ギルド設立! 〜変態が多すぎる!〜

 ◇ ◆ ◇



『ヴェンゲル』の街は、ボスの部屋からミルクちゃんに乗って数十分の場所にあった。『グラツヘイム』のような城塞都市ではなく、海の近い港町だった。街の雰囲気も、石造りではあるものの白を基調としたものであり、全体的に明るい感じがする。――要するに、いい街だ。


 街に入った私たちは、それぞれおもいおもいに探索して、数十分後時計塔がある広場――噴水広場ならぬ時計広場に集合した。


 パーティメンバーを見回すと、リーダーのクラウスさんが口を開く。


「どうやら俺たちが一番乗りのようだな。プレイヤーの姿は見えなかった」


「やはり、ミルクさんとアオイちゃんのおかげで移動時間が大幅に短縮できたからでしょうね」


「あとユキノちゃんの索敵スキルと【変化(へんげ)】スキル、ココアちゃんの自爆のおかげで攻略自体も短時間で済ませられたね」


【変化】でまたしても装備が破壊されてしまったため、ユメちゃん装備を身につけているユキノちゃんと、リーナちゃんも頷いた。まあこのパーティはそういう尖った人達ばかりだからね……にしてもガチガチのトッププレイヤー達より先にボスを倒してしまったのはなんか申し訳ない気もする。



「で、皆なにか見つけたか?」


 クラウスさんの問いかけに、まずホムラちゃんが手を挙げた。


「オレは港の方を見ていったが、船に乗れそうだったぞ。NPCも多かったから、漁とかそんな感じのクエストもありそうだったし、島とかにも渡れそうだった」


「そりゃあいいな! 島かぁ……」


「青い海……白い砂浜……眩しい水着……あぁっ、ココアさんはなんて大胆な格好を!?」



 ――パシッ!!



 私とミルクちゃんとユキノちゃんは、勝手に妄想しはじめたキラくんの頭を三方向から同時に叩いた。いや、妄想するのは勝手だけど口に出すのはやめようよ……。もし砂浜があって泳げたとしてもコイツだけは連れていくのやめよっと……。



「――で、他には?」


 気を取り直して……といった様子のクラウスさん。アオイちゃんが小さく手を挙げる。


「アオイは、装備屋と魔法屋を見つけました。『グラツヘイム』には売っていないようなものもありました」


「なるほど、後で見に行こう。――他には?」


「神殿がありました。恐らくジョブチェンジとかできるかと」


「こんなの売ってたよ! ほら、拷問器具!」


「いやなんに使うのそれ!?」


 ユキノちゃんとリーナちゃんは先を争うように報告したけど、リーナちゃんに関してはあまり触れない方がいいかもしれない。

 私も一応手を挙げた。



「あとここ、天気がいいせいか暑くないですか?」


「確かに、少し暑いな」


 まあ鎧を着ているクラウスさんが暑いのは当然として……。

 立っていると勝手に首筋とか胸元とかおへその下あたりとか、結構じわじわと汗が湧いてくる。リアルではそこまで暑がりじゃなかったんだけどな……おっぱいのせいかな?

 私はワンピースの裾をバサバサして風を送り、キラくんを赤面させて楽しんだ挙句ミルクちゃんに叩かれるなどした。


「……あ、あの。……エクストラクエストがありました。一旦受注拒否してきましたけど」


「なるほど、ソラたちに先を越されないうちに受注しに行かないとな!」


 キラくんの報告が終わると、満を持したかのように、クラウスさんが得意げな顔になった。余程嬉しい報告があるらしい。場の誰もがそう思うほど嬉しそうな顔だった。――だからさっきまでひたすら報告を急かしてたんだね。



「……聞いて驚くなよ? 俺は――『ギルド協会』を見つけた!」


「――ギルド協会?」


「要するに、ってことだろ?」


 私が首を傾げると、ホムラちゃんが横から補足してくれた。クラウスさんはうんうんと頷く。ギルドとパーティってどう違うんだろう? まあでもわざわざギルドっていうシステムが作られているということは、それなりに意味があるのだろう。ギルド対抗イベントがあったりね。


「その通りだ! 助っ人のホムラとユキノは別として、それ以外の奴らは俺のギルドに入ってくれるよな……?」


 クラウスさんは一転して不安そうな顔で私たちに尋ねる。……そんな、そんな顔で尋ねられたらノーとは言えないじゃない。まあ、他に入りたいギルドもないし、私としては構わないんだけどさ。


「私、クラウスさんのギルドに入りたいです!」


「じゃあ僕も」


「わたしも」


「アオイもです!」


 うーんなんか……なんかみんな私に便乗してきた感が半端ないけれど、とりあえずキラくん、アオイちゃん、リーナちゃんもクラウスさんのギルドに入ることで決定したようだ。


「……お嬢ちゃん……みんな、ありがとう!」


 優しいクラウスさんは既に涙目だ。



「んじゃあオレはソロに戻りますかねー。でもこのパーティ、結構楽しかったぜ。またいつでも呼んでくれよな! じゃーな! あばよ!」


「私も……一旦ソラさんのところに戻ります。――リーナさん! くれぐれもココアさんに手を出さないようにしてください!」


 ホムラちゃんとユキノちゃんはクラウスさんに気を遣ったのか、手を振りながらその場から立ち去ってしまった。すると、リーナちゃんが私を見てニヤリと笑う。


「わたしも人間だし、ちょっとくらい過ちを犯すこともあるよね!」


「やめといた方がいいよ? 私の嫁はかなり凶暴だから」


 私が言うと、ミルクちゃんがすすすと音もなく私とリーナちゃんの間に割って入ってきた。おー、流石の危機察知能力! さすが嫁!



「じゃあ、ギルド設立するぞー! ついてこい!」


 意気揚々と歩き出すクラウスさんについて、私たちは街の中心部の大きな建物に連れていかれた。中には木で作られた大きなカウンターと、何やら紙がたくさん貼り付けられている掲示板、そして木のテーブルと椅子が所狭しと置かれていた。


 クラウスさんはカウンターに近寄って向こう側の茶髪のお姉さんNPCと何やら話し始める。――やがて、私の目の前にこんなメッセージが出現した。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ギルドに加入しました!


 〜ギルド情報〜

 ギルド名【エスポワール】

 ギルドLv.1

 ギルドマスター︰クラウス

 サブマスター︰ココア

 メンバー︰リーナ

 メンバー︰キラ

 メンバー︰アオイ


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る