第216話 賢者の塔、再戦

 勝手知ったる道を、再戦を誓った仲間達と共に進み、私は再び賢者の塔を前にする。


 以前と同様、塔は高く、塔の先端は雲に隠れて見えない。


 この塔の最上階は、古の大賢者グエンリールが住んでいたと言われている。そして、三十五階以降未踏破だった記録を、私達が四十四階踏破まで押し上げた。


 そう、つまり。

 四十五階で私達はリタイアしたのだ。

 魔法でもない物理でもない理論で生まれるドラゴンブレスを吐く、ドラゴンの亜種、ドレイクの炎に阻まれて。


 私達は、以前同様、一階に馬とティリオンを待たせ、階段を登っていく。

 かつて倒した各階のモンスター達は、リポップ、つまり一度倒したもの達が再生していた。


 けれど、彼らは既に、私たちの敵ではない。


 再戦と次こそは踏破すると誓いあった私達。

 私の錬金術とリィンの鍛冶の能力で、武器は全て魔剣の類に持ち替えられている。

 そして、防具は、私たちが素材を集め、そして王都のそれぞれの達人と謳われる職人達の手で仕上げられたもの。

 それを全て私達は身につけているのだ。


 昇格試験も受けず、その能力が向上していることを公にはしていないものの、元々Aランク冒険者だったマルクとレティアは、Sランク相当の力を持つに至っているだろう。


 四十五階までの間、私達はただ、無理をせず階段で休憩をとりながら、私たちが目指すドレイクへの道を阻むモンスター達を易々と排除していく。


「そういえば、次の階だけれど……、ノーライフキングって、前の記憶ってあるのかしら? それに、同じ装備を持って復活しているの?」


 前回苦戦した三十五階の手前の階段に到達し、私達は休憩をとっていた。

 主に聖属性魔法を使い続けるアリエルの、魔力量の回復が主な目的なんだけど。


 次に踏み込もうとしている三十五階のボス、ノーライフキングは、前回全属性に耐性を持った指輪を装備していたのだ。

 ちなみに、前回攻略時に彼から剥奪した指輪は、私達が嵌めている守護の指輪のもとになった合金をベースにして、その宝石を嵌めた、国宝級(以上?)の指輪になった。

 そして、今はアリエルの指に嵌っている。


「リポップしたモンスターは、基本別の個体と思っていいと思うぞ?」

 私の疑問うち最初のものに、レティアが答えてくれる。


「あの指輪は……。なんで、あそこまでのものをが持ってたのは、ちょっと疑問なんだよなぁ……」

 次の疑問については、マルクも思うところがあるらしく、軽く考え込んでいる。


「まぁでも、別個体で記憶がなくて、前回のデイジーの蔦を使って捕捉する戦略で行けるといいんだが……。さて、そろそろ行くか? 準備まだのやついるか?」

 マルクがメンバー全員を見回すけれど、そこで挙手する者はいなかった。


「じゃ、行くぞ!」

「「「「おー!」」」」


 三十五階のフロアにみんなで駆け込む。

 すると、以前の凄惨な状況ではなく、奥にノーライフキングが一人佇んでいた。

「ほう。ここに人が来るのは久々だな」


 ……ん。以前君は私達に倒されているんだけどね。

 それと、あの酷いことをした個体とは別人のようだ。


「ふーん」

 その状況を見て、アリエルがニンマリと笑う。

 自分の出番と思っているのかしら?


「今回はどうかしら?」

 アリエルが軽やかな足取りで、ノーライフキングのいるフロア奥に駆けていく。


「不死者の王に刃向かおうなど、笑止千万!」

 ノーライフキングも、受けて立つとばかりに、マントを翻して飛んでアリエルに肉薄する。

 そして、彼の歯牙がアリエルに迫ろうとした、その時。


不浄者消滅バニッシュ!」

 アリエルが、上位の聖属性魔法を行使する。

 今まさにアリエルの首筋に牙を立てんとする、ノーライフキング。その彼を、眩い懲罰の光が差し貫いた。


「ぎゃあああああああ!」

 ノーライフキングのマントや衣服と共に、その青白い体がボロボロと灰になって崩壊していく。

 そして、塔の窓から吹き込む風に舞って、彼はその存在を消したのだった。


 懸念した、例の指輪は、今回のノーライフキングは持っていなかったらしい。


 ……そうすると、前の個体はをどこで手に入れたのかしら?


 謎は残るのだけれど、懸念していた事態にはならず、私達は上の階を目指すのだった。

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とうとう…デイジー達、ここまで来ました!

次回は、雪辱を期したドレイクとの対峙。

更新は、今週末の書籍の発売日(7/9)以降の予定です。


次回以降も、皆様のご想像を(いい意味で)裏切っていく予定ですので(笑)、

どうぞご期待ください!

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