♡純粋系乙女と第1回イベント2日目♡

思わぬ再会! 〜アサシンの装備はどうしてえっちなのか!〜

 ◇ ◆ ◇



 ――その夜。



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 トロイメ杯 第4回戦を開始します。


 バトルフィールドに転送します。


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 私が転送されたのは、昨日の砂漠のようなステージとは違って、リアルでいうスタジアムに似たような場所。コロシアムっていうのかな? 世界史で、ギリシアなんかではこういう所で奴隷同士を戦わせて楽しんだって習ったことがある。


 とにかく、地面は固い土でしっかりしているし、見通しも良い。



 対戦相手は、やはり15メートルほど離れたところに立っていた。全身を包む白いローブのような衣装の胸の辺りに青く何かロゴのようなものが刺繍されているのが辛うじて見える。トッププレイヤーの集まりであるパーティの中には、ああやってお揃いのマークみたいなものをつけているところがあるって聞いた事あるし……多分それだろう。


 見るからに強そうだなぁ……と思いながら私は【ディストラクション】の詠唱を開始する。



 ミルクちゃんも私の不安を察してか、私の左腕にしがみついている。その身体が小刻みに震えているような気がするのは気のせい――だと思いたい!




 すると、対戦相手がローブのフードを脱いだ。水色のサイドテールがフワッと揺れた。――あの子は!


「お久しぶりですね、ココアさん」


「ユキノちゃん!?」


 初日にチラッと会ってナンパ男たちから一緒に逃げた純粋系乙女のユキノちゃんだった。にしてもユキノちゃん、なんかめちゃくちゃ強そうになってませんか? 私の胸を触って慌てふためいていた彼女とは大違いの、なんというか――謎の落ち着きを感じる。精霊のミルクちゃんを見ても驚いた様子はないし。


「無事に逃げられたようで何よりです」


「そ、そっちもね……」


 相手がユキノちゃんだったことは予想外だけど、会話が始まったおかげで【ディストラクション】の詠唱完了までの時間が稼げるのは好都合だった。未だにユキノちゃんのジョブは分からないけれど、多分正面から戦って勝てる相手ではないだろう。

 場合によっては【即死回避】が発動しない状態で自爆することによる相打ちも覚悟しないといけない。

 相打ちでどう試合が決着するのかは不明だけど、【ディストラクション】の効果は『HPを全て削ってからその分のダメージを相手に与える』なので、先にHPが0になった私が負けになる可能性が高そうだ。


「今日は強くなった私の実力をたくさんお見せしますから――」


 と言いながらユキノちゃんはローブをバサッと後ろに脱ぎ捨てた。

 まず目を引いたのは、水色のスカーフ。そして黒い胸当てとスパッツそしてブーツというお腹も太ももも大胆に露出した、機能性に優れた装備。そして腰についているいくつかの武器。――あれ、もしかしてユキノちゃん、露出魔?



「――?」


「ミルクちゃんっ!!」



「――【変身(メタモルフォーゼ)】ッ!!」


 私の声に、すぐさまミルクちゃんが反応して、邪龍の姿に変身した。が、再び視線を戻した時にはすでにユキノちゃんの姿はそこにはなくて――


「憑依(エンチャント)、【雷撃(らいげき)】!」



 ――ガガガッ!!


 ――キァァァァァァッ!!



 ユキノちゃんの声と衝撃音、そしてミルクちゃんの咆哮。視界に一瞬黄色い光が見えた。恐らくユキノちゃんがミルクちゃんを雷で攻撃したのだろう。ミルクちゃんは突然の攻撃にフラつく。その頭の上に浮かんでいるHPバーは1割ほど削れていた。


 そして私たちは再びユキノちゃんの姿を見失ってしまう。

 まさか……私が一番恐れていた『アサシン』!?


「憑依(エンチャント)、【砂塵(さじん)】!」



 ――ブワッ!!


 ――キァァァァァ!!



 またしても削れるミルクちゃんのHP。ダメ! このままだとミルクちゃんが!

 でも、私はしっかりとミルクちゃんの頭部を殴りつけるユキノちゃんの姿を捉えることが出来た。多分、ミルクちゃんの身体でできた死角を移動して私たちの視界から上手く消えていたんだ。


「ミルクちゃん尻尾!」



 ――ビュンッ!!



 私の指示でミルクちゃんが大きく尻尾を振ってユキノちゃんを追い払う。そして、身軽に地面に着地した。その両手には篭手のようなものが装備されていて、右手には茶色い魔法陣と共に土の力が付与されているのが分かる。『エンチャンター』? いや、戦い方は『アサシン』だし、手の装備は『格闘家』のような気もする。どうなっているんだろう?



 ――ビュンビュンッ!!



 ユキノちゃんを目掛けてミルクちゃんが連続で尻尾を振るう。が、ユキノちゃんはそれを身軽なフットワークで軽々と交わしながら今度は私の方に駆けてくる。――速い!

 だとしたら作戦変更だ。私はウィンドウを操作して【ディストラクション】の詠唱を中断した、そして別の魔法を使用する。愛の証によって唱えられるミルクちゃんの魔法!


「【リトルボム】!」



 ――ボッ!



 私の杖から放たれる黒い炎。ユキノはあんなに薄着なんだから、こんな魔法でも当たれば結構痛いでしょう!

 しかし、ユキノちゃんは私の魔法などお構いなしに突っ込んでくる。うそっ!?


「二重憑依(ダブルエンチャント)、【氷結(ひょうけつ)】!」


 ユキノちゃんが左手に展開した青い魔法陣。私の放った魔法は、その左手に相殺されてしまう。そして、素早く振るわれる右腕、ユキノちゃんの腕が私の顔面を捉える。――でも大丈夫。なんとか追える!



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 スキル【幻惑】が発動しました! 攻撃を回避しました!


 スキル【自動反撃(オートカウンター)】が発動しました!


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 ユキノちゃんの攻撃が逸れ、体制を崩した彼女の脇腹に私は杖を押し付けた。


「はぁっ!!」


「っ!? 三重憑依(トリプルエンチャント)【烈風(れっぷう)】!」



 ――ブワッ!!



 と突風が吹いてユキノちゃんの姿が瞬時に消える。私の反撃は虚空を貫いただけだった。


「せぇいっ!!」



 ――ゴッ!!



 私の後ろから声がして、後頭部を衝撃が襲った。吹き飛ばされながら振り向くと、ユキノちゃんの回し蹴りが私の後頭部にヒットしたようだった。彼女の脚には緑色の光が宿っている。咄嗟に脚に風の力を憑依させて攻撃をかわしつつ背後に回って反撃をしたのだろう。


 これがというやつなの? 明らかにユキノちゃんの方が場馴れしているようだし、私のスキルにも臨機応変に対応している!


「いいですね。ノッてきましたよ!」


 ユキノちゃんはまだまだ余裕のようで、地面に倒れる私を見下ろしながらぴょんぴょんとステップを踏んでいる。



 ――勝てない



 そう思った。が、先程の後頭部の一撃は、衝撃を受けたものの全く痛くなかったし、HPバーも1ミリも減ってな――もしかして!?


「ぐっ……」


 背後で呻き声とともにドサッとなにかが倒れる音がした。慌てて振り返ると、変身が解けたミルクちゃんが、地面に倒れている。



 ――魔法【身代わり】



 ミルクちゃんが咄嗟に私を守るために使ったのだろう。あんなに使うなと言ったのに!


「ミルクちゃんっ!! このバカッ!!」


「大丈夫……ご主人様ば守るのがうちん役目やけん……」



「あらココアさん、もう終わりですか?」


 ユキノちゃんがゆっくりと私の元に歩いてくる。この子、見かけによらず結構ドSだよね。彼女は倒れている私に向けて、氷の力を宿した左腕を向けて――

 私は思わずニヤリとした。この瞬間を待っていたんだ!




「かかったな!! 【ディストラクション】っ!!!!」




【リトルボム】を放ってからすぐに詠唱を再開していた【ディストラクション】は、なんとか詠唱カウントダウンが0になっていた。私の身体から黒い光が溢れ、全身を痛みと快感が包み込む。


「――っ!?」


 ユキノちゃんが僅かに息を飲む音が聞こえた。

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