第234話 入学式②

 陛下が壇上にお姿を現して、中央にある台に向かう。


「入学生諸君、おめでとう!」

 国王陛下が、台に到着する。そこには、魔道具の一種である小型の拡声器があり、それをとおして陛下は、子供達に声をかけた。


 子供たちは、親の躾のとおりきちんとしている子や、平民なのか、初めて陛下のお顔を見て、落ち着きのない子もいる。反応はさまざまだ。


 遠目に見えるリリーは、姿勢を保って、じっと陛下のことを見つめている。

 ルックは驚いた様子で、陛下を見たり、こちらを振り向いてみたりする。


 けれど、おそらくは学校関係者か教師なのだろう。壇上で陛下を紹介した進行役の人も、そんな子供達を咎め立てすることはなかった。

 まあ、必要に応じて、そういったものも普通科で教えていくのだろう。


「この学校は、国民学校という。それは知っているかな?」

「「「はーい!」」」

 陛下が尋ねると、子供達が一斉に手を上げた。


「よろしい」

 陛下が微笑ましそうに笑って、両手を使って、子供達に手を下げるようにとジェスチャーする。


「私は、身分に関係なく、子供達に勉強の機会を与える場所を作りたかった。それが、この学校だ」


 陛下がそう言って区切って、子供達を見回す。


「みんな。先生方からよく学び、そしてよく遊んで仲間を作るといい。それはどちらも君達の将来のためになるだろう」


 陛下の言葉に、最初はちらほら落ち着きのない子供もいたものの、次第に熱心に耳を傾けるようになっていた。


「この壇上に座っている方々は、これから君達を導いていく先生方だ。先生方の言うことをよく聞いて学ぶように」


 陛下がそう言って、手のひらをかざして先生方を指し示すしながら、彼らの名前を順番に呼んでいく。

 名前を呼ばれると、彼らが立ち上がって頭を下げ、着席した。

 子供や保護者達から、一人一人に拍手が送られる。


「……そして、もう一人の功労者を紹介しよう」


 陛下はそう言うと、保護者席を見回した。その視線は私のところで止まり、にこりと笑った。


 ……えっと? 私?


「デイジー・フォン・プレスラリア!」

「は、はい!」


 私は驚いて、その場で立ち上がる。

 会場に集まった人達の視線が私に集中して、かなり恥ずかしい。


「彼女は、国民学校の錬金術科の教科書の草案を書いた、我が国が誇る錬金術師である! 彼女の貢献にも、感謝とともに、拍手を送って欲しい!」


 すると、わぁっ! という歓声とともに、大きな拍手が私に送られた。


 ……恥ずかしい……!


 そうは思ったものの、ここで毅然とした態度をすることも、爵位を持った貴族として必要だろう。

 だから、恥ずかしいと思う気持ちをグッと堪えて、私は笑顔を湛えて拍手に応えた。


「今日入学する君達の中には、錬金術科を選択しているものもいるだろう。私は君達が、いつか彼女のような素晴らしい錬金術師になってくれることを願っている。そして、普通科のみの子供達も、将来国を支える立派な大人になって欲しい!」


 そう締めくくって、陛下のお言葉が終わる。

 陛下を讃える歓声と拍手が会場を満たしている。

 私も、拍手をしながら着席した。


 その後も、校長先生、普通科と錬金術科を代表する先生方が、子供達に挨拶をしていく。

 各先生方の挨拶が終わると拍手が送られる。それを何度か繰り返した。


 ちょっと子供達の中の一部には、それが長く感じられたのか、じっとしていられなくなってくる子がいるのも、なんだか後ろから見ていて微笑ましい。

 ちなみに、ルックもその中の一人だった。


「さて、入学式兼開校式はこれで以上です!」

 進行役の男性が、終わりを宣言した。


「これから先生方が案内する先に、皆さんのクラスが掲示されています。誘導に従って、自分のクラスの確認と教室を確認してご帰宅ください」

 その言葉を契機に、子供達が立ち上がって、保護者席にいる親元へわっと移動しだす。

 リリーとルックも私達のもとへやってきた。


「お父様、お母様!」

 リリーが、クラス分けを見たいとはしゃいでいる。


「デイジー様、マーカスさん。僕も、クラス分けを見たいです!」

 私達を見るルックの瞳は、期待からかキラキラと輝いている。


「じゃあ、行こうか」

 お父様が、私達みんなに移動を促した。

 リリーは、お父様とお母様の間に挟まって、二人に手を握ってもらっている。


「ルックも、行こう」

 マーカスが、ルックの手を取った。

 私も二人に寄り添うように並んだ。


 誘導に従って会場を出て廊下を歩き、クラス分けが掲示されている場所に辿り着く。

「私は、錬金術科のAクラスね!」

 自分の名前が書かれた箇所を指差して、リリーがお父様とお母様の顔を交互に見比べた。


「頑張りなさい」

「頑張ってね」

 リリーはお父様とお母様に微笑みかけられながら、励まされていた。


「僕は……普通科のBクラスと、錬金術科は……。あ、こっちもBクラスです!」

 ルックは、普通科と錬金術科の掲示を順番に見比べて、私とマーカスに嬉々とした様子で報告する。


「頑張ってね」

「頑張れ!」

 私とマーカスに励まされたルックが、元気に頷いた。


 ルックの夢である、郷里のアトリエを再開が、実現しますように。

 子供達が一人前の錬金術師になりますように。

 そして、彼らが作ったポーションが普及して、国中のどこに住んでいても、ポーションが手に入るようになりますように。


 私は、そう願うのだった。

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