2021年 5月23日 日

 ある一家の下に通信関係の仕事をしている二人の知人と訪れる。技術に疎い私は話に付いていくことが出来ないでいる。維持費は一年を通して千円で済むと言う。

「安いですね」と驚いて見せると、二人は曖昧な返事をした。私とあまり関わり合いになりたくないらしい。

 仕事が終わると、二人は車で帰っていった。乗せてはくれなかった。

 一人で歩いて帰っていると、自然公園に着く。二羽の鳩が私に付いてくる。じゃれついてきているように見える。屋根付きのベンチまで来たので休もうと思ったところ、先生に声を掛けられた。

「夜更かしをしたそうですね」

「ええ。でも後悔しております」「ぼろきれみたいなシャツで歩いて帰らないといけないので」


 ある日、星川という、私と釣り合わない活発な友人と再び一家に訪れた。主人がそれぞれ家族と星川の座る位置を決める。

「私はどこにいたしましょう」と、ある種の自信を持って伺う。

「君はいらないだろう」主人はそれがいかにも当然であるというような口ぶりで答える。

「そうですか」「ではここらでお邪魔させていただくとしましょう」特に私もそれに対して何か思うところはなく、機械がそうするように、反応としての返答をする。

 居間から玄関に通じる廊下へは、引戸で出る。そういえば、この家の居間には炬燵もあり、どこか懐かしさを感じる。今日滅多に見ることのない家である。引戸を開け一歩踏み出すと、途端に頭が軽くなり、体は石のように重く硬直し、その姿勢のまま横に倒れる。

「帰りましょう」私は帰るための動作をしている最中であると周囲が理解出来るようつぶやく。

 しかし一同は驚いているようである。

「大丈夫ですよ」

 一体何がおかしいのかと疑問に思いながらも、動かなくなった体を動かすために意識を手足に集中させる。こういう時には頭で考えない方が上手くいくのだとよくよく知っている。どんな事であれ最初の経験には困惑が付きもので、慣れてしまえば何でもないのだ。

 しかし体は微塵も動かない。「頑張れよ」という類の言葉を自分で口にしている気になっているが、呂律が回らないので実際何と言っているのか聞き取ることは出来ない。「どうしたんだ」「大丈夫か」と一同が駆け寄ってくる。私に言っているというよりも、独り言のようである。心配の言葉は、口にするだけで自分の心が救われるからである。

「これは症候群の一種ですよ」と星川が一家に説明している。

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