いきなり決闘! 〜ロリ巨乳だって仲間は大切です!〜

 ◇ ◆ ◇



「待たせたな。お嬢ちゃん」


 そこら辺に座り込んで、杖で土を削って地面に絵を描いたりして遊んでいると、予想に反して、数十分ほどでクラウスさんがやってきた。しかも彼は、私がかき集めておいた装備とほぼ同じものを装着していた。


「もう一組装備を持ってたんですか?」


「あぁ、俺は防御力極振りだけど魔法防御力には振ってないから、魔法攻撃を受けてよく死ぬんだよ……だから、死んだ時に落としても大丈夫なように、装備は二組持っているのさ」


 確かに……死んだら装備を落とすってことは、予備を持っていないとに……? 私、予備の装備持ってないよ? あ、でも、初期装備の『ぬののふく』をストレージにしまってあったかな。JKの脱ぎたてっていう付加価値がついたら高値で売れそうかなって思ってたけど、どうやらとっておいた方がいいかもしれないね。



「それにしても早かったですね。もっとかかるかと思ったんですけど」


「モンスターがまだ湧いてきてなかったからな。早めに来れた。さあ、湧かないうちに街まで帰るぞ」


「はいっ!」


 クラウスさんは、手早く自分の装備を拾うと、元来た道を帰り始める。私もその後についていった。


「……なぁ、お嬢ちゃん」


「なんですか?」


 首を傾げると、クラウスさんはニヤッと笑った。


「上手くいったな自爆!」


「はい! とっても気持ちい――上手くいきました!」


 不遇職の『闇霊使い』で残念魔法の『自爆魔法』、使いようによっては結構使えるかもしれない。初心者向けとはいえボスをほぼ一撃で倒せたのだから。しかも、自爆魔法の威力はこれからどんどん上がっていくだろう。


 いける。そう思った。私だって戦える! いつか、ベータテスターのお兄ちゃんを超えてやるもん!


 私は、ボスを倒して強化された自分のステータスを眺めた。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 名前︰ココア

 性別︰『女』

 種族︰『ホムンクルス』

 ジョブ︰『闇霊使い』


 ステータス

 レベル︰7

 HP︰530

 MP︰60

 STR︰5

 VIT︰7

 INT︰12

 RES︰10

 AGI︰6

 DEX︰8

 RUK︰9


 スキル

【即死回避】 【幻惑】 【自動反撃】 【究極背水】 【初心者の証】 【赤い糸】 【自爆強化】


 魔法

【完全脱衣】 【ディストラクション】


 装備

 武器︰精霊の杖

 頭︰生命のサークレット

 体︰精霊のワンピース

 腕︰生命の腕輪

 足︰生命のアンクレット

 装飾品︰精霊の髪飾り


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 さっきは【ディストラクション】で900のダメージだったけれど、今は【自爆強化】のおかげでダメージは2000を超えるようになった。成長が著しい! これからどんなスキルが手に入るのかも楽しみ!


 私とクラウスさんは、意気揚々と街に引きあげていくのだった。



 ◇ ◆ ◇



 森を出て、街の中にそびえる城の石造りの塔を目指して歩いていると、突然クラウスさんが立ち止まり、手で私を制した。

 城を眺めていた私はそれに気づかずに、クラウスさんの背中に顔面から突っ込んでしまった。


「ぶぇっ!?」


「おい、前向いて歩けよお嬢ちゃん」


「見てますよ! ちょっとお城眺めてただけじゃないですか!」


「――冗談言ってられる状況じゃなくなったぜ」


 一段とトーンが下がるクラウスさんの声に、私が改めて周囲を見回すと。なんと、私たちは十人ほどのプレイヤーらしき人間の集団に囲まれていた! なに? ファンクラブ? 私にファンクラブが出来ちゃったのかな!?



 って、そんなわけはなく、ファンクラブ――じゃなくて、集団の中から一人の男が進み出てきた。くすんだ緑色の短い髪の毛に、皮の鎧をつけた長身の男。装備は軽めだけど、その佇まいは明らかに場数を踏んでいるような威圧感があった。――多分ベータテスターだ。


「よォよォ、雑魚のクラウスくんじャねェか! こンなところで奇遇だなァ?」


「――何の用だルーク? お前らとは縁を切ったはずだが?」


 クラウスさんは私を背中に庇うようにしながら、ルークと呼ばれた男と向かい合う。なにこれ? ベータテスター同士のいざこざ? 私は……クラウスさんはどうなっちゃうの?


「縁切ッたッてンなら、ここでボコボコにして有り金奪ッても文句ねェッてことだよなァ?」


「チッ……逃げろお嬢ちゃん」


 背後に隠れる私に向かったクラウスさんは呟く。しかし私は首を横に振った。


「なんだかよく分かりませんけど、仲間を置いて逃げるなんてできませんよ!」




「おや? おやおや? こりァたまげたなァ! クラウスくん、お前女連れてンのかァ?」


「こいつは俺とはなにも関係ない。たまたまそこら辺で出会っただけだ」


「関係ねェならオレらがもらッても構わねェな? この女、結構器量よしだから楽しませてもらうぜェ?」


 下卑た笑いを浮かべるルーク。典型的なじゃん! ちょっとムカついた! 私、この人とクラウスさんの関係はよく分からないけど、クラウスさんがバカにされてることと私がえっちな目で見られていることは分かった。


「男なら正々堂々1対1で勝負しなさいよこのバジルチキン!」


 私はクラウスさんの前に立ち塞がると、手を広げて精一杯背伸びしてみた。


「お、おいお嬢――」


「ほォ? そンなら1体1の『決闘(デュエル)』、受けて立ってやろうじャねェか! ――おい! お前がやれ!」


「分かった」


 たろうまる? と、ルークが背後に呼びかけると、私たちを遠巻きにしていた集団の中から、金色の鎧を身にまとった金髪のイケメン騎士が現れた。あれがたろうまるだろうか? クラウスさんの色違いのような……そんな雰囲気だけど威圧感が全然違う。この人はクラウスさんよりも一回り……いや、それ以上強いかもしれない。恐るべしたろうまる!




「で、そっちはどちらが行くんだ?」


「俺が――」


「私がいく!!!!」


 たろうまるさんの問いかけに、私はクラウスさんを遮って元気よく手を上げた。


「おい、お嬢ちゃん!」


「クラウスさん、!」


「け、けどよ!」


「大丈夫! 今の私は結構ムカついてるから!」


 口調にイライラを滲ませながら言うと、クラウスさんはもうそれ以上何も言わなくなった。私は今とにかく、この無礼な奴らをボコボコにしてやりたかった。


「おいマジかよ、女。その装備『精霊使い』だろ! 『精霊使い』はどう足掻いても、たろうまるの『聖騎士(パラディン)』には敵わねェんだよ。相性的な問題でなァ!」


 ルークがたろうまるの後ろからムカつく表情で煽ってくる。

 むかーっ! もう許さない!




「やってみなきゃわかんないじゃん!」


 そもそも私、『精霊使い』じゃなくて『闇霊使い』だし!


「初心者が……哀れだな。格の違いを見せつけてやる」


 私とたろうまるが武器を構えると、周りの人達はクラウスさんも含めて何歩か下がって遠巻きに様子を見始めた。クラウスさんはめちゃくちゃ心配そうな顔してるけど。


「――『決闘』のルールはでいいな?」


 ……へ? 何それよくわかんない。


「もちろんいいよ!」


 よくわかんないけど、私は自信満々に答えた。こういうのはノリと勢いだ。萎縮していては勝てるものも勝てなくなってしまう。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 たろうまるさんから決闘の申し込みがありました!


 承認◀

 拒否


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 へぇ、こんなのあるんだ。私は腹を括って承認をタップした。


『決闘を開始します』というメッセージと共に、ウィンドウ上で10秒のカウントダウンが始まる。恐らく0になったらスタートなのだろう。私はウィンドウを操作して【ディストラクション】の詠唱を開始した。これしか攻撃魔法がないからこれを使うしかない。


 成り行き上よく分からないうちにやることになってしまった決闘だけど、絶対に負けられない! なぜなら私の――私とクラウスさんのプライドがかかっているから!


 私のやることはただ1つ、詠唱が終わるまでノーダメージで耐えるだけ! でも今回は頼りになる壁役のクラウスさんはいない。自分でなんとかするんだ!

 決意を固めた私の目の前で――



 ――カウントダウンが0になった

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