浅井氏の興亡
第18話五月雨の中、物思いにふける俺
永禄12年5月初旬・岐阜フロイス邸
ぽつぽつと雨が降り続いている。五月雨とはこれだろうか?今でいう梅雨だ。
ちょうどご婦人方相手の授業が終わったところだ。雨が降ろうが槍が降ろうがご婦人方の着物は鮮やかであり、この授業の時だけは梅雨の鬱陶しさも忘れられる。
着物に香をたきしめるのも流行ってるらしく、なんとも風雅な香りが部屋にたちこめている。
各々が初夏らしさを感じさせようと競ってるようで、爽やかな香りなのだが複数の人がたきしめた異なる香の匂いが混ざるのでなんの香りかまでは分からない。とりあえず爽やかで甘くていい匂いだ。
…いや、微妙に女臭さも混じっているかも…例えるならばいろんな制汗剤と汗の匂いが混ざりあって一日たった女子更衣室の香りといった所。この匂い、俺は好きだからいいけど。
「ありがとうございましたーっ!!失礼しまーすっ!」
足取りも軽やかに、元気よく挨拶して帰っていったのは千代だ。
美濃不破郡の領主・不破光治の娘である千代は、帰蝶さまの元で行儀見習いの侍女をしており、帰蝶様のお供としてついてきてちゃっかり生徒としていついてしまった。
彼女は利発で好奇心旺盛で器量もなかなかであり、西洋のことや、他国の言語や風習・領地経営やら外交などに関することなどを学べることが心から楽しく、嬉しいようだ。
なんとも教えがいのある可愛い生徒である。他のクラスの生徒である信長様の小姓連中からも人気が高いらしい。
後の見性院であり、史実では山内一豊の妻となるはずの子だ。容姿や声は仲間由〇恵。年齢14歳。
そうそう。その山内一豊も俺の教え子として小姓クラスに在籍している。
山内一豊…通称・伊右衛門。父は岩倉織田氏の重臣であった山内盛豊であるが、信長様と対立して自刃。山内一族は離散し、諸国を放浪することとなった。
この伊右衛門は、どこからか俺の授業のことを聞きつけ、「どうしても授業を受けさせてください」と頼み込んできた見どころのあるやつ。出世…もとい、山内家再興の糸口をこの俺に見出したらしい。
働きは地味ながらも、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康と勝ち馬に乗りつづけ、お家再興から土佐20万石の主とまでなった山内一豊に頼られたとは気分がよい。勝ち馬を見抜く嗅覚が抜群。人を見る目がある男なのである。
歳の頃は24歳であるが諸国を放浪していたためか初陣はまだであり、今のところ誰にも仕えていない。容姿は上川◯也
性格は不器用なところもあるが篤実で温厚で素直。俺の教えを熱心に学び、俺の教えに忠実でもある。小性クラスの最年長であり、他の生徒に対する面倒見も良く兄貴分として慕われてもいる。武芸の腕もなかなかである。
この男と千代。どちらも俺の家臣として欲しい人材なのだ。
そう思って着目して見ていると、2人はどうもお互いを意識しているようでもある。
2人に俺の家臣になるように勧めてみるのと同時に2人のなかを取り持ってみたい。無理にとは言わないが…。
とりあえず裏の家臣として堯俊を召抱えて天照女神像を量産してもらっているが、表の家臣もそろそろ何人か召抱えたい。伊右衛門と千代以外にもいいなと思う生徒は何人かいるし、織田家中で出世できずにくすぶっている家臣の中にも光る人材はいるだろう。
(今度、信長様に会ったらそれらの人材を引き抜きたいとお願いしてみることにするか。)
小性の中で引き抜きたいと考えている候補者が他に2人いるがこの2人はおそらく信長様も目をかけており、取り立てようと考えているだろう。ダメ元で頼んでみるけど。
そんな事を考える五月雨の夕暮れ時なのだった。
そういえば、そろそろ信長様の小谷訪問に合流しないといけない。浅井家の方では何か動きがあったかな?
式神を飛ばしているフツヌシノオオカミ様から報告してもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます