第196話 デイジー、鼠の正体を知る

 北西門を出て、今回は、前回行ったエストラド火山の手前にある、『ドルメキア大渓谷』へと向かう。だから、旅の道筋はほとんど一緒だ。

 けれど、街道沿いの麦畑は初夏の日を受けて、前回よりも背が高く、そして青々として、風に靡いていた。


 ちなみに、『ドルメキア大渓谷』は、別名『炎の谷』とも言われるらしいが、谷が燃えているわけではない。

 火鼠が生息する谷だから、そう呼ばれているのである。


 旅の道すがら、今回の目的地の特徴と、火鼠の特徴、そして、作戦などをマルクから説明される。

 マルク曰く、今回の目的地は、山岳地帯に出来た、ドルメキア大渓谷という名の切り立った巨大なU字谷。

 その壁に、火鼠は穴を掘って巣にして生息しているそうだ。


「ネズミなのに、岩なんか掘れるの?」

 と質問したら、レティアにため息を吐かれてしまった。

「門を出るときに、大きいって言っただろ?」

「そうは言われても、……ネズミの爪で掘れるのなんて、せいぜい土くらいなものじゃないの?」

 それでも納得がいかなくて、私はさらに質問を重ねる。


「レティア、デイジーはそのの程度が把握できていないんだよ」

 先頭を行くマルクが振り返って、私達二人に声をかける。


「……知らないとなると危険だな」

 レティアが呟いた。

「火鼠の大きさは……」

 レティアが、具体的に答えてくれた。


「ええーーーーーーっ!」

 私は驚いて大声をあげてしまう。

「ちょっと、デイジーうるさい」

「声が大きすぎて、近隣の方に迷惑ですよ〜」

 リィンとアリエルから苦情が来てしまった。


 ななな、なんと!

 火なのに、ドレイクより一回りくらい小さい程度なんだって!

「どこが鼠なのよっ!」

 私は思わず、理不尽を感じて、鎧を蹴ってしまった。

「……いや、デイジー様、怒りにかまけて、私のお腹を蹴らないでください……」

 リーフに、嗜められてしまった。

 ……あ、やっちゃった。


「リーフ、ごめんなさい」

 私は身を屈めて、リーフのお腹を撫でる。

 すると、「大丈夫」とでも言うように、リーフが私のその手をベロンと舐め上げた。


 火鼠とは、ドレイク程に大きく、しかも、その体表が轟々と火を纏っているそうだ。

 そんなんじゃ、近接職はやけど必至じゃない。

 だけど、そんな火を纏っていても平気な体表は、絶命するとその火は収まり、なめした革をマントや外套に仕上げると、火から身を守る優れた装備になるのだそうだ。


「大体な、ドレイク討伐のための素材集めの最後に設定されている時点で、普通の鼠じゃないって気がつけよな」

 マルクが先頭でため息をついている。


「だぁって〜」

 私は、ついつい唇を尖らせてぼやいてしまう。

「おいおい。貴族のお嬢様が、というか、自身が貴族なのに、『だぁって』はないだろう」

 リィンが私の隣にやって来て、腕を伸ばして、私の鼻を摘む。

 私達を乗せるリーフとレオンは、ついでとばかりにお鼻で挨拶をしていて仲良しだ。


 そんな風に道を進んでいくと、日もだいぶ斜めになってきて、ちょうど良い草むらがあったので、マルクがそこで野営をすることに決めた。

 乗ってきた馬やリーフ達から降りると、早速、彼らは思い思いに休憩を取り始めた。


 草むらの脇には、キノコや木の実、何か食料になりそうな動物もいそうな森もある。

「俺とレティアはいつものとおり、設営の準備をするから、お前達は今夜の食べ物を採って来てくれ!」

「「はーい!」」

 私とリィンが返事をして、森の中へ向かう。それを見て、リーフとレオンが後を追ってきた。


「私は、鳥か獣を獲ってきます」

 アリエルはそう言うと、ヒョイっと身軽に木の太めの枝に飛び上がり、ひょいひょいと枝から枝へと飛んで行ってしまった。


 私とリィンはリーフ達と共に、森の恵みの採取だ。

「あ、きのこ発見!」

 そこには、きのこ自体に旨みがあって美味しい、ウマインダケがたくさん生えていた。

「お、こっちは恵みのナッツがなってる!」

 リインが嬉しそうに声をあげる。これは、殻を剥いて、から炒りして塩を振って食べると美味しいのだ!

 その他にも、食べられる野菜なんかを摘んで、野営地へ戻った。


 アリエルは、まるまると太ったほろほろ鳥を捕まえてきたらしい。

「おお、これは豪勢だな!」

 ほろほろ鳥は、身離れも良く食べやすい。そして、適度に脂も乗って柔らかく美味しいのだ。


 血抜きの済んだほろほろ鳥の羽根むしりや、捌くのはマルクがやって、焚き火の火でじっくり焼いてくれる。私達が採ってきたキノコや野菜、ナッツ達は、レティアが味付けして炒めてくれた。


 焚き火の元で食べる野営ご飯も、とっても美味しかった!

 私達は、満足に食べて、テントで眠るのだった。

 いつものとおり、リーフとレオンの見張りに守られて。

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