出席番号3番君と4番ちゃんの話

おっとと、その前に。


ここまでで三つ、私は自分の話じゃなくて誰かの話をしたよね。最初の痴漢野郎グッバイ事件を入れれば四つか。

どれもこれも私自身の話じゃない。

別に出し惜しみとか、話がないからっていうことじゃないよ。


私は、この同窓会に来るまで何を話そうか考えてた。がたごとがたごとバスに乗りながら、大好きな同級生に最期に何を伝えようか。ずっとずっと考えていたんだ。


そしたらね。うん。やっぱり私はあの人のことをみんなに伝えたいなって思ったんだ。

私たちの町を走る、走り続けるバスの車掌さん。私の恋した車掌さん。


だから聞いて。

私は、とっておきの話として桜ヶ原の七不思議の二つ目をみんなに語る。


七不思議、二つ目は停留所。


停留所の答えを言っちゃうとね。

それは桜ヶ原に生きる人たち。人がバスの停まる停留所なの。


だから私は自分以外の停留所の話をしたんだよ。

せんじょうえき、両隣の家、地下通路。

どれも、誰かの、何処かの停留所の話。


はい! これでお話は終わり!


なーんてことはありませーん。


確かに話のタイトルは『停留所』。でも、重要なのはその停留所に誰が来るか。

決まってるでしょ?

バスが来るんだよ。人がいるところにバスが来るの。

だって人は停留所なんだもん。

停留所の所にバスが来る。

当然でしょ?




そしたら、バスは人を乗せて次の停留所に向かう。




じゃあ、次の停留所の話をしようか。




一時期コンビニがあった、あの角の話をしようか。出席番号3番君と4番ちゃんの後輩君たちが経営してたそうだね。

今はもうないけど、結構長続きしてた方だよ。早いと一週間でいなくなるお店だってあったんだから。後輩君たち、優秀だったんだよ。ほら、もっと胸張りなって。そういうのはもっと自慢してもいいんだって。


「まもなくー

角のコンビニー

角のコンビニー

お降りの方は必要なものをご購入の後、お戻りください」


今年の中華まんのセール、まだかな? あ、昨日までだった。







~『ひきづる音』『ひきづられる音』『引き戻す音』~


俺の元後輩がコンビニのオーナーになったんだ。

…いや、そのコンビニはもうないんだけどな。


やたら出入りが激しかったあの角のコンビニだよ。

噂だと、オーナーが失踪したから閉店したって話だろ?

ちょっと違うんだよ。


これはそのオーナーの婚約者から聞いた話だ。


そいつのコンビニが入る前は1ヶ月、早くて1週間くらいで店が代わってた。

色々噂はあったけど、これといった理由は誰も知らなかった。


何ヵ月か前に、会社を辞めてコンビニのオーナーになるっていう連絡が俺のところにきた。

俺の地元だったから何回か利用して、そいつとも会ってたよ。「安く借りられた」ってそいつは言ってた。ただ、出入りが激しい場所だってことは知ってたんで、少しだけ心配だった。

だけど結局1週間経っても何もなくて、経営も案外順調だったんで、ああ、ただの噂だったんだなって思ってたんだ。


その矢先に、突然そいつはいなくなった。


警察にも届け出を出して、俺も手伝って捜したんだ。でも見つからない。

結局行方不明の失踪扱いになった。


失踪なんてする理由がないんだよ。

そいつ。

コンビニの経営も軌道に乗り始めて、シフトも余裕ありすぎるくらいゆったりと組んであったらしい。

人が足りない時間は自分が率先して入る。アルバイトに負担をかけたら、オーナーとしての価値が下がる。それでも無理はしないで、きついと思ったら誰かに相談する。

いいやつだろ?


しかも、この話をしてくれたのはそいつの婚約者。

いなくなる二日前に入籍してるんだよ。

二日前。

式の予約も来月しに行く予定だったらしい。

そんな幸せの絶頂にあるやつが失踪なんてするか?

するわけないだろ。


だから、その婚約者はそいつと親しかった俺のところに相談を持ち掛けてきたってわけだ。

彼女自身、俺の彼女…先日入籍したから嫁さんか。俺の嫁さんと親しいからってこともあるけど。


おい、そこ。

ニヤニヤすんな。

そうだよ。偶然にも小学生のときに出席番号が後ろになったあいつだよ。

今も昔も可愛いだろ?俺の嫁さんは。

のろけはいい?誰のせいだ。


ごほん。

話を戻すぞ?


理由も分かんないまま、そいつがいなくなって二週間が経った頃。

コンビニのシフトは一ヶ月まとめて組んであるんで、そいつの分は一緒に働いてた彼女と有志で埋めてたらしい。


丁度その日、彼女は深夜の夜勤に入ってたんだって。もちろん安全面のためにもう一人一緒のやつがいたらしい。

この「深夜」っていうのはガチの深夜な。

日付が変わった朝(未明?)1時から朝5時までが深夜タイム。


この時間は客が極めて少ないんで、菓子とか雑貨の商品陳列・看板とかの外掃除がメインの仕事なんだって。

で、もう一人が外の掃除してる間に彼女は商品陳列を店内でしてたんだって。


その時間にさ。

店内放送が、変な時があったらしいんだよね。


別に店員がアナウンスを入れるとかっていう放送システムじゃなくて、多分パソコンとかに本部から送られてくる音楽とセールのアピールとかをただひたすら繰り返して流すタイプの放送。

繰り返しだから、時間によって違うってことはない。


突然流れていた音楽が止まって、うんともすんともいわない。

雑音すら入らない妙な時間。


流石に彼女も不審に思って、事務所のパソコンを見に行こうとしたらまた音楽が鳴り始めたらしい。

接触不良とかって原因も考えられるんだけど、彼女はどうも気にかかったらしい。

彼女は他の深夜組の人にもそういうことはあったかって聞いたんだって。

でも、そんなの1度もないってみんな言う。


たまたまだったんだろ?

そうだよ。たまたまだったんだよ。

たまたま彼女が深夜に入った日に、しかも彼女が一人になったときにそういうことが起こったんだよ。


たまたま

それが

30回以上

続いていてもな


たまたまなわけないじゃん。

彼女が深夜出勤する度に起こるそうだぜ?


でさ。

その放送について詳しいことを聞いたら、彼女、震えながら話してくれるんだ。


初めは無音だった。


回数が増えてくると、ざっ…ざっ…って足を引きずるような音が混じってきた。


嫌な予感がして、彼女にもういいって言おうとしたとき、彼女叫んだんだよ。


あの人の声が混じってる。


って。


えって思って、続きを聞いた。


足を引きずるような音に混じって「ごめん」「いやだ」「やめて」って声が聞こえ始めた。

昨日も深夜入った。

そしたら




「タスケテ、××」





そいつの声で、はっきりと自分の名前を呼ばれたんだってさ。


ここまでが俺の聞いた話。

もちろん俺の嫁さんも聞いてる話だ。


ここからは俺に起こった話だ。


その日も彼女、そいつの声を聞きたくて深夜出勤交代してもらったんだってさ。

彼女はまたその放送を聞くんだろうと思ってた。


俺も、俺の嫁さんも二人のことが心配なんだよ。

嫌な予感はずっと続いていた。

その日は二人で彼女の話を聞きに行くつもりだった。


そのときは、どうかその「なにかを」引きずる音が、「そいつを」引きずる音ではないように願うばかりだったんだ。


彼女と待ち合わせをしていた時間まで暇していたら、

♪~

一通のLINEが入ったんだ。だれからだと思って見てみたら、なんといなくなったはずのそいつからだった。


その内容を見てさ、俺思ったんだ。助けてやるって。

だってさ。

そいつが俺のこと指定してきたんだ。

応えてやらなきゃ先輩じゃねぇよ。


○○からのLINEメール

「センパイ マッテマス タスケテ」


そのLINEにいくら返信を送っても、結局返信は返ってこなかったし、既読すら付くこともなかった。






前の彼と同じ話になるんだけどね。


私の先日入籍した夫の元後輩くんがコンビニのオーナーになったの。

ええ、同じ人よ。

私の後輩がその人と入籍したの。


…ああ、そのコンビニはもうなくて、次のお店もまだ入っていないみたいじゃない?


ほら、やたら出入りが激しかったあの角のコンビニ。

みんなも知ってるでしょう?


これはそのオーナーがいなくなった少し後の話。

オーナーの婚約者だった私の後輩から聞いた話。


私の可愛がってる後輩は、数ヵ月前にずっと付き合ってた人と入籍したの。

私もその子もすごく嬉しくてはしゃいでた。

その子の旦那さんになった人は、本当に偶然なんだけどね。私の先日入籍した彼の元後輩だったの。


ちょっと、そこの君。

ニヤニヤしないでよ。


彼は特に言ってなかったけど、向こうの人はすごく彼に懐いていたみたい。

その人は何ヵ月も前に私たちの地元に来て、コンビニのオーナーになったの。

もちろん私の後輩も一緒に来て、コンビニの店長として頑張ってた。


オーナーと店長は違うからね?

夫婦でコンビニをやるんだったら、オーナーが旦那さん・店長が奥さんって所が多いみたい。


経営も軌道に乗ってきて。

金銭関係も人間関係も良好。

ずっと付き合ってた二人も将来を誓って入籍して。

幸せの絶頂にいたんだよ。

それなのに。


その人は急にいなくなってしまった。


いなくなる理由なんてこれっぽっちもなかった。

彼女はその人がすぐ戻ると信じてお店を回した。

深夜での出勤も入るようになった。

安全面を考慮した二人でのシフトは彼女の旦那さんになった人が考えたもの。

それでも店内に一人だけっていう時間はできるよね。

そのときに少しだけ、変な放送が流れたんだって。


初めは無音。音楽とかの途中なのに、ぶつりと急に音が途切れたんだって。


一回だけだったら、まあそんなこともあるかなって思うんだけど。

こんなことが二回三回…四十回なんて続いたんだって。


それは決まって彼女が深夜に一人の時に。


しかもその無音だった放送に変な音が少しずつ混ざり始めたんだって。


…………

…ざっ………

ざっ………ざっ………

…ざっ………ざっ…


何かを引きずる音が混ざり始めた。


ざっ……めて……

…ざっ……い……はな…ざっ…

…いや…ざっ……ざっ……て……


誰かの声が混ざり始めた。


その声は。


……ざっ……ざっ…タス…ざっ…


彼女が帰りを待つ、彼のものだった。


…タス…ざっ…ケテ……ざっ…××…


彼の声が彼女の名前を呼んだ。


「タスケテ ××」


その話を私と私の方の旦那さんに話しているとき、彼女は泣き崩れていた。

あの声は絶対にあの人だ

私はどうすればいいの?

あの人が助けを求めているのに自分は何も出来ないの?

彼女はもう限界だったんだと思う。


今日も彼女が心配で、私の旦那さんと一緒に話を聞きに行く予定なの。

でもね。

さっきその旦那さんからとんでもない連絡がきた。

いなくなったその人からメールがきたんだって。

「センパイ マッテマス タスケテ」って。

LINEだったから彼はその後いくつかメッセージを送ったらしいんだけど、既読は付かないんだって。


その日の待ち合わせの時間までまだ余裕があった。

自分を指名してきたんだからできる限りやってみるって、彼は言ってた。

色々調べてみるって。




そう。

ここまでが私の旦那さんも知っているさっき言ってた「引きずる音」の話。


でもね、実はその話には続きがあるの。

彼女と親しかった私が聞いた話。




「タスケテ」って声が聞こえた放送の後も、変な放送は続いた。

でも、なんか変なんだって。

ざっ、っていう引きずる音が…例えばその音を足を引きずる音だとするでしょ?それだと、一応足を引きずっている人は自分で歩いている状態になるよね?


それが…

ずるっずるっ、って引きずられる音になったんだって。

なんか重い荷物を引きずる時に出る音。

その時には、声はもう聞こえなくなってたんだって。

ただ、得体の知れない不安が彼女の心を支配した。彼はどうなってしまったの?って。


彼女はもう不安で不安で、毎日深夜に勤務時間を作ってた。その「放送」を聞くためだけに。


その引きずられる音は始めはゆっくりと。


…ずるっ……ずるっ…


次第に速く、容赦なく「物」を引きずるような音になっていった。


ずるずるっ…ずるっ…ずるっ…ずるずるっ…


ずずっ…ずるずるっ…ずずー…ずるずるー…


それは普通じゃ考えられないくらいの速さで引きずられる音なんだって。

しかも、それを聞いていると自分の体が引きずられているように感じる。

真っ暗な穴の奥へ引きずられるように。

しかも時折、がさがさと何かが擦れるような音も混ざるんだって。

足になにか巻き付いている気がするんだって。


彼女、言ってたわ。

「ああ、もうダメなのかもしれない。」


待ち合わせの時間まで一時間を少し切ったくらいだったかな。


♪~


私のスマホにLINEが入った。

彼女からだった。


あのね。

私の可愛い後輩である彼女はとてもいい子なの。

もちろん、その旦那さんとなったあの人も。

私は、二人を助けたかった。

もう、その時既に手遅れになってしまっていたとしても。

私は最後まで諦めたくない。

みんなも知っている通り、昔から諦めが悪いのが私の長所であり短所だったわ。


××からのLINEメール

「センパイ ゴメンナサイ」


その日、彼女に会うことは結局できなかった。






俺の元後輩はいなくなった。

そして、その入籍したばかりの奥さんもいなくなった。


二人が経営していたコンビニは、今ある在庫の分だけは売り切って後は一旦休業するという形にした。

従業員たちは二人が戻ってくると信じている。

二人がそれだけ信頼されているということだ。


俺たちは二人のそれぞれの先輩だ。

二人は大事に大事にしていた後輩なんだ。

大事で可愛い後輩である。


待ってろよ、きっと助けてやるから。


ところで、話はかわるが一応言っておく。

俺たちはそういう専門じゃないから。

探偵とか霊祓師とかじゃないから。


ないけどさ。


明らかに今回のこれってあれだろ。

霊的案件。別名ホラー。


出来れば昔馴染みの寺の息子に見てもらうのがはやかったんだけど…ほら、お前だよ。

お前あの時ちょっと事情があって会えなかっただろ。

だから、これは俺たち二人でなんとかするしかなかったんだ。


まずは手近からということで…


不動産に行った。

コンビニの場所を貸していた不動産だ。


何も知らなかった。

そこの奴らは、本当にただ貸していただけだった。毎回、やけに早く返したがるなーと思う程度だったらしい。

そいつらは地元の、ここらの出身ではなく余所者だった。


とりあえず、間取り図だけぶんどってきた。

嫁さんが。

強い嫁さんを持って俺は幸せだze…


で、だ。

見取り図をじーーーっと見ると、一ヶ所だけ変な所があった。変な、空白。

そこがさ。


事務室

のパソコン

のちょうど真下


二人して言ったよ。

「これ、フラグだ」


店内放送はパソコンから流している。

まあ、実際は直接って訳でもないけどな。

でも店内放送が変だったんだから、まあ何かしら流してたパソコンにも~っていう安直な考えだ。


大体こういう場合は…

パソコンの真下の床が開く

→開いた

人が通れそうな空間が広がっている

→広がっている

行方不明中の二人の持ち物が落ちている

→男性の靴、キャラもののボールペン発見

何かが引き摺られた跡がある

→………ある。


多分さ。多分なんだけど。

二人ともここから引き摺られていったって考えるのが普通だよな。

あの時、隣にいる嫁さんがすっごく苦い顔していた。せっかく可愛い顔してるのに。


だが。ここで突撃をかます無謀な俺たちではありません。

事前調査は必要なのさ。


一旦開いた床をぱたんと閉じた。

俺たちは思い出す。調べてきたことを。

昔から経験してきたこの地元での体験を。


俺たちの地元は「桜ヶ原」という名前だ。

その名前の通り、桜にまつわる言い伝えとか伝承・怪談何てものがいくつもある。

実際に、俺たちはそのいくつもを体験している。

そうだろ?みんな。

たまたま?否。

俺も嫁さんも、そしてあの日同じ「約束」を交わしたお前たち仲間たちも。わかった上でその道を通ってきた。

通る道は選べないからな。

俺と嫁さんが選ばれた道がこれだっただけなんだ。

だから、今だって後悔はしていない。


でも、それに大切な後輩を巻き込むことは許さない。


さて、今回の「これ」もきっとその一つだろう。それっぽい話、あったっけ?


多分あれじゃない?

隣にいる嫁さんが目をしっかりと見て話し出す。


「死ねない桜」の話。

この地にあった数知れない桜の樹は、今では一本を残して姿を消した。

消えてしまった樹の中で一本だけ、中途半端な樹があった。

それが死ねない桜。

他の樹と同じようにその大木は切られ姿を消した


はずだった。


その樹のある場所は「たまたま」水がよく流れていて、根から水をひたすら吸収してしまう。

切っても切っても根っこが生きたままになり、死ねない状態で今でもどこかで生き続けている。


それだけだったらいいのだが。


その桜は貪欲だった。

豊かな水だけでは飽き足らず、肥料を欲した。


ゴハン ガ ホシイ


と。


その長い根を自在に操り、獲物をゆっくりと締め上げ、息が絶えたところでバラバラにして、根元に引きづり込んで、満足げに喰らい出したのだ。

その桜は。

慄(おのの)いた人々は、桜が満腹になって眠り始めた頃を見計らい埋めた。

というより、上に土やら石やら木材やらを被せ埋め立てたのだ。

桜が起きた頃には身動きが出来ない土の山の中。


それでも根は今だに水だけは吸い続けるので、死ぬことは出来ないままである。


これが「死ねない桜」の話ね。

たしか、小学校にあった地図の特別危険地域ってその辺りじゃなかった?


Oh,記憶力のいい嫁さんを持って得したYo…

じゃなかった。

その「特別危険地域」って一ヶ所だけじゃなかったか?

つまり…そこが一番ヤバイ所ってことだろ。


なんでそんな簡単に貸し出すんだよ、不動産。

伝承甘く見んな。

最近の不動産って手軽過ぎやしないか?

不動産に今更怒ってもしょうがないので、現実を見た。


その「死ねない桜」がそのコンビニの下にあったとして。

行方不明の人たちは桜のゴハンになったんだろうな。桜ごはんじゃないけど。


一回のゴハンにどれだけの時間と量が必要かはわからなかった。

けど、二人がまだ生きていると信じていたかったんだ。

そのまま直に突撃したら俺たちもゴハンになること間違いなし。

なんせ相手は「死ねない」んだからな。


なので、ここで俺たちがすべきことはあれだ。

直談判と交換条件。

ということで行ってきたわけだ。

さくら公園にある「最後の桜」姫のところへ。


はっきり言うとヤバかったわ。

よくあんなことしたなって思う。

「あのコンビニの下の桜、食い過ぎ。

俺たちの大事な後輩が持ってかれたんだけど、どうしてくれんの?

余所者だけど、地元の奴らにも優しかっただろ?


返せよ」


あの桜は答えれくれたよ。

「私の身内が迷惑をかけた。

あれには私も困っている。

確かに最近あれは食べ過ぎだ。だが、すぐに餌を返せと言っても返さないだろう。

代わりのものを差し出せば話は違ってくるだろうが」


「なら、ここに一つ代わりがあるぜ」

「二つ目もあるわよ」


俺達が代わりになるから、あの二人を返せ。

桜は了承したぜ。


ただ、俺たちは地元民だからと言って条件を出してきたけどな。


一つ。

自分たちで死ぬから、それまでは手を出させるな。死体は好きにしていい。

一つ。「約束」があるからしばらく時間を寄越せ。「約束」を守らなかったらそっちも困るだろ?


それからあいつらを迎えに行って、そのままじゃいけないから後処理して、時が来たら終わらせて、ここってわけだ。


あいつらのその後な。

桜ヶ原を出たすぐの所を借りてコンビニを移店させた。従業員もまるっと変更なしで納まったしよかったよ。

あの二人の人柄の良さが反映されたな。


そいつと最期に会った時さ。

本当にこんなにいい後輩が持てて幸せだなって思った。

のこせること、教えられることは全部やったと思う。

俺たちが小学生の頃に素晴らしい先生に出会えたように、そいつにとってもいい出会いだったと言ってもらえたら最高だ。






その子と最期に会った時ね。

本当にこんなにいい後輩が持てて幸せだなって思った。

この時の件で、あの二人の足首には消えないであろう桜の根にきつく絞められた跡が残っちゃった。私はそれが申し訳なくて、戻ってきたオーナーである彼に私たちが何をしたのかそっと教えてきた。


のこせること、教えられることは全部やったわ。

心残りがあるとすれば、そうね。あの子たちの子どもが見られないことかしらね。

実は…最期に会った時、その子妊娠していたの。

これからは三人で幸せになってね、って言ってきたわ。







ふんふ~ん♪

あ、サボってない! サボってないよ!?


ほら、みんなの話はみんなの話でしょ? 私の話ってわけじゃないんだよね。だから、間に私の言葉を入れるべきじゃないって思うんだ。

だから黙って聞いてたってわけ!

まあまあ。私だって人の話を聞いて横流しにするだけじゃないよ。でも、とりあえず今はみんなも黙って聞いててよ。こんな話もあったなってさ。


一つ一つの話が一つ一つの停留所なの。

とまって話を聞いてみようよ。


例えばさ、私たちはバスに乗ってる。町を、桜ヶ原をぐるぐる廻ってる。

がたん。停留所に停まる。そこは誰かの停留所。

ここは◯◯の停留所。

そうアナウンスが車内に入るんだ。彼の声でね。


誰かの話が終わったら次の停留所に向かってバスは発進する。


ほら、次の停留所の話だよ。

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