精霊との出会い! 〜ロリ巨乳だって抱っこされたい!〜

 ◇ ◆ ◇



「あのー、どこまで行くんですかー?」


 私は前を歩くホムラちゃんの背中に不満をぶつけた。もうかれこれ2時間くらいは歩いてる気がする。VR空間だからなのか全く疲れてはいないけれど、こんなことしてたらすぐに日が暮れちゃうよ!


「『精霊の谷』だ。お前がもうちょい早く走れたりしたらもっと早く着くんだけどな」


 むっ、それは暗に「お前がトロいせいで時間かかってんだ」ってことが言いたいのかな? 私だって必死についていってるんだよ……?


「こんな遠いなんて知らなかったんですよ!」


「うっせぇな。そんな穴場スポットが街の近くにあるわけねぇだろうが。まだ半分も来てねぇぞ?」


「うそん!」


 私は絶望した。ま、まだ半分も来てない……まだ半分も……ま……


「もうこうなったら、ホムラちゃんに抱っこしてもらうしかないですね!」


「なんでそうなる!? 自分で歩けよ足がついてるんだから!」


「さっきは抱っこしてくれたじゃないですか!」


「もうやらねぇよ!」


 私とホムラちゃんは額をくっつけるようにして言い争った。全く、お兄ちゃんみたいなことを言ってくるんだからこの子は! ――だったら私もお兄ちゃんを扱うようにホムラちゃんを御してやるからね!



「ねぇ、お願いします! おーねーがーいー!」


「いーやーだー!」


 駄々をこねるのはダメかぁ……次!


「抱っこしてくれたら、後でいいことしてあげますよ! えへへっ♡」


「いらねぇ!」


 色仕掛けもダメ……次!


「抱っこしてくれるホムラちゃんかっこいい! 可愛い! 天使みたい! 好き!」


「うるせぇ!!!!」


 ホムラちゃんは顔を真っ赤にしながら目を逸らす。……やった、褒め殺し成功!


「――まあそんだけ言うなら仕方ねぇか。このままだと日が暮れちまうし」


「そうそう、よろしくお願いし――うぁおっ!!」



 私が言い終わるよりも前に、ホムラちゃんは私を抱えあげて走り始めた。またしてもいきなりだったからびっくりした!


「しっかり掴まってろよ」


「あ、ありがとうございます……重いですか?」


「めちゃ重い!」



 ――バシッ!!



 私はホムラちゃんの体を思いっきり叩いた。ボディスーツのせいか、結構いい音がした。


「いってぇな! 落とすぞ!」


「ホムラちゃんのバカ! アホ! おたんこなす! 麻婆茄子!」


「うるせぇ!!」


 全く、どいつもこいつも、どうしてこうもデリカシーがないの!? ぷんぷん!

 でも、私を抱えて走るホムラちゃんの腕はとても頼もしくて――そして、なびく緋色の髪の毛からはなんかすごくいい匂いがして――私はすぐに全てを許してしまったのでした。



 ◇ ◆ ◇



「着いたぞ」


 ホムラちゃんのその声で私は目を覚ました。あまりに揺れとかが心地よかったから寝てしまっていたらしい。恥ずかしい!


「ふぇっ!? あ、あぁっ! 寝てません寝てません!」


 ていうか夢の中で寝れるってどういう仕組みなんだろう? さっきまでの私の脳内はどうなっていたの!?


「いや、ぐっすり寝てただろ……ったく、呑気なやつだぜ」


「くぅぅ、恥ずかし……」


 私はホムラちゃんに地面に降ろしてもらうと、照れ隠しの意味も含めて周囲を見回してみた。――森だ。でも昨日訪れた、木がうっそうと生い茂っている森とは違う。この森には木があって川があって草があって、石があって……うん、例えるなら渓谷! そう渓谷だよ!


 うーん、水が流れる音からマイナスイオンを感じる! ザ・自然って感じ!


「……いいところですね」


「だろ? ここには火、風、水、土、光、闇全ての精霊が住んでいる。だから空間の調和がとれてこんなに綺麗な景色ができるんだ……って誰かが言ってた」


 受け売りなんかい! まあホムラちゃんはそういうことあまり気にしなそうだしなぁ。


「で、ここで精霊さんと契約できるんですか?」


「あぁ、専用の『契約の印』っていうアイテムを消費して、自分に合った精霊を召喚して契約する……らしい」


 それも受け売りなんですね。……あれ、でも私そんなアイテム持ってないよ? はっ!? もしかして、そのアイテムは街で売っていて、取りに戻らないといけないパターン!? ここまで何時間もかかったのに!? うそぉ! やだよ! 早めに言ってよそれ!


「私……『契約の印』なんてもってない……」


「そうだろうと思って、ほら。やるよ」


 振り向くと、ホムラちゃんが何やら白い巻物のようなものを差し出してきた。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ホムラさんからトレードの申請がありました!


『契約の印』 ⇔ 1000ゴールド


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「お金取るんだ……」


「あたりめぇだろ! ナメてんのか! これ取るのにどんだけ苦労したと思ってるんだ!」


 えっ、てことは街で売ってないアイテム?


「ベータテストの時に……レアクエストだとかなんとか言われてやってみたらめちゃくちゃ難しいクエストで、貰えたのがたったのこれ! ハメられたと思ったね! オレ使えないアイテムだし。ロリ巨乳にやろうとしたんだが、いらないなら別に――」


「あぁぁぁぁぁぁっ! 嘘です嘘です! いりますいりますありがとうございまぁぁぁすっ!!!!」


 私は急いでトレードを承認した。どうせゴールドなら昨日ルークたちからぶんどったのがあるから全然余裕だし、ケチる必要もないよね。それよりも、自分でクエストクリアしろと言われる方が辛いかも。ホムラちゃんも苦戦するということは私には逆立ちしても無理なクエストだと思う。


 早速私は、手に入れた『契約の印』をストレージから選択し、『使用する』をタップしてみる。すると、目の前に自動的に白い巻物が広がって光り輝き始める。


「「おぉ……」」



 私とホムラちゃんは同時に感嘆の声を上げた。が、ホムラちゃんが突然


「契約したい精霊をイメージしろ。まあ、ロリ巨乳の場合は『闇霊使い』だから『インプ』とかになるんだろうけどな」


「え? なに? 妊婦?」


「インプだアホ!」


「あー、イ〇ポ!」


「お前絶対中身オッサンだろ!」


「ちがーう! ちがうちがうちがうもん!!!!」


 そうこうしているうちに、巻物の輝きはどんどん増してくる。やばいやばい早くしないと! えーっと、契約したい精霊? うーん、自爆をサポートしてくれる精霊とかいないのかな? または自爆するまで守ってくれる精霊とか、じばくじばく……とにかく自爆関係でお願いします!


 祈りが届いたのか、辺りがいきなり光が溢れた。光がおさまると――



 ――ゴゴゴゴゴ!!



 地響きがして、紫色の光に包まれながら目の前の地面からなにか巨大なものがせり上がってくる。なんか、巨大なモンスターの体っぽいんだけど! どうなってるの! 私が契約したいのはモンスターじゃなくて精霊なんだけど!?


「まさか……」


 ホムラちゃんが息を飲む。モンスターは、ウナギのようにうねうねした胴体に、いくつものヒレがついている紫色のオーラに包まれた謎の生物! こんなの見た事ないよ!


「『混沌精霊龍・カオスフェアリードラゴン』――辺りの精霊を総べる――『』だ!」



「へ? 自爆……?」


「逃げろ! とても敵う相手じゃ――」



 ――シャァァァァァァッ!!



 ホムラちゃんの声を遮って、モンスターが咆哮をあげた。

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