ったところだ。」
大臣も頭を抱え込むように、ため息を吐き出す。
「しかも、原因が未だにわからんのだ。」
魔力が回復してきたワイドは、大臣の言葉に驚き目を見開きつつ、考え得る原因を挙げていく。
「魔王や竜王の復活ではないようですね。禍々しさは感じられないので。地下変動など、大気に反動をもたらすような事象では?」
大臣は頭を横に振る。
「そういった自然的なものでもなさそうなのだ。唯一わかっている事は、この学園が中心である事のみよ。」
その言葉を聞いて、ワイドも頭を悩ませる。考えを巡らす中で、気を失う前に感じた違和感を思い出せずにいた。それが思い出せない事も、ワイドの気が落ち着かない要因の一つなのだ。
(くそっ!この違和感の正体がわかれば…)
ワイドが何とか思い出そうとしていると、大臣が声をかける。
「チョーク殿、とりあえずは生徒たちの保護が先決。協力願う。」
「…そうですね。わかりました…」
そう言ってワイドは、兵士の手伝いに向かうのであった。
◆
タケシは、目の前で2人が話す内容を聞いて驚愕していた。同時に、絶対自分のせいじゃないと、現実逃避すらしている。
ーーーいやいや、国中の魔力が枯渇だって?それこそ、俺みたいな黒板消しには、無理だろ!無理無理!
ーーーいくら女神さまから力を授かったと言ったって、そんなチートみたいな能力、渡すはずないでしょ!
「黒井さん…」
ーーーちょっと待て、今考え事してんの!
「…そうですか。しかし、私と話した方が早いかと…」
ーーーはっ?!
目の前には、再び半透明な女神が浮かんでいた。しかも、今度は緑髪ショートヘアの小さな女の子を従えて。
「黒井さんへ謝罪しなければ…」
ーーー謝罪って…待った!もしや全て俺が考えている通りですか?
「…はい。」
ーーーじゃあ、今起きてる事は、全部俺が原因?
「…はい。」
ーーーもらった能力がチートで、女神さまはそれを知らずに、俺に渡したってこと?
「そこは少し事実とは違います。」
ーーーと言うと?
「その能力は、ここにいる付喪神の能力です。」
その言葉に、緑髪の少女は女神の後ろからヒョコッと顔を出して、テヘペロっと片手を上げてタケシに挨拶する。
「彼女の能力の一部を与え、魔力を集めれるようにするはずでしたが、彼女が誤って、力の全てをあなたに渡してしまったのです。」
女神はそう言って、頭を下げる。
後ろにいた少女も、同じように頭を下げている。
「原因はわからないのですが、恐らくその付喪神の力と、私が与えた魔臓器のスペックの高さが、何かしら相互に影響を与えた可能性が高く、こんな事に…」
女神は頭を上げて、状況を説明していく。
「私たちは、すでにこの世界への干渉を断っています。ですから、その能力は回収する事はできません。なので、あなたには直接その力を封印していただかないと…」
ーーーそうですか…封印しないといけない理由は何ですか?
「この世界の魔力を吸い付くしかねないからです。」
それを聞いて、タケシは少し思案する。
間違って渡された能力ではあるが、自分には必要なものだ。急に返せと言われても困る事は確かなのだ。
しかし、世界に脅威をもたらすような力を、おいそれと女神さまたちがほっとくこともないだろう。
ーーー使いこなせれば問題ないですか?
タケシがぼそりと言うと、その言葉に女神は疑問を浮かべた表情をする。
ーーー例えば、周りに影響出さないように、魔力を集められるようになるとか。
それを聞いて、女神はなるほどと言ったように返事をする。
「それができれば、問題は一つ解決します。"できれば"ですが。」
その答えを聞いて、タケシは少し安心した。そして、女神へと告げる。
ーーー少し時間をもらえますか?コントロールして見せますので。
女神は考える。
この男は少し規格外だ。なぜそうなったかはわからないが、付喪神のただの吸い込む能力で、魔力を"吸い取って"見せた。
魔臓器だってそうだ。高スペックとは言っても、性能が少しいいだけで、人間が持つものとほとんど変わらないはずだが、彼のそれには、ヒューマニア王国中の膨大な魔力が蓄積されているのだ。
この男ならもしや…
女神はそう考えて、口を開いた。
「明日まで待ちましょう。それでダメならば、封印してもらいます。」
タケシはその言葉に、「了解。」とだけ返事をする。
女神は去り際に一言だけ呟いた。
「…期待していますよ。」
そう言って、溶けるように消えていったが、すでに思考を張り巡らせているタケシには聞こえてはいなかった。
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