第10話
「結婚式はハワイで挙げたんだ、白いチャペルにウェディングドレスも着せられてね。お金は間違いなくあるみたいでさ、白い雲に青い海……でも、私の友達を呼ぶことは禁止されてた。恥だからって。だから、四神の親族と会社の関係者とか、そんなのばかりで固められて。結婚式なのに私は心の底から落ち込んでたよ。自分の人生が完全に幕を閉じたみたいな感じがした」
震えながら語る雫へと手を差し出すと、俺の手をぎゅっと握りながら、何度もさすって。
「若ぁ……」
「うん、大丈夫、平気だから」
「……うん、本当に、ごめんなさい。あのね、結婚してからは私は四六時中家の中に閉じ込められてたの。監禁状態、縛られて、どこにも行けない様にずっと首輪も付けられて。私って何なのかなって、こんな玩具にされる人生だったのかなって、本当に死のうって何回も何回も考えてたし、実際にそうしようとしてたの」
雫の手の震えが増していく。
語りながら思い出してしまっているのか、次第に青ざめていく彼女。
「そしたらある日四神に見つかっちゃってね。そしたらアイツ、面白い見世物だから早く死ねって言ってきたんだよ? すっごい笑ってて、それ見たら私、何にも考えられなくなっちゃってね……ひっく、それでねぇ、どうせ死ぬんだからって、目一杯ねぇ、もう、私、何がなんだか分からなくなっちゃってねぇ……本当に、辛くて……もう、逃げたくて、やめてって言ってるのに、やめてくれなくて……ぇぇん……。」
「分かった、もういい。雫、頑張ったね」
歯を食いしばりながら、沢山の涙を流して。
一体なぜ雫がここまで辛い思いをしなくてはいけなかったのか。
絶対に怒らないと言った手前平静を装っているが、怒りで我を忘れる一歩手前まできている。
「うぇぇぇぇん……もう、嫌だよ、アイツのとこに帰りたくないよ! 若がいい、私は絶対に若が良かったんだよ! 絶対に若ならあんな酷いことしない、なんで、なんで私はあんな奴に、もう全部、嫌だ! 生きてたくないてたくない! もう嫌だああああぁ!」
「雫、落ち着いて、雫!」
むせび泣き発狂するかの如く叫び出した雫を強く抱きしめる。
彼女の心は壊されてしまっていた。
四神隆三、もし、今回の商談相手だとしたら、俺はきっと――。
今、雫は俺の横で安らかな寝息を立てて眠っている。
手を離したくないと言ってコタツの布団全部引っ張り出して、そのまま横に。
俺の幼馴染は、とても可愛くて、我儘で、強くて、でも泣き虫で、そのくせ頑固で。
全てを知っている俺が守らないといけない存在だったのに。
一体俺は何をしていたんだ。
俺が人生を賭けるには、十分すぎる人じゃないか。
七津星雫は、まだ死んでいない。
俺が、蘇らせてみせる。
翌朝七時。
リビングにはまだぐっすりと寝ている雫が、安らかな寝息をたてている。
昨晩の発狂した様子からは信じられない程の幸せそうな寝顔だ。
仕事に行く支度を終えた俺が近づくと、空気の流れを感じたのか、雫の左手が俺を探す様にコタツ布団の上を泳がせていた。
その手に触れ、声を掛ける。
「雫」
「……う、あ、ごめん、若、寝坊しちゃった?」
「大丈夫、今日ベッド届くから、ちゃんと受け取っておいてくれな」
「あ……うん。昨日は、ごめんなさい。なんか、沢山泣いちゃった。でも、若の手を握ってたらぐっすり眠れたよ。やっぱり安心するね、若……ねぇ、若」
にぱって笑う雫の頭をぽんぽんと乗せると、雫は自ら頭を押し付けてきてぐりぐりと。
愛おしい気持ちが体の全てを覆いつくす、雫は俺と一緒にいないとダメなんだ。
そして俺も、彼女を手放したくない。
「全部終わったら……雫が良かったらだけど、やり直さないか? 色々と、全部」
「やり直せる、のかな。もう私、前の私じゃないよ? 若は平気なの?」
「俺の知らないところの話なんだから、それぐらいは受け入れる度量はあるさ。行ってきます、雫」
「いってらっしゃい、若。ベッド、楽しみだね」
泣き過ぎて涙袋が腫れあがっている雫の見送りに手を振ってこたえ。
俺は一路会社へと向かう。
今日は、四神商事との顔合わせの日だ。
そして――。
「初めまして、今回の月比呂駅前周辺整備計画兼商業宅地施設工事メイン担当、四神商事、四神隆三と申します、以後お見知りおきを」
俺は、奴との対面を果たす。
雫の人生をぶっ壊した張本人。
「初めまして、株式会社ゼクトの若草
言葉に、怒りが籠る。
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