第197話 対決!火鼠

 ようやくドルメキア大渓谷に到着した。

 大地は薄黄色く、草木の生えない乾いた平野が広がっている。

 その横に、高い崖に挟まれた谷が奥まで続いていた。


「さて、ここで作戦を説明するぞ。まずは、水属性での追加効果のある武器に持ち換えろ」

 マルクのその言葉に、使い慣れたハンマーを装備していたリィンと、魔法で矢が出せてしまうアリエルが矢筒を背負う。


「まず、火鼠はここの壁に一匹一穴ずつ掘って生活している。だから、一匹ずつここの平野部まで誘き寄せれば、有利に狩ることが出来る」

 マルクが説明する手順に、皆んなが頷く。


「誘導役は、ティリオンとアリエル。魔法の矢でいい。一発撃ち込んで怒らせて、一匹ずつ連れてくる。出来るか?」

 マルクがアリエルの方を見る。

「勿論です! ね、ティリオン」

 アリエルが、相棒のティリエルの喉を撫でると、嬉しそうにクエーッとティリエルが鳴き声を上げた。


「で、次に一匹誘き出してからの話だ。ここまで来る道すがら説明があったと思うが、火鼠は大きい。そして、体表が炎で覆われている。だから、近接攻撃する者は火傷はある程度覚悟して欲しい」

 その言葉に、リィンとレティアが真剣な顔つきで頷く。


「自然回復機能の装備である程度は回復すると思うが、それで賄えない分は、デイジー、お前がポーション弾で対応してくれ。いいな?」

 そして、マルクが私に視線を向けて指示を出す。私は首を縦に振る。


 そこに、聖獣二匹が揃ってマルクの前に並ぶ。

「私達は、デイジー様とリィン様にそれぞれ乗っていただき、機動力となろうと思いますが、よろしいでしょうか」

 話を切り出したのはリーフだった。

「ああ、しっかりデイジーとリィンを攻撃から守ってくれ!」

 マルクが大きく頷いた。


 彼らにも耐熱効果のある皮の防具とスカーフを首につけてもらっている。

 特にリィンと一緒に火鼠に近づくレオンは、体表の炎に近づいても、きっと大火傷にはならないだろう。


「じゃあ、各自持ち場について! 体にはなるべく傷をつけないように!」

「「「「了解!」」」」

 レオンに乗ったリィン、レティア、マルクがU字谷からちょうど出たあたりに位置取る。

 私は、ヘイトを買わないよう、リーフに彼らとは距離をとった場所に誘導された。

 そして、ティリオンに乗ったアリエルがU字谷の中に侵入していく。


 程なくして、谷に「ブモオオーー!」という大きな獣の鳴き声っぽいものが響いた。

「……鼠なのに、『ブモー?』」

 そう言って首を捻る私に、リーフが、呆れた声で答える。

「デイジー様。何度も大きいと聞かされたでしょう。大きい獣であればあんな鳴き声もあるでしょう」

 あ、そうか。やっぱりまだ私はどこかに拘ってしまっているらしい。

 ……気を引き締めなくちゃ!

 私は、アゾットロッドを握る手に、力を込める。


 そして、アリエルの誘導で、彼女を追いかける形で火鼠が一匹谷から出てきた。


 ……大きい!


 言われたとおり、ドレイクよりやや小ぶりといった体躯、そして怒りで発火した体は迫力がある。

 誰かの火傷が酷くならないうちに回復できるよう、私は集中して皆んなを見守ることにした。


「まずは、脚を狙え!」

 マルクが咄嗟に指示を出す。

 そして、アリエルに気を取られている火鼠が、彼の前を駆けていくその瞬間に、絶対零度の槍斧を前脚に打ち付ける。

 すると、足の骨が折れる音と共に、その斧頭を打ちつけた場所から、脚自体を凍らせていく。

 火鼠は、足が不自由になったせいで、今度は怒りをマルクに向ける。


「なるほどね、この新作武器は、そういう使いかたに打って付けって訳か!」

 レティアが、マルクの結果に目を輝かせながら、マルクの反対側から、マルクに気を取られているうちに、後脚一本を斬りつける。

 すると、切りつけた部分から再び足が凍りついていく。


 そして、その隙にリィンが残ったもう一本の後脚をハンマーで打ちつけて、凍らせる。

 合計三本の脚を凍らせられた火鼠は、その巨躯を支えることが出来ずに、ドウッと地面に倒れ込んだ。


 行動不能になれば、後はただ、首を折るだけ。

「リィンと俺で首を折るぞ!」

「ラジャ!」

 首も、ただ折るというより、やはり打撃を与えると酷い凍傷状態になるので、そのうち火鼠の首周りが霜を降ったようになってくる。


癒しの霧雨キュアミスト!」

 私は合計五個のポーション弾を中に浮かべ、一回目の作業の済んだレティア、そして、懸命に首に攻撃を仕掛けているマルクとリィン、レオンの頭上にポーションの球を浮遊させる。

 そして、霧状にすると、体全体にポーションを振りかけた。


「ああ、助かる。一回で全身治るなんて、凄いな!」

 レティアが嬉しそうに、笑顔で親指を立てて見せてきた。よくやったという意味なのかしら?


「よっし、終了!」

 ようやく絶命した火鼠は、もう体表も鎮火している。その横で、マルクがハルバードを支えにして立っていた。

「さすがにこの首回りだと、骨を折るのも一苦労だな〜!」

 リィンも、さすがに疲れたみたい。


 結局、その後、もう一度マルクとリィン、レオンの火傷を治し、休憩をとってから、アリエルとティリオンが次の一匹を誘き寄せに行く。


 全部終わって、人数分の火鼠、合計五匹を倒して、狩りは終了。

「デイジー達の新作のおかげだなあ。火鼠退治がこんなに楽に済むなんて」

 火傷を負い、ポーションは消費したものの、火鼠退治と言ったら普段はこんなものでは済まないらしく、マルクが明るい顔をしていた。

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