無理です! 〜こんなクエストなんて聞いてませんでした!〜

 ◇ ◆ ◇



『迷いの森』とやらは、地図(マップ)の端の方――街から距離にすると20キロメートルくらいは離れた場所にあった。『精霊の谷』よりも遠い……マラソンランナーでもない限りまず徒歩では行けなさそうな場所だ。


「だいぶ遠くまで来ちゃったけど大丈夫?」


「地図(マップ)上ではここら辺なんですけどね」


 地図を読むのが苦手な私に代わって道案内をしてくれたアオイちゃん。アオイちゃんは、ミルクちゃんを邪龍化させて【アクセラレーション】をかけ、その背中に乗っていくという画期的な移動方法を開発してくれたり(ミルクちゃんは気乗りしないようだったけれど)、さっきから大活躍だ。


 すると、ミルクちゃんの背中に乗って草原のような場所を進んでた私たちの周りに、次第に木が増えてきた。前方には、リアルではありえないほどの高さの木が生い茂る森が広がっているし、気がつくと周りには濃い霧が立ちこめている。――いやーな雰囲気だ。


「……ここ?」


「……多分」



 いや、いやいや無理ですって! 明らかにヤバそうな場所じゃん! ていうか、知らないうちに足元の草がなくなってるし! こんな所にタンポポが生えているわけないよ!


「……帰ろ?」


「ここまで来たのに……ですか?」


「いやだってさ……こんな所にタンポポないって……」


「ルドルフさん言ってましたよね? くれぐれも自分を見失わないことじゃって。目的を見失わなければ必ず道は開けますよ……」


 こんな小さい子に説教される私ってなんなんだろう? と、ミルクちゃんの背中――私の目の前に座っているアオイちゃんを見つめた。うーん、アオイちゃんにかっこいいところを見せたいなぁ。


「よ、よーし! 頑張って探すぞータンポポ!」


 私はミルクちゃんの背中から飛び降りると、地面に這いつくばってタンポポの捜索を開始した。ミルクちゃんも人間の姿に戻って手伝ってくれる。とはいっても、タンポポは愚か草すら生えていないので、私はすぐに匙を投げた。こんなの、砂漠から1つの石ころを探すよりも難しいよ、だって、


「ないよー!」


「なかばいね」


 あー、誰だよ簡単そうなクエストだーとか言ったやつは……あっ、私か。



「うーん、やっぱりないんでしょうか……」


 一緒に探してくれていたアオイちゃんも次第に弱気になってきて……


「もっと奥に行ってみようよ!」


 私の言葉に全員が頷く。3人で、一層霧の濃い森の奥に進もうとした時――



 ――グルルルァァァァッ!!



 霧の中から身の毛のよだつような唸り声が……!!!!


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」


 私たちは一目散に逃げ出したのだった。



 ◇ ◆ ◇



 ――グラツヘイム、いつものカフェ。


『跳躍の飛石』を使って街に逃げ帰ってきた私たちは、クラウスさんとキラくんと合流して、ここで休憩していた。で、クエストのことを話したんだけど、それを聞いたクラウスさんに笑われてしまった。


「あはははっ、お嬢ちゃん。そりゃあエクストラクエストだぜ」


「エクストラクエスト?」


 なんですかそれは? てか笑わないでほしい。こっちは死ぬかと思ったんだから。


「入る家を間違えたんじゃないか? そのクエストは多分エクストラジョブ『勇者』を獲得するための『勇者の試練』と同じもの。でも、既に『勇者』は他の奴に取られていたから、『追憶の試練』なんていう名前になったんだろうな」


「難易度かなり高いって噂ですよ。生きて帰ってきただけでもすごいと思います」


 キラくんは感心したように付け加える。



「そりゃあもう、【アクセラレーション】かけまくって逃げましたもん」


 とアオイちゃん。逃げられたのは確かにアオイちゃんと、あとミルクちゃんのお陰だ。ダンジョンの中だと『跳躍の飛石』は使えないから、ダンジョンの外までは自分の足で走らないといけない。


「そのクエスト、1パーティ4人までOKなんだろ? だったら俺とキラが入ればちょうど4人――」


「うちは!?」


「いやいや、ミルクは精霊だから数に含まれてないって……」


「む……うちはこの変態ば連れていくんは反対ばい」


「でもよ……『迷いの森』は高レベルモンスターがうじゃうじゃ出てくるらしいし、キラの【ランダムサモン】がないとだいぶ辛いと思うけどな……」


「むぅ……」


 クラウスさんに窘められたミルクちゃんが不満げに口を尖らせる。可愛い。後でなでなでしてあげよう。



「とりあえず、明日にはイベントが終わるから、そしたら4人でそのクエストを攻略しに行こう。いいな?」


 ミルクちゃん以外の3人は私も含めて頷いた。まあ手伝ってくれるというのならお言葉に甘えようかな。


「僕もお手伝いするのは別に構いませんけど、一つだけ条件があります」


「なあに?」


 ウィンドウを操作してメニューバーを開きながら私はキラくんに尋ねた。



「ぼ、僕、1回だけココアさんとハグがしてみた――」


 私はキラくんの言葉を最後まで聞かずに、セレナちゃんに教えてもらった通報ボタンを押した。

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