第3話破滅フラグしかない悪役魔王を救うための考察
令和2年4月中頃
日本が沈没するかもしれないとなればやるしかあるまい。
俺は、仕事を頼まれたら断れないタイプの社畜なのだ!
聞けば…俺の遺体は発見され荼毘にふされたため、生き返ることも出来ないみたいだし。
——とはいえこの仕事、ツッコミどころが満載だぞ?
さて、どこからツッこんだものか…。
「賭けに負けたら、日本が沈没するほどの大災害が起きる…信じがたいですが、まぁそこはいいでしょう。しかし、本能寺の変が回避できなくて賭けが成立してないのであれば、それはそれでいいのではありませんか?なんで、現代人を転生させてまで歴史を改変しないといけないのですか?そもそも、これまで何回試行して、どう失敗したのですか?」
俺がそう尋ねると…
アマテラスさまの雰囲気が暗くなった。
皆既日食もかくやってほど、暗い。物理的に。
まぁ、皆既日食を直視する方が普段の太陽を見るより何倍もやばいことを知っているので、俺は顔をあげないけど。
「そなたは、なかなか鋭いではないか。容姿も悪くない。——というか、素材はいいのに普段のケアを怠っている感じで…冴えないおっさんだな。としか思っていなかったが。そんなんじゃから、40歳になるかならないかの年齢で早死にするのじゃ!」
普段のケアを怠っている感じで冴えないか…
(余計なお世話だ)
仕事が忙しかったんだよ! リアルに死ぬほど!!
「それはさておき…。この賭けは、すでに100万回試行されておる。今度が100万1回目じゃ。この賭けをどうしても成立させないと、この世界が崩壊するゆえな」
100万1回目なら、何か、変わるかもしれないってか?
(って、100万回⁉︎)
いやいや、そんだけやれば何か変わるでしょ。普通。なんで変わらないの?世界が崩壊するって何?
「この世界が崩壊するって、何ですか??」
「そなたらの世界では、今、変な病原性ウイルスが世界的にパンデミックを起こしているじゃろう?あれのせいで、世界経済が低迷しておる。あれをなんとかしないと世界経済は死ぬ。しかしながら、その危機をいち早くだっした国は、飛躍できると思わぬか?最大のピンチは最大のチャンスになりうる。というわけじゃ。そうでなくても我が国の経済は死にかけているというのに…。何をやっておるのじゃ、日本の政治家はっ⁉︎JAPAN as No.1!とまで言われておったのに、周囲の妬みを買って、凋落しおって!!もはや、神風でもふかせぬと日本はどうしようもない。神風を吹かせたいのはどの国の神も同じじゃがの。そこで今回の賭けの話になったわけじゃ。この賭けに勝つくらいの条件じゃないと、日本を救くうほどの神風はおこせん。それくらい、我が国は駄目駄目ということじゃ」
JAPAN as No.1か…。その時代を俺は体験しておりませんが…。その頃の日本は、高度経済成長でイケイケでウハウハ(死語)だったみたいじゃないですか?
「その話からして…もしかして、日本が沈没するって話は…物理的にではなく、経済的にってことですか??」
普通、日本が沈没するって聞いたら物理的にだと考えるよな?経済的にって…詳しく聞かないと説明しなかったのは何故だ?物理的に沈没すると聞いた方が危機感をもつと考えたとか??
「ふむ…まぁ……経済的にも、沈没するのぅ…」
…。
経済的にも?
その言い方だと、結局、物理的にも沈没するのか!?
ええっと…。
日本には家族や知人、友人もいるわけで…経済的にも、物理的にも沈没すると言われれば…。
(…ダメだ。そんな未来は絶対阻止しなければ!!!)
「自分の祖国が経済的に沈没するのも、物理的に沈没するのも、嫌ですね。まぁ、その予感は前からありましたし、息苦しくて生き苦しい世の中だと嘆いてもいましたが…。私が戦国時代におもむくことで、今回のピンチをチャンスに変えて、日本の経済が、日本の世界的な地位が、立ち直れるのであれば微力を尽くしましょう。それで、これまで何をやってきたのですか?私が戦国時代に赴いたら、なにが変わるのです?」
今の日本の経済や世界的地位は最悪だろう。JAPAN as No,1と呼ばれた国とは信じ難い。
それが、少しでも生きやすい国になるのであれば、やってもよい。
それにパラレルワールドとはいえ、歴史に関与でき、織田信長に覇権を握らせる仕事はおもしろそうでもある。俺がプログラマーとして関わってきたゲーム開発よりも。
「この賭けを成立させるために誰かを転生させる試みは、今回がはじめてじゃ。これまでは、織田信長の夢枕にたったり、明智光秀を病死させるなどの介入を試みたのじゃがな。桶狭間の合戦の時に雷雨を降らせたり、武田信玄や上杉謙信を信長が危機的な状況におちいった時に病死させるといったことは史実でもやったかな?織田信長はなかなか信心ぶかくて、熱田神宮を保護していたからのぅ。晩年は、自分は神だとか思いあがったことを言い出しおるから、ムカついてつい加護をはずしてしまうのじゃが…。毎回、そんな感じかな?明智光秀じゃなくても、信長を誰かが
武田信玄や上杉謙信を病死させたの、アマテラス様か。
以前から、信玄も謙信も死ぬタイミングが絶妙でドラマチックだと考えていた。
暗殺でもしたのか?とも考えていたが…。
(〝ムカついて〟ってなんだよ? 〝てへっ☆〟でもない)
それだけ織田信長に肩入れしてたのに突然、加護をはずすとかアマテラス様も短気だなぁ。
しかも、毎回ってことは…100万回加護を外したの??
(アマテラス様の加護を外させないのも、本能寺の変を起こさせないためのポイントの一つだな)
〝他の神の妨害が入るから、よろしく♪〟ってのも、サラッと言いやがった。大丈夫か?この神様。
「他の神様の妨害ってのは、なんです?」
「妨害しそうなので強大な神は、アジアの神・天帝。中東とヨーロッパの神・ヤーウェの2柱の神かなぁ。仏教、ヒンズー教とイスラム教、キリスト教、ユダヤ教の神ね。天帝の従属神として、毘沙門天とかもいたかな?他の雑多な神では熊とかもいるけど。天帝の孫で」
(毘沙門天と熊ねー)
まー、想像はつくな。毘沙門天は、あの有名な戦国大名。天帝の孫という熊は、檀君とか言ったか?お隣さんだ。
さて、織田信長を本能寺で死なせず織田信長に世界の覇権を握らせるには、誰になれば良いかって話に戻ろう。
織田信長という人物は、人の言うことを聞かないどころか気にくわない言動をする奴は殴る蹴るなどした上で追放するイメージ。
豊臣秀吉の軍師として有名な竹中半兵衛は美濃の斎藤家から織田家に寝返る際、織田信長は家臣の話を聞かないし仕えにくいから豊臣秀吉の部下になりたいと願いでたという逸話がある。
―――まあ、意外にも信長はそれを咎めることもなくあっさりと許しているのだが…
しかし、本能寺の変を回避するとなれば信長のやり方に干渉できるだけの影響力を持たなければならない。
ただの家臣ではダメだ。
本能寺の変が何度やっても回避できない理由―――それは歴史の必然性にあると俺は考える。
歴史の必然性…それは、おそらく織田信長がやろうとしていた改革に無理があったことと関係があるのではないだろうか?
近年の研究では、信長のやろうとしていた改革は朱子学の預治思想に基づく集権国家を作るためのものだったのではないかと言われている。
根拠は、本能寺の変の2年前あたりから急激に行われだした城割・検地・国替え・改易などを、信長が主導して行ったこと。
これらの政策は、のちの豊臣政権や徳川政権に引き継がれていくことになるのだが…。
(このやり方は歴史的にみて、間違ってはいまい)
問題は時期である。本能寺の変の2年前から本能寺の変までといったら、第三次信長包囲網の真っ只中。
中国地方の毛利氏、北陸地方の上杉氏、近畿地方の石山本願寺らを敵に回して戦争している状態。まさに四面楚歌の状態であった。
そんな中、配下の大名に国替えや改易を命じるなどをすれば反発を招くのは当たり前。謀反を起こしてくれと言ってるようなもの。自殺行為だ。
事実、明智光秀が謀反を起こす前にも荒木村重や松永久秀などが次々と反旗を翻している。
なぜ、このような時期に自殺行為とも言うべき急峻な改革を行ったかについては私見がある。
信長が好む敦盛の一節〝
目標に掲げた50歳をあと3年に控え、急に焦り出したのではないか?と考える。
俺は織田信長に、「その改革は今することじゃないですよ。徳川家康が75歳まで生きても終わりませんでしたよ。やるにしても3代くらいかけてじっくりと取り組むくらいのやり方をしないと」と教えてやりたい。
〝信長がつき、秀吉がこねた天下餅。食べたのは家康〟といわれる。
信長、秀吉が打ち立てようとした日本という国。その抜本的な改革方針は朝鮮出兵の失敗によって、家康に骨抜きされたように思えてしかたないのだが…。
まぁいい。
問題は…部下の言うことを聞かないイメージのある織田信長にどうやってこれらのことを言うか。——どうやってその発言力を得るか、だ。
それは、おいおい考えよう。
次に考えるべきことは、織田信長に世界の覇権を握らせるにはどうすれば良いかってこと。
未来知識で鉄砲や大砲、船や戦車を作れば解決するだろうか?
否。
それはそれでやるけれども。それだけで制覇できるほど世界は甘くない。
ざっと考えただけでも、世界に対する知識と戦略、交渉力、言語力、人脈なども最低限必要だ。
あと、軍事物資や食料などを大量生産する方法やそれを運ぶ手段なども確立しないと…
豊臣秀吉はそのような人物を側に置かなかったから極寒で極貧の朝鮮を暖かな環境で生まれ育った西国勢で攻めて飢えと寒さで大苦戦させるなどというマヌケをやらかしたのだと思う。
では、豊臣秀吉は誰にアドバイスを求めればよかったか?
うーん…。
当時、世界を股にかけて仕事をしていて地理や軍事的なことにも詳しい人達…。
例えば、宣教師たちや貿易商、倭寇と呼ばれる海賊たちであっただろう。
その上で日本語と外国語を話せ、他国の要人との人脈や交渉力をもつ存在。
―――宣教師がよいのではないだろうか?
日本の最高位の神の力でキリスト教の宣教師になる…。少し抵抗があるが…。アマテラス様のわがままで出向くのだ。その辺の抵抗感は考えないでおこう。
(アマテラス様のお力でなんとかしてください)
うん。もう一つの問題——〝織田信長に対する発言力〟もアマテラス様になんとかしてもらおう。
よし。俺がなるべき人物は宣教師。しかも、日本語が堪能な外国人宣教師だ。——ルイス・フロイス。
俺はアマテラス様の力で戦国時代の日本語が堪能な宣教師ルイス・フロイスとなり織田信長に仕え、織田信長を世界の覇王にする。
そう考えていると…
「くくく。わらわの力でキリスト教の宣教師になろうというのか…。いい度胸をしておるな、お主」
アマテラス様は愉快そうというより、威圧感を含んだ微妙な面白がり方をした。俺の考えを読んだみたいだ。口に出してない考えを読まれるのは、心臓に悪いからやめてほしい。心臓、うごいてませんけどーっ。
「いけませんか?」
俺は、努めて冷静に問い返した。
「ふーむ…。いや、面白いかもしれん。確か、あやつらはキリスト教を日本で広く信仰されている天道と同じものとして広めておったはず。天道の神とはわらわのことであろうにの。キリスト教の宣教師にわらわを祀らせる。……ありじゃ。そのための力も与えてやろう」
天道か。これなら俺がアマテラス様の力でキリスト教の宣教師になるという矛盾が生じない。天道とは、本来、太陽信仰のことだし。日本の太陽神とは、紛うことなくアマテラス様のことだ。
「力?」
「仏師にわらわの姿を模した像を作らせる。見たものを魅了し、わらわを崇め奉り、わらわの教えを広める教主にも絶対服従を誓うようになる特別な神通力を持った像をな。その像はいずれ、そなたのもとへ届けさせよう。それから…」
「それから?」
「そなたに神を憑けてやろう」
「神?」
「世界ができてから現在までのあらゆる知識と技術を持つ神・オモイカネ。それから兵法と武術と陰陽術、築城術などを司る神・フツヌシノオオカミじゃ。神通力を持った像と神を二柱も憑けてやるなぞ、破格の待遇じゃぞ?」
「はぁ。…ありがとうございます」
「年齢は、史実よりも若くて、スマートで、細身のマッチョにしてやろう。海外のスター並みにな。そうじゃな……年齢は25歳。容姿は、ジョ◯ー・デップでどうじゃ?」
見たものを魅了する神通力を持った像や知恵・技術の神と軍神をつけてくれる? 何、そのチート。
転生後の容姿は若き日のジョ◯ー・デップか。
「いいですね。あと、もう2つほどアマテラス様にやっていただきたいことがあるのですが…。神通力を持った像や神様を憑けていただくことに比べたら簡単なことです」
「この上、まだ頼みがあるか…。大人しそうな顔をして、そなたは存外ずうずうしいのではないか?…。まぁ、聞くだけ聞いてやろう」
アマテラス様は俺の頭上で呆れているようだ。
俺は平伏して地面を見ているので、雰囲気しか伝わってこないけど。
「ありがとうございます」
こうして、アマテラス様に更なるお願いをするのだった。
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