『大好き』の意味
月之影心
『大好き』の意味
俺の名は
頭脳も身体能力も容姿もこれと言って特筆すべき点は無い、普通の真面目な大学生だ。
俺には生まれた日が一日違いで実家が隣の幼馴染が居る。
名前は
『超』を付けても誰も文句は言わないであろう美人な同じ大学生。
切れ長の目に長い睫毛、小振りな鼻と薄めの唇は、一見すると冷たい印象を与えがちだが、微笑むと大抵の男は撃沈される程の可愛らしさが隠れている。
尚、その可愛らしい笑顔は極親しい俺レベルの相手限定でしか見せる事はまず無いので、余計に関係の薄い人からは冷たさを感じるようだ。
そしてスタイルがめちゃめちゃいい。
おっぱいぼーんのウェストきゅっのヒップぷり~んだ。
この美貌とスタイルに釣られて言い寄って来る輩も数多居るが、その悉くが沙央梨曰く『見た目だけしか興味の無いモブ男』としてあっさり断られている。
では俺はと言うと、確かに沙央梨は美人でスタイルも良くて恋人として隣に居て何の文句も無い子だし、俺も生物学的には男なのでおっぱいぼー(以下略)も含めて沙央梨に興味が無いわけではない。
事実、沙央梨に『ゆーくんならいつでも触ってもいいよ』と本気とも冗談とも取れる口調で言われた事もある。
多分どちらかから『付き合おう』と言えばあっさりと恋人として付き合う事になるだろうけど、いわゆる『家族ぐるみの付き合い』みたいなのもあって、何となく沙央梨と付き合うと言うのもどうなんだろうと思う部分も多少はあった。
「「ただいまぁー。」」
俺と沙央梨が俺の家の玄関に入る。
「ここ俺の家な。」
「我が家みたいなもんでしょ。ゆーくんだってうち来たら同じ事言うじゃん。」
沙央梨が玄関で靴を脱いで先に上がる。
あれ?いつもならお袋の元気な『おかえり』が聞こえるのだが。
「今日おばさん町内会の旅行だって言ってたね。」
「え?聞いてないけど…」
「おじさんも一緒に行くって言ってた。帰って来るの明後日じゃないかな。」
実の母親の都合を隣の家の人が知っていて実の息子が知らないってどうよ。
「まじか…」
「明日から連休だからねぇ。」
先に家に上がり込んだ沙央梨が俺の方に向き直って俺の鞄を取る。
「おかえりなさい!お疲れでしょう?ご飯にします?お風呂?それとも…」
小芝居が始まる。
「ご飯にも風呂にもまだ早くない?」
「もぉ…あなたったらぁ…」
体をくねくねもじもじさせて照れた様子を演じている。
「それよりお袋のやつ、晩飯何か作って行ったんだろうな?」
沙央梨の横を通り抜けてキッチンへ向かう。
何事も無かったように俺の後ろを沙央梨が着いて来る。
もう何度もやり取りした小芝居なのでお互い適当な所で流す。
キッチンテーブルの上は醤油やらソースやらの調味料のトレーだけ。
電子レンジの中は空っぽ。
「こっちも何も無さそうね。」
冷蔵庫を開けて中を覗いている沙央梨が言う。
「仕方ない。何か買いに行くか。」
「何食べたい?」
「カレー。」
「なら冷蔵庫にあるものだけで足りるよ。ルウもあるみたい。」
「じゃあ作って。」
「はぁい。」
俺は沙央梨と自分の鞄を2階の俺の部屋に持っていく。
沙央梨は早速キッチンでパタパタと動き回って調理の準備を始めていた。
~中略~
外はすっかり暗くなっていた。
少し早めの晩飯を平らげた俺と沙央梨は、リビングのソファに並んで座って観るともなしにテレビを眺めていた。
「なぁ沙央梨、明日からの連休って何か予定ある?」
「連休?何処か連れてってくれるの!?」
「何でそうなる…いや、もし予定無いなら1日くらい遊びに行ってもいいかなと思ってな。」
「嘘っ!?予定無いよ!何処行くの?」
元々俺はあまり出歩く方では無い。
別にそれに付き合ってくれなくてもいいのだが、沙央梨も休みの日は大体俺の部屋で本を読んだりゴロゴロしたりしながら過ごしていた。
「前に沙央梨が行きたがってた花いっぱいの高原とか?」
「ええ!?ホントに?」
「折角の連休だし、今日の旨かったカレーのお礼も含めて。」
「うわぁー!もう!ゆーくん『大好き』だよぉ!」
隣に座っていた沙央梨が俺にダイブしてくる。
沙央梨が俺の腕にぼーんをむにーっとむぎゅってきた。
「はいはい。俺も『大好き』だよー。」
俺も沙央梨もお互いに対して『大好き』を、それこそ小さい頃からよく口に出していた。
しかし、『大好き』を繰り返し口に出し耳に入れていたせいか、気が付けば『おはよう』とか『ありがとう』くらいのテンションで挨拶みたいなものになっていたので、『大好き』と伝えた後に甘い空気が漂うような事も無く、いつもの仲良し幼馴染同士になるだけだ。
だが今日は、俺の腕にぼーんを押し付けて抱き付いてきた沙央梨の動きがそのまま止まっている。
「どした?」
「ねぇゆーくん…」
「うん?」
「その『大好き』ってやつだけど…」
「うん。」
「それってどういう風な『大好き』なのかな?」
「どういうって…幼馴染としてとかじゃないの?」
「あ、うん、それはそうなんだけど…」
珍しく沙央梨が言い淀んでいる。
「何かね…ゆーくんとは生まれた時からずっと一緒に居るでしょ?」
「え、あ、うん…そうだな。」
「で、物心付いた頃から『ゆーくん大好き』って言ってるわけよ。」
「まぁ俺も…だな。」
「私がゆーくんに言ってる『大好き』って周りの友達が彼氏に言ってる『大好き』と違うのかな?って考えちゃって…」
沙央梨が俺の腕に回した手にきゅっと力を入れる。
「違うと思う。」
「だよね。」
「同じがいいの?」
「分かんない…」
気が付けば、身を乗り出す沙央梨の顔が俺の顔のすぐ横に来ていた。
「違う方がいいの…かな…?」
言いながら、少しずつ、ミリ単位で俺と沙央梨の顔が近付く。
沙央梨の長い睫毛は伏せているように見えて、視線は俺の顔の下半分を見ているようだ。
多分、俺と同じ顔の一部を見ている。
「教えて…」
沙央梨の唇の動きが俺の唇に伝わってくる。
「うん…」
一瞬、沙央梨の唇の明らかな感触が伝わる。
重なった唇の隙間から沙央梨の吐息が漏れる。
唇が離れると、自然と目線が合わさる。
「『大好き』…」
「俺も…『大好き』だよ…」
沙央梨が無言でまた俺の腕に巻き付いてくる。
「これも『あり』かな…『なし』かな…?」
「うん…『あり』…?」
「『なし』?」
「うーん…よく分からなかったからもう一回…」
その日、俺と沙央梨は、互いに言い合う『大好き』の意味を何度も確かめ合って夜を過ごした。
『大好き』の意味 月之影心 @tsuki_kage_32
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