クエスト開始! 〜いざ、ハーフリングの村へ!〜

 ◇ ◆ ◇



 というわけで、私たちは邪龍化したミルクちゃんの背中に乗って、『ハーフリング』とかいう種族が住んでいる村に向かっている。ハーフリングの村までは『ヴェンゲル』の街からはだいぶ距離があるらしいけれど、私たちにはミルクちゃんとアオイちゃんがいるので、多分そう時間をかけずにたどり着けるだろう。


「セレナちゃんってほんとにあのエリアボスを一人で倒したんですか?」


 私は目の前に座りながらスナイパーライフルを構えているセレナちゃんに話しかけた。


「そうですよ? だいぶ時間がかかってしまって、後から挑戦するパーティの顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまいましたが」


「すご……」


「ボスの攻撃は魔導盾でほとんど防ぐことができました。それに、私のライフルには貫通効果が付与されているので、地面に潜った敵にも問題なくヒットする仕様なんです。属性も物理と魔法両方の属性がありますし、敵が大きければ大きいほど多段でヒットするのでダメージ効率が――」


「――なるほどなるほど! よく分からないけど凄いです!」


 得意げに語り始めたセレナちゃんを慌てて遮ると、彼女は少しムッとしてしまったようだ。――ごめんなさい。でもそういう話私にされてもよく分からないし困るんだよ……。


「――ふんっ」


 セレナちゃんは鼻を鳴らしながらスナイパーライフルで前方にいた黒い狼のようなモンスターを撃ち抜く。さっきからこうやって、ミルクちゃんが向かう先にウロウロしているモンスターをセレナちゃんは狩ってせっせと小遣いと経験値を稼いだりしている。私たちもそうしてくれた方が進みやすいので助かってはいるのだけど。



「――モンスターの数が増えてきています。――フェリクスさん、ハーフリングの村はいったい何者に襲われているのですか?」


 セレナちゃんが話しかけたのは、彼女の前に座って道案内をしている小柄な――というか小人のようなハーフリングの男性――彼はフェリクス=ジャン・レザンスカと名乗った。なので、皆は『フェリクスさん』と呼んでいる。

 サラサラした茶髪の彼は、大男のクラウスさんの腰くらいの背丈、ちんちくりんの私と比べても胸くらいの背丈しかない。大人なんだけど、なんか可愛い。クラウスさんによると、『ハーフリング』というのはそういう種族らしい。


「あなた達知らないのか? この先――大陸の東部を支配している魔王『イブリース』だよ」


「――魔王……ですか?」


 魔王! 魔王だって! ヤバそう! ベータテスターのセレナちゃんですら魔王の存在は知らなかったらしい。まあ、ベータ版だとエリアボスすら解放されてなかったらしいし、それ以降は完全に未知の領域なのだろう。


「あぁ、魔王だ。やつは多くの魔物を支配下において支配域を大陸全土に広げようとしている。その侵攻ルートにあったのが俺たちハーフリングの村ってわけだ」


「い、いくらなんでも魔王と戦うなんて無謀なんじゃないですか? 勇者のソラさんならともかく……」


 私の後ろからひょこっと顔を出したユキノちゃんも声に不安の色を滲(にじ)ませている。



「撃退するだけでいい。容易に侵略できないことが分かればイブリースは侵略ルートを変えるだろうし、実は各地で魔王討伐の軍を編成する動きがある。――少しだけ耐えればいいんだ」


「つまり、魔王に勝つのが目的ではなく、村を守るのが目的ということですね?」


「まあそういうことになるな。でもハーフリングの村は一枚岩じゃなくて、投降しようという者、逃げようという者もいるから一筋縄じゃいかないだろうな」


「大変そうですね。まあ、守るだけなら余裕です。話し合いは苦手なので、他の人にお任せしますけど」


 セレナちゃんはモンスターを次々と撃ち抜きながら落ち着いた声でフェリクスさんと会話している。その様子があまりにもクールだったから村の人との話し合いもセレナちゃんにお願いしたいところだけど……無理なのかなぁ?


 そうこうしているうちに、前方に明らかに怪しげな暗雲が広がってきた。魔王『イブリース』とやらの支配域が近づいてきたのかな。


「魔物の中には陽の光を嫌うものがいるからな。アンデッドの類とか、夜や曇天じゃないと行動ができないらしいし」


「この世界の時間って、現実世界とは真逆なんですよね? だとしたら、アンデッドとかを狩るには現実世界の昼間にログインするか、曇天を狙うしかなかったってことですね? 僕アンデッドと戦いたくなんてなかったので気にしてなかったですけど」


「そうなるな。ということはその『イブリース』ってやつは死霊術(ネクロマンス)の使い手の可能性があるな」


「『死霊術師(ネクロマンサー)』は場面を選ぶとはいえ強ジョブじゃないですか。その唯一の欠点の、『晴天時の弱さ』というのがあの雲によって無くなったとしたら……」


「厄介な相手になるな……」


 後ろの方からクラウスさんとキラくんの話し声がする。よく分からないけどとりあえず魔王『イブリース』ってやつがとんでもなく強くて厄介な相手だってことはわかった。……勝てるのかなぁ?



 程なくして、私たちの前方に木で作られた大きな柵と大きな門のようなものが見えてきた。あれが村かな?

 柵の中には同じく木製の櫓(やぐら)のようなものがあり、その上では何者かが驚いた様子でこちらに弓を向けている。――そりゃそうだよね。ウナギみたいなドラゴンに乗って猛スピードで接近する謎の集団とか怖すぎるもん。


「一旦止まれ」


 そう言ってフェリクスさんはミルクちゃんを止めると、その背中から身軽に飛び降りた。そして村の方に数歩進み出ると、櫓に向けて大声で叫んだ。



「――おーーーい!! 俺だぁぁぁっ!! フェリクス=ジャン・レザンスカだぁぁぁっ!! ――助っ人を連れてきてやったぞぉぉぉっ!! 門を開けろぉぉぉっ!!」



「――おぉっ!! マジかぁぁぁっ!! ――おいみんなぁぁぁっ!! フェリクスが、あのバカが戻ってきたぞぉぉぉっ!!」



 櫓から返答があり、弓を構えていた人影はバタバタと櫓から降りていった。


「待ってな。すぐに開けてくれるはずだからさ」


 フェリクスさんは私たちを振り返って微笑む。

 しばらく待っていると――



 ――ゴォォッ



 という音がして木の門が開き――


『おぉぉぉぉぉぉっ!!』


 ――中から弓や槍で武装したたくさんの『ハーフリング』たちが鬨(とき)の声を上げながらぞろぞろと駆け出してきた。え? なに? 何が起きてるの!?


「おい、おいおいおい!!」


 クラウスさんが慌ててミルクちゃんから飛び降りると、私たちも次々とミルクちゃんから降りる。


「――なるほど、


 私の隣に飛び降りたホムラちゃんがそう呟いて腰から双剣を引き抜いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る