第204話 帰宅と種植え

 ネズミ肉でおねかがいっぱいになって一晩ぐっすり眠った後、私達は朝早くに出立し、無事に王都へ戻って来た。


「素材の解体依頼、よろしくね!」

 マルクとレティアに、冒険者ギルドで討伐したものの解体と、解体後のいらない素材を売ってもらうようお願いする。

「デイジーは、種よろしくな!」

「はーい!」


 そうして、解散……、と思ったのだが。


「ミィナって、猫獣人だよな」

 ふと、思い出したように呟いて、別れ際の足を止めるマルク。

「……そうだけど、どうかしたの?」

「火鼠の肉、かなり取れたから、欲しい……というか、好物かな? なんて思ってな」


 うーん。

 猫はネズミが好き。……なのだろうか?

 そして、猫獣人は可食なねずみ肉であれば、好物なのだろうか?


「……聞き方を間違えると、大変なことになる、繊細な問いになるわよね」

「やっぱりそう思うか?」

 私の答えに、うーん、と悩むマルク。

 さて、どう聞こう?


「おーい、ミィナ〜!」

 悩んでいると、レティアが何故かカフェスペースで接客をしていたミィナに声をかけた。

「あ。みなさんお帰りなさい!」

 花も綻ぶといったふんわりと愛らしい笑顔が返ってきた。


「ちょっと失礼しますね?」

 ミィナは、接客中だった客に声をかけてから、レティアの元に向かった。

「何か、御用ですか?」

 レティアの正面に立つと、ミィナが首を傾げて尋ねた。

「ああ。野生の大型ねずみの肉が沢山あるんだけど、いるかなって」

「野ねずみですよね?」

「ああ、そうだ」


 ……だ、大丈夫かしら? 猫とねずみはかけていない。大丈夫、よね?


「はい! 噂で、とても美味しいと聞きました! 譲っていただけるなら、ぜひ!」

 目を輝かせて両手を胸の前で組んで、とても嬉しそうにミィナが返答した。


「マルク〜! ってわけで、塊二つくらい分けてあげて」

 レティアの呼ぶ声に、ほっとした顔のマルクがやって来て、マジックバッグの中から包んだ大きめの肉塊を二つミィナに手渡した。

「わぁ、いっぱい! 男の子達が食べ盛りだから、きっと喜びます。ありがとうございます!」

「ああ!」

 ミィナは、マルクとレティアの二人に頭を下げてお礼をすると、早速厨房の冷蔵庫にしまうつもりだろう。走っていってしまった。


「……大丈夫だったな」

「お前は考えすぎだ」


 なんだか、マルクがレティアにぽかりと軽く叩かれていた。


「あ、あと、栽培用を除いた種を、三人で分けなきゃ!」

 はっと思い出して、またたびの木の種の入った袋の口を開ける。


「「そうですよ!」」

「ピイィー!」

 リーフ、レオン、ティリオンがようやくとばかりに騒ぎ出す。


 その間に、アリエルとリィンが私の周りに集まってきた。

「一応、栽培用はうまくいかなかった時のことも考えて多めにもらっておくわね。で、残りを当分に……」

 リィンとアリエルが差し出した手のひらの上に種を載せる。


「これで、よし、かな?」

「だな!」

「はい!」

「じゃあ、次会うのは革のなめしが終わって、マントの採寸をするときだな」

「ああ」


 みんなで手を振り合い、解散する。

 私はアトリエの入り口のドアノブを握って押し開ける。チリンとドアベルが鳴って、来訪者が来たことを中の者に伝える。


「あ、デイジー様。表が賑やかだと思ったら、おかえりだったんですね! どうでした? 収穫は」

「うん。目的の火鼠は十分狩れたわ。あとは、用途不明の宝石と、宝箱から不思議な種を得てきたの」

 私はそう言いながら、ポシェットの中から火炎王の涙とまたたびの木の種、そして古代の薬草の木の種をテーブルの上に出して見せた。


 マーカスは、テーブルに広げられたそれらを、熱心に鑑定しているみたい。じいっと覗き込んでいる。

「またたびは種が取れたら、みんなが喜びそうですね。あとは、古代の薬草……。これは、ぜひ育てて、どんな薬剤になるのか、実験してみたいものです!」

「そうなのよね! だから、早速植えに行こうと思うんだけれど……」

「あ! デイジー様、待って!」

 マーカスの言葉に同意して、さあ早速と植えに行こうとする私をマーカスが静止した。


「どうしたの?」

 私は、意図が分からずに首を捻った。


「またたび、ですよ。どんな獣も魔獣も好き、となると、うちの畑が大変なことになりかねません」

 それはそうか。

 街中の野良猫や野良犬も狙ってくるわけよね。

 それをリコが倒しちゃうと言うのもなんだか可哀想だし……。


「どうしようかしら……」

「温室を作るか、鉢植えにして室内で育てるか……?」

 うーんと腕を組んで考え込む私とマーカス。そして、多分後者だと、我が家の畑の恩恵を受けられない懸念がある。


「デイジーにマーカス。どうしたの〜?」

 考え込んでいると、宙を飛んでリコがやってきた。

 かくかくしかじか、と、またたびの木を育てたいのだが、害獣が群がりそうで悩んでいると彼女に相談してみた。


荊のカゴローズケージで、覆いを被せたら? 棘があるから、手を差し出そうとしても犬猫にとっては痛いし、収穫をしたいときは解除すればいいわ」


 ……なるほど!

 私は、準備が既にできている畑に、間を開けてスコップで穴を掘る。

 一つは、古代の薬木の種。そして、畑の端っこにまたたびの木の種を入れて、土をかける。


荊のカゴローズケージ

 私は、またたびの木の種を植えた植えに、カゴ状の荊を形成した。

 うん。格子状に隙間はあるから、お日様の光も差し込むし、水やりにも支障はないわね!


「「リコ! ありがとう!」」

 アイディアをくれたリコに二人でお礼を言うと、照れながらも嬉しそうに笑顔になるリコ。

 そうして、畑の世話はお任せして、そこを後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る