第12話 Sクラスになりました。


 壇上に現れた皇子は素晴らしく麗しい。

 その場に佇むだけで、周囲の視線を根こそぎ奪う吸引力がある。

 皇族のカリスマ性に絶世の美貌が合わさると、破壊力スゴイ。

 皇子が何も語らずとも会場は物音ひとつしない静寂に包まれる。


 そっと周囲を伺うと、種類は違えど皆が熱の篭った眼差しを浮かべ、壇上に立つ皇子を見つめている。


 一一神様でも降臨したのかな?


 何てふざけた思考になるのも赦して欲しい。

 宗教めいた空気を感じて怖いのだ。



 皇子もこの異様な空気を感じているのだろう。

 少し困ったように苦笑して見せ、話し始めた。


「皆、楽にして聞いて欲しい。

 私は皇族ではあるが、今日からインフェリア学園に入学した一生徒だ。

 学園では共に学ぶことになる。

 切磋琢磨出来る事が今から楽しみだ。


 さて…今年度、インフェリア皇立学園に入学したクロード・レイ・インフェリアだ---」




 時折、私が聞いているのかチラチラと皇子と目が合いながら、皇子は滑らかに演説を終わらせた。

 私は、皇子がチラチラと見るお陰で周囲の視線を感じて、皇子の演説内容にあまり集中出来なかった。


 壇上からこちらに戻って来た皇子の表情が人懐こい仔犬の様に「どうだった?どうだった?」とキラキラした瞳で訊ねていたので、微笑み頷いておいた。



 何をさせても完璧で、期待された更に上の結果を残すハイスペック皇子なのに、こんな可愛い態度を時々してくるのが、サフィリーンはかなりツボだったりする。


 全神経を一点集中させ、その激しい衝動をグッと我慢するが、心の中では皇子の豊かな白金の髪を「よーしよしよしよし」と話しかけながら、ぐしゃぐしゃ撫で回して可愛がっている。


 皇子あざと可愛すぎでしょ!

 見た目は美しいのに表情や仕草に可愛さを感じさせてくるなんて…ほんと狡い!


 いつまで私の理性が持つか……

 学園でそんな醜態は絶対に晒せない。

 頬の内側を噛んで痛みで堪えるしかないかもしれない。

 どうかこれ以上クロード皇子が可愛くなりませんように!


 最後は神頼みとばかりに、サフィリーンは神に祈るのであった。







 入学式は滞りなく終了し、各自指定された教室へと移動する。


 皇子にエスコートされながら、皇子と同じクラスへと移動した。


 無論、優秀過ぎる2人は共にSクラスである。


 SからDまでクラスがあるが、サフィリーンがAクラスの能力しかなくともSにされていたであろう。

 皇子はサフィリーンを己の傍から、少しでも離すつもりはないのだから。



 担任は騎士のような体格でありながら、魔法省から派遣されて来たという教師だった。

 見た目が逞しいのに魔法省に在籍しているギャップで、教師のエミリオ・ラザルスという名前は直ぐに覚えた。


 輝く赤い髪に澄んだ緑色の瞳の美丈夫の容姿を持つエミリオ先生は、既にこのクラスの令嬢に熱い視線を向けられている。




 学園に魔法省から講師が派遣されてきたりするのね…



 学園に魔法省の現役の職員が講師としてくるのは、皇子が入学した事に関係しているのかもしれない。


 皇子の魔力は膨大で、皇家の魔宝具などで厳重に抑えられているとはいえ、何事にも絶対はないのだから、用心に越した事はないのだから。


 それは後に魔術省から副担任が派遣されていると紹介されて、ほぼ確信に変わった。


 レイダル・リーザック、魔術省から派遣された講師でSクラスの副担任。

 長い黒髪を後ろでひとつに纏めて、銀色のフレームの眼鏡をかけている。

 切れ長の眼差しは神経質そうで、気難しそうだ。

 優秀な人間は見目も優秀なのだろう。

 エミリオ先生とは、系統こそ違うが線の細い美青年である。

 それにしても…朗らかに笑うエミリオ先生はともかく、レイダル先生は講師には不向きじゃないのか?と思えるほど人当たりは良くなさそうだ。

 一貫して無口・無表情だもの。

 レイダル先生がしなければならない本人の自己紹介だって、教壇に立つレイダル先生が何も語らない為、無言が続くのに耐えられなかった、エミリオ先生が代わりにやってくれていた。

 初日からこれからのエミリオ先生の苦労が占い師でなくとも予想できる。

 


 レイダル先生は、魔術省の職員に支給される、魔術省である刻印が施された黒いローブを着ている。

 無口で無表情だから冷たい美貌が強調され、黒いローブと相まって、魔術省というやより魔の使いにすら見える。


 ―――余計な事はあまり考えないようにしておこう。



 皇子1人に2人も必要だというのは、それだけ用心しないといけないのかもしれない。


 微力ながら私も皇子が学園で何事もないように協力しよう。


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