参考資料⑤

週間盾波(2019年12月1日付)

 「イゼウシ教団の実態」




「もう、これ以上人が死ぬのは嫌なんです」


 とある地方都市のカフェで告発者のYさんは私にこう言った。午後の日差しが差し込む穏やかな日には似合わない言葉だった。ここ最近、週刊誌などで取り上げられる霊能力集団「イゼウシ教団」。Yさんはその中枢にいるという。


「私は生まれた時から役職を指定されて育てられてきました。生活も友達関係も全て村の長たちによって管理されてきましたし、それが普通だと思っていました。六歳で小学校にもいかず、ひたすら勉強の日々。


 そして十二のときに初めて『患者』を見たのです。


 私は『悪い気』がいると感じて、丁寧に『見て』その気に効き目のある粉を調合しました。そして事前の身辺調査をもとに考えたストーリーを話し、『患者』に服用させました。すると『患者』はみるみる回復し、お礼の言葉を口にしました。この時はまだ、彼らの言う通りでいるのも悪くないな、と思っていました」


 しかし、彼らの思惑は人を助けることではなかったという。


「例えばある時、体重が増えないという悩みを持つ男性がお見えになりました。男性は目に見えて異常はないものの、症状から明らかに甲状腺機能亢進症そのものでした。私はそれに見合う粉を調合しました。すると男性はみるみる体重が増えていって喜んでいました。


 しかし、長はそれでよしとしませんでした。彼の食欲を助長するために食欲増進作用のあるグレリンを粉の中に加えろと言ったのです。そしてこう言うよう指示しました。


『幽霊があなたの食欲を増進させている。減らすにはもっと粉を飲まなければならない』


 それを伝えると男性は素直に応じて粉をより摂取するようになりました。体型は目に見えて肥満体だとわかるくらいまで膨れていきました。


 さらに幽霊の力による肩こりを軽減させるという名目で特殊な模様がプリントされたリュックを持たせました。この模様は普通の人が見ると、ただのリュックにしか見えませんが、青色盲の方が見ると顔が潰れた幽霊のように見えるのです。これで、ある人たちには彼の背中に幽霊が取り憑いていたと思えたでしょう……」


(中略)


「『患者』を見ている中でも治せない気に取り憑かれていらっしゃる方がいます。そう言った方には『無理やり除霊する方法』を推奨することにしていました。とは言いましても方法は簡単です。屋敷の裏手にある崖、そこから身投げをすることです。


 それで今まで多くの方がこの儀式を受けられました。私は命の危険があると何度もお伝えしたのですが、それでも彼らは悪い気を取り払うことに執着しているようでした。


 私はそれに耐えることができなかった。自分の命を大切せずに目の前の問題を解決しようとする人も、何より彼らをそういう思考に誘導して暴利を貪っている村の連中を。だから、私は今日ここに来たのです」


(中略)


 今回の告発でイゼウシ教団がいくつかの法に抵触している可能性が出てきた。まずは医師免許も持たないのに医療行為を行ったこと、あえて間違った情報を被害者に伝えて余計利益を得ようとしていたこと、そして被害者に暗に自殺するようほのめかしていたこと。他にもかなりの違反行為がありそうだ。


 この告発を機に警察が捜査に乗り出してくれることを強く要望する。(一部抜粋)

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