私、自分の足で歩きたい!

 ◇ ◆ ◇



 ――朝だ。


 私は頭についていたヘッドギアを取り外す。すぐに朝日が差し込む自室の光景が目に飛び込んできた。ベッドと机と本棚しかない四畳半ほどの簡素な部屋。年頃の女の子らしい趣味を持っていない私にとっては、読書が唯一の趣味で、本が友達! ――そんな時期もありました。中学生くらいまでかな。


 今はお兄ちゃんの影響でゲームをしたりアニメを見たりすることも多くなったけどね。


 私は枕元の窓を開けて、早朝の澄んだ空気を肺いっぱいに取り込んだ。鳥の鳴き声がする。清々しい。


「うーん……」


 そして思いっきり伸びをしてみる。見下ろすと、リアルの私のおっぱいは、ゲームの時とはうってかわって貧相なものなので少し凹んだ。うん、牛乳飲もう。まだチャンスはあるはず!



 私は、ベッドから立って洗面所へと足を運――うわぁ! ついゲームの癖で歩いちゃったけど私歩けないんだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!


 無意識に数歩歩いてゲームとは違う足の違和感のようなものに気づいてしまったらもう後の祭り。「自分は歩けるんだ」と思い込むという魔法の解けた私は、その場でバランスを崩して前のめりに床に倒れた。



 ――ドタッ!!



 咄嗟に手をついて顔面を強打することは避けたものの、倒れた拍子に捻ってしまったのか、右足のふくらはぎのあたりに激痛が走った。


「いったたたたぁ……っ!!」


 私のバカ! なにやってんのよもう! 注意しなきゃって思ってたのに!

 足が痛くて動けない……っ! どうしよう……! 助けてお兄ちゃん!



 ――ドタドタドタッ!



 私の祈りが通じたのか、階段を駆け下りる大きな音がして、部屋の扉が開いてお兄ちゃんが顔を覗かせた。


「なんか大きな音がしたけど、大丈夫か?」


「大丈夫なわけないよ! 見ればわかるでしょ!?」


 お兄ちゃんのバカぁ! 人が痛がってるのに大丈夫か? じゃないよ! もっと心配してよ!



「――何があったんだ?」


「転んだ!」


「えぇっ!?」


 そう答えて初めてお兄ちゃんが慌て始めた。私に駆け寄って心配そうな顔をしている。


「どこが痛い?」


「右足!」


「えっと、痛いの痛いの飛んで行けー!」


「――バカにしてんの!?」



 ――べしっ



 私の右足を撫で始めたお兄ちゃんの頭に一撃。まったく、子どもじゃないんだから。


「じゃあ何すればいいんだよ? 病院行くか?」



「――ん!」


 私はお兄ちゃんの前で腕を広げてアピールする。首を傾げるお兄ちゃん。――はぁ、妹の心理が理解できない哀れなお兄ちゃんよ……。


「だっこ! ベッドの上に乗せて!」


「ったく、しょうがねぇなぁ……」


 とか言いつつも、お兄ちゃんは私を慎重にお姫様抱っこしてベッドの上に乗せてくれた


「あ、ありがと……」


「――なぁお前」


 お兄ちゃん、いきなりどうしたんだろう?


「ん?」


「気をつけろよ」


「うーん、ゲームのノリでついつい歩いちゃった……」


「そっか……」


「――はぅっ……!?」



 少し心配そうな、でも何故か少し嬉しそうな表情をしたお兄ちゃんは、私の身体をギュッと抱きしめた。そして、こんなことを口にした。


「そのまま――歩けるようになるといいな」


 でも私は首を振る。


「もうやらないよ。――だって、お兄ちゃんを心配させたくないもん」


「ったく、お前ってやつは……」


 照れ隠しのつもりなのか、お兄ちゃんはブツブツ呟きながら部屋から出ていってしまった。もう、素直じゃないんだから。でも素直じゃないのは私も同じ。私も本当はお兄ちゃんと同じように、立って歩いて――普通の生活が送りたい!


「――これからは、少しずつ歩く練習してみようかな」


 そして、目の前で歩いてみせてお兄ちゃんをびっくりさせてやるんだから!



 私は――人知れず闘志を燃やしたのだった。



 ◇ ◆ ◇



 《トロイメア・オンライン(TMO) 総合雑談掲示板♪》


 トロイメア・オンライン(TMO)における、みんなの雑談掲示板になります。基本的に書き込みは自由ですが、他人の誹謗中傷やアカウント晒しは禁止です。トロイメア・オンライン(TMO)に関する雑談をみんなで楽しみましょう!



【極振り】正直お前らさぁ、ステータスの極振りってどう思う?


 1.名無しさん

 弱いと思うwww


 3.名無しさん

 >>1

 それな笑 トッププレイヤーの中でも極振りで成功してるのはホムラちゃんとセレナちゃんくらいだし


 4.名無しさん

 >>3

 逆に考えると、ホムラちゃんとセレナちゃんは成功してるんだよなぁw


 6.名無しさん

 >>4

 なお、クラウスとかいう極振りで失敗した奴もいる模様www


 7.名無しさん

 おいおまいら、我らがココアちゃんのことを忘れてないか? あの子、HP極振りの自爆魔法使いなんだってさwww


 8.名無しさん

 >>7

 マジかよwwさすがに破天荒すぎゅるwww


 9.名無しさん

 それだけじゃねぇ! イベントでそのココアちゃんに勝利したユキノちゃんって子も素早さ極振りらしいし、ココアちゃんに1回戦でいい試合してたキラってやつも幸運極振りだとかいう話だぜ


 11.名無しさん

 >>9

 ユキノちゃん、何者なんだろうなあれ……初心者にしては強すぎひん?


 12.名無しさん

 >>11

 可愛いので許す!(何を)


 15.名無しさん

 >>12

 強くて可愛いとかさすがに無敵だろwwwおっぱいは小さいけどwww


 16.名無しさん

 >>15

 ニューヒロインの誕生かもしれん


 17.名無しさん

 このゲーム、極振りが不遇とされてたけど、意外と極振りが正義なのかもしれんぞ


 18.名無しさん

 >>17

 かといって今からキャラ作り直す気にはならないけどなwww


 20.名無しさん

 >>18

 ココアちゃその真似をしてHP極振りの自爆魔法やってくれwww


 21.名無しさん

 >>20

 あんなのが沢山いたら困るわwww

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る