第217話 対ドレイク戦
三十五階のノーライフキングを倒した私たちは、その上階のワイバーン達を薙ぎ払っていく。
そしてとうとう、私たちは、
「さて、ここまで来たな」
マルクが、全員を静止して、休憩と改めて装備などの点検を促す。
私は、アゾットロッドへ、消費した分のポーションを補充する。
また、もし長期戦になっても大丈夫なように、『強力マナポーション』をポシェットの中でも取り出しやすい位置に数本確保した。
私以外の人は、手に持つ得物が、ドレイクに一番効果のある、最高のものであるかを確認。
マルクは、被ダメージすら吸収して回復してしまう『大喰らいの大鎧』を身にまとっている。
そしてその手には『氷地獄の槍斧』が握られている。
攻撃時には、基本攻撃のダメージに加えて、氷属性のダメージ追加0.5倍を与える。その上、一定間隔で最初に与えた氷属性のダメージを継続して与え続ける、火属性モンスター向けの逸品だ。
氷属性ダメージを追加で三十%分与えることができ、さらに、その傷口に絶対零度の修復不可能な傷を与える、『絶対零度の槍斧』とどちらにするか悩んだらしいけれど、他のメンバーが『絶対零度シリーズ』の武器を装備するので、ならば自分は違うものと、前者に決めたらしい。
レティアは、剣を『烈火と結氷の剣』から『絶対零度の剣』へ持ち替える。元の剣が持つ炎属性が、万が一にでも火属性のドレイクを回復させることがないように、考慮したのだ。
リィンは『絶対零度のハンマー』、アリエルも普段は身につけない矢筒を背負い、その中に『絶対零度の矢』を収める。
そして全員で、『火鼠のマント』を筆頭にして、フレイムワイバーンの皮装備や、フレイムウルフの体毛を混ぜ込んだ衣といった、今までの旅で採取し創り上げた、防火効果のある装備を身につけているかを点検したのだ。
『体力の種』を私とアリエル、リインが食べることによって、体力が大幅に上がっていることも、この塔に来る前にみんなに説明してある。ドレイクに相対することも可能だ。
ドレイクへ再挑戦する道をアナさんに教えてもらった時は、正直気が遠くなるかと思った。
結局、一年から二年の間に成し遂げたというのは、長いのか、短いのか。
今になってはわからない。
けれど、今の私たちは、ドレイクを前にして立てるだけの準備を、万全にしていた。
「……そろそろ、行けるか? まだ時間が欲しいやつは?」
リーダー役のマルクが皆に問いかける。
けれど、誰もそれに頷く者はいなかった。
私はリーフに、リィンはレオンに跨る。
「じゃあ、行くぞ。」
マルクを先頭にして、ドレイクがいる四十五階のフロアに駆け込んだ。
そして、いつ何が起きてもいいように、私たちは構えを取る。
今回は、部屋の最奥に、ドレイクは丸くなって眠っていたようだ。
その大きく丸い赤い塊が、ゆっくりと動いてその姿を露わにする。
赤く光る、硬質な鱗に覆われた体。
金色に光る、縦に長い瞳孔を持つ、獣の瞳。
人間だったらこめかみにあたるであろう頭部に生える、黒光りするツノ。
前脚と後脚には、まるでそれ自身が鋭利な武器であるかのような、大きな爪。
それがのそりと起き上がって、目と目が合う。
私たちの姿を認識しているようだ。
「来るぞ! 構えろ!」
マルクの言葉のとおり、ドレイクが首をもたげ、大きな翼を広げる。それとともに、開いた口の奥に焔が渦巻いているのが見えた。
……ドラゴンブレスが来る!
「リーフ!」
私は私の足になってくれている彼の名を叫んで、リーフと私の体をまとめて『火鼠のマント』で覆う。
リィンとレオンも同じようにして、
ドレイクが、大きな翼をはためかせてこちらに飛んできながら、長い首を左右に振りながら、フロア全体に満遍なく炎のドラゴンブレスを吐き出した!
「マントで避けろ!」
マルクが指示するとおり、レティアとリィンも自身の体をマントで覆い隠す。
一度ブレスを吐くと、次のブレスまでに時間がかかるのか、連続でブレスは仕掛けてこない。
だが、フロアの天井に合わせた低空飛行で羽ばたいて、ドレイクは物理的な凶器で攻撃をしようと、私の方に向かってくる。
アゾットロッドで全員を回復したかったのだけれど、そんなことをしている場合じゃない。
「「「「デイジー(様)!」」」」
「デイジー様! 大きく避けます! 捕まって!」
マルク達アタッカーとしては後方支援の私に、ドレイクがターゲットを向けるというのは、一番避けたい事態だったはずだ。
私の名を叫ぶみんなの声と、リーフの警告の言葉が混ざって耳に入る。
来る!
私は、覚悟を決めて、その爪から逃げようとするリーフを信じて、その体にぎゅっとしがみついた。
けれど、もともと私がいた位置に留まったまま、ドレイクは私たちを追っては来なかった。
……あれ?
だが突然、攻撃を仕掛けようとしていたドレイクは、羽ばたいて宙に浮いたまま、その場に留まっていた。
「ご主人様の匂いだ!」
そして、なぜかドレイクの口から、少女の声がした。
……ここのフロアにいるメンバーの中に、この声の持ち主はいない。
ということは、それはドレイクの声であるというこという理屈だ。
普通は、凶暴そうなドレイクの口から、少女の声が発せられるなんて想像しない。
そして。
「ご主人様の匂いが、少しする人間見つけた!」
ドレイクの目が、爛々と、ただ、とても楽しそうに思える目で、私を見ていた。
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2巻の範囲に合わせて、この回をストップしておりました。
丁度いいタイミングかなぁ、と。
この展開を予想していた人、いるかな♪
こっそーり、フラグを仕込んではあったのだけれど……(^_^)v
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