第247話 意外な事実

 そのあと、私の体に負担をかけないようにと、早めに二人は部屋をあとにした。


 そして夜になる。

 私はまだ自室でゆっくりとしているようにとお母様に言われ、ケイトの持ってきてくれた、具材や味付けを変えた粥を食べて夕食を済ませる。

 前回よりも胃が慣れたのか、作ってくれた粥は完食して皿を返すことが出来た。


 やがて、他の家族も夕食を終えたのか、お父様が「デイジー、今いいかい?」と声をかけながら扉をノックしてきた。


「どうぞ、お父様」

 返事をすると、扉を開けてお父様が部屋に入ってきた。

「ああ、良かった。ようやく目が覚めたって聞いたよ。気分はどうだい?」

 私の方に歩いてきながら、お父様が尋ねてくる。


「はい。夕食では出してもらった粥を完食できました。……考えることはありますが、気分もだいぶ落ち着いてきたみたいです」

 私が回答していると、それを聞きながらお父様がベッド脇にある椅子に腰掛ける。


「そうか、それは良かった。……今更と思われても仕方がないが、デイジーにはすまないことをしたと思っているよ。まだ、たった十二歳なのに。あんな話に付き合わせてしまって……」

 お父様が私の頬に手を添える。


「いいえ、私はお父様を恨んだりはしません。確かに私はまだ十二歳。でも、いつか考えることが必要なことだったのでしょう。それが少し早まっただけ」

 私は、私の頬に添えられたお父様の手に、私のそれを重ねて、首を横に振った。


「デイジー……。君も成長したね。自白剤……あの時も君には辛い選択をさせた。あの時とは随分成長したんだね。……親も知らない間に、子供はあっという間に成長するんだな」

「いいえ。成長なんて出来ていません。まだ、答えは出せていないんです」

 そう言って、私はお父様に真っ直ぐに視線を重ねた。


「お父様。私はまだ私がどうしたいのか答えを出せていません。その導きをいただくために、私の師匠のアナスタシアさんや、国民学校の件でお世話になったホーエンハイム先生に教えを乞いたいのです。……彼らにそれを話すことを、陛下からお許しをいただいてきて欲しいのです」


「……なるほど。彼らならば、適任と言えば適任か……」

 お父様は私の願いを聞いて、空いている手で顎に手を添えて「うーん」と唸る。


「多分、ホーエンハイム先生の方が話は通しやすいだろう。加えて、アナスタシアさんについても、陛下に伺ってみよう。デイジーの心の負担をなるべく早く軽く出来るよう、陛下には明日にでも願い出てみるよ」

「ありがとうございます。お父様」


「それぐらい、お父さんとしては当たり前のことだ。……むしろ、これくらいしか力になれなくてすまないね、デイジー」

 そう言うと、お父様がふわりと私を抱きしめた。

 私はお父様を抱きしめ返した。


 ◆


 そして数日後。

 お父様がお招きしたそうで、私がお願いした日から最初の錬金術科の授業のない日に、ホーエンハイム先生が我が家に来て下さった。


 ……陛下にお許しをいただくにしては、早いなあ。


 そう思いながらも、体を締め付けないゆったりとしたワンピースに着替えてお会いすることにした。

 本来はもう少しきちっとした方が礼儀にかなっているのかもしれないけれど、そこは病み上がりなので、お母様が心配してその服にするようにと指示をしたのだ。


「ホーエンハイム先生、お久しぶりです」

「ああ、デイジー嬢。君のことは聞いているよ。かわいそうに。まだ幼いのに、国のためとはいえ、辛い立場に立たされてしまったね」

 そう言いながら、私達は応接室のソファに対面で腰を下ろした。


 ケイトが、私達二人に茶菓子と紅茶を淹れて、部屋を後にした。

 話が話なので、二人きりに、という指示をしたのだ。


「それにしても……『話を聞いている』だなんて、随分早いんですね」

 対面の挨拶の言葉に疑問を感じて、私は開口一番に尋ねてみた。


「我が家も錬金術師としては名のある家だからね。ポーションの増産と……孫のアルフリートの爆弾を戦争用に納品してくれないかと打診が来たんだ。だから、我が家もはすでに知っているからだよ」

「え、でも、アルフリート君って、まだ……」

「ああ、七歳だ」


「アルフリート君は、どう答えたのでしょうか……?」

 私は、震える声で尋ねた。

 彼はまだ、リリーやルックとも歳の変わらない少年だ。そんな少年に、戦争のための爆弾を納品して欲しいだなんて。


 陛下への怒りだろうか、軽蔑だろうか、落胆だろうか、悲しみだろうか。

 そんな、いろんなネガティブな思いがぐちゃぐちゃになって私の胸を掻き乱す。


「アルフリートは、断ったよ。絶対に戦争なんかには使わせないと言ってね。まあ、子供の癇癪のような物言いでハラハラさせられたけれどね」

 ホーエンハイム先生は、苦笑いと共に肩を竦めた。


「……え?」

 私は、心の中に渦巻いていた黒い気持ちがすとんと消えて、キョトンとしてしまう。

「それで、陛下は?」

「お咎めなんかなしさ。無理を言ってすまなかったと、謝罪をされて終わりさ」


「それだけ、なんですか……?」

「ああ、陛下はそもそも爆弾を使ことは想定していない。まずは抑止力として保持している事実を作りたかっただけらしい。まあ勿論、それですまなかった場合は使わざるを得ないのだろうけれどね」


「……それで……」

「まず、まだ幼いアルに、物騒な話題に巻き込んだことを謝罪していたよ。そして、今までどおり、納品は鉱山開発に必要な量のみで良いとの決定を下された」

「……そう、なんですか……」

 私は、意外な結果に驚いたのだった。


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王都の外れの錬金術師

〜ハズレ職業だったので、のんびりお店経営します〜


書籍3巻と、コミック1巻(あさなや先生著)が、

本日12/10に同時発売されます!"(ノ*>∀<)ノ

これも、ひとえに皆様の日頃の応援の賜物です(*´▽`*)

これからもよろしくお願いします!

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