クエスト開始! 〜トラウマを抉られる!〜

「おいちょっと待て、なんのつもりだ皆!」


「なんのつもりだとはなんのつもりだ! また災いの元を呼びこみおって! 懲りないやつめ!」


 慌てた様子のフェリクスさんに、『ハーフリング』の集団の中から木の杖を持って進み出てきた白髪のお爺ちゃんが言い返す。


「長老! しかしこのまま魔王の好きなようにされてもいいのかよ!」


 へーぇ、あれが長老かぁ。確かになんか『オーラ』的なものを感じる。人の上に立つものの風格というか……ソラさんとかクラウスさんみたいなオーラだ。



「こんな得体の知れないやつらに頼るくらいなら村を捨てて逃げた方がマシだわい!」


 得体の知れない……確かに私たちは得体の知れないやつらなのかもしれない。なんてったって、防御極振りのイケメンに、素早さ極振りの紐パン娘、攻撃力極振りの痴女、器用さ極振りのもふもふ、幸運極振りの変態、MP極振りのクール美人、HP極振りのロリ巨乳、特殊性癖持ちの忍者、邪龍に変身するメイド娘だもんね! 属性多すぎ!


 長老さんに怒鳴られると、ミルクちゃんは空気を読んでスッと人間の姿に戻った。――都合のいい子だなーほんとに。


「いい加減頑固になるのはやめろよ! イブリースの軍を追い返すことができたら、村を守ることができるんだぞ!」


「はっ! そんなのは不可能だ! どうやって大量の魔物を倒すつもりだ!」



 長老さんの言葉に私は隣のクラウスさんと顔を見合せた。これは……もしかしたらもしかするかもしれない! セレナちゃんが言っていたを試す時が来る……のかな?


「あ、あのー! すみません! 私に考えがあるんですけ――」


「黙れホムンクルス!! さっさと帰れ!! 穢(けが)らわしい!!」


「ひぇっ……」


 怒られちゃった……。私なにかまずいこと言ったかな? あれ、心臓がドキドキして視界が歪む。目から汗が……思い出したくないことを思い出しちゃったかも。私の……リアルでの記憶が……。

 私が項垂れると、クラウスさんがぽんぽんと背中を叩いて励ましてくれた。



「ホムンクルスに……ダークエルフに、ドラゴニュート。……おまけに魔導族だと!? バカにしているのか! 貴様らのような人理に反したに村の命運を託すなんぞ考えるだけで虫唾が走るわ! 今回はフェリクスに免じて見逃してやるが、次はないと思え! ――さっさと立ち去るがよい!」


 長老さんは吐き捨てるようにそれだけ告げると、ハーフリングたちを連れて村に引き上げていった。



 ――バタンッ



 と木の門が閉まり、再び静寂が訪れる。


 フェリクスさんは私たちの方を振り向くと、勢いよく頭を下げた。


「すまないっ!! 長老は俺の父親なんだが、昔の習わしだのよく分からない教えだのに拘(こだわ)る頑固頭なんだ!! ――頼んでおいて不快な思いをさせてしまった!! 許してくれこのとおりだ!!」


 そのまま土下座をし始めかねない勢いに、クラウスさんはフェリクスさんの傍に歩み寄って目の前にしゃがみ込んだ。それでもなおクラウスさんの頭の方が高い位置にあるのでなかなか面白い。


「いえいえ、うちのギルドのメンバーは基本的にいいやつらなのですが、変わっているのも事実ですから。――俺が長老と話し合ってみましょう」


「な、なんと! いいのか? 人間のあなたの話ならうちの長老も耳を傾けてくれると思うんだ!」


「他に適役がいませんからね。構いませんよ?」


 おぉ……クラウスさん、自ら交渉役を買って出てくれた。確かに、あの状況なら私とかホムラちゃん、セレナちゃん、リーナちゃん、キラくんの話は聞いてくれそうにないし、消去法で……ってなるね。


「じゃあ済まないが俺についてきてくれ、えっと……」


「ギルド『エスポワール』のギルドマスター、クラウスだ。もう一人、ギルドメンバーのユキノを連れていきたい」


 クラウスさんはユキノちゃんを手招きして呼び寄せた。


「あぁ、彼女は『フェアリー』だから問題ない。じゃあ三人で村に入るか。――すまないが他の人達はここで待っていてくれないか? 出来るだけ早く戻るから」


「――しょうがねぇなぁ、さっさとしろよ? 頼むぜクラウス」


「任せろ! ――と言いたいところだが、正直自信が無い」


「はぁ? お前、オレを助っ人に誘っておいてこのザマは許されねぇぞ?」


「いざとなったらユキノに――」


「私ですか!? 無理ですよ!」


 ホムラちゃんはまたしても機嫌が悪くなってしまったようだ。困り果てたクラウスさんは何故かユキノちゃんにパスを出し、ユキノちゃんをも困らせている。――ユキノちゃん、ゲームだと大胆なところあるけど、リアルだと控えめ女子だからなぁ……あまり口論が強いイメージはない。


 不安はかなりあるけれど、今のところ他に手は無い。それは皆分かっていたようで、ホムラちゃんも最後には文句を言わなくなって三人を送り出した。



 ◇ ◆ ◇



 フェリクスさん、クラウスさん、ユキノちゃんの三人が木の門から村の中に入っていくと、まず最初に口を開いたのは意外にもリーナちゃんだった。


「やってらんない! 助けに来た人になんであーいうこと言うかなー? ちょームカつくわ! まぢ病み! リスカしよ!」


「僕も、ココアさんを泣かせたのは許せません! 今すぐファフニールで村を消し飛ばしたいですね!」


「オレも気に食わねぇ! あの村焼き払っちゃダメなのか? その方が魔王『イブリース』とやらが喜んでくれんじゃねぇか?」


 ぶつくさと文句を言うリーナちゃん、キラくん、ホムラちゃんの三人に、セレナちゃんは露骨に「チッ!」と舌打ちした。



「マジですか、アホなのですか? 私たちが村を破壊してどうするんですか? その時点でクエストはクリア不可になりますよ? そんなことも分からないのですか? 単細胞ですか?」


「あぁ? うるせえぞ腐れ銀髪が! やんのかコラ! 受けて立つぞ?」


「あーもう! 二人ともやめてください!」


 私は咄嗟に、一触即発の二人の間に割って入った。もうこの二人危ない! 混ぜるな危険! すぐ喧嘩しちゃうんだから!



「――ああいう頑固親父って、案外色仕掛けに弱かったりするんですよ。――ってことで脱ぎましょうココアさん! ついでにセレナさんとホムラさんとリーナさ――」



 ――最後までは言わせなかった。軽口を叩いたキラくんを私とセレナちゃんとホムラちゃんとリーナちゃんとミルクちゃんの五人でボコボコにしたから。



 ――でもね。分かってたんだ私。キラくんがこの悪い空気を吹き飛ばすために軽口を叩いたんだって。――ありがとね。


 私はキラくんをボコボコにしながらも心の中では感謝していた。

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