第191話 意外な顧客
ここ最近、錬金工房に、今まで顧客じゃなかった人達が、ちょくちょくやって来るようになった。
そして、今日も私が店番をしていると、やって来たのだ。
ドワーフの
「お嬢さん。ここで、『体力/魔力入換ポーション』を扱っているって聞いたんだがね?」
そう。
彼らの目的は、この新作ポーションなのだ。
最初の頃の購入者は、戦闘職のドワーフさん達だった。
けれど、なぜか最近職業を問わずにドワーフさん達が買い求めに来る。
結局、今日来店されたドワーフさんも、二本、購入していった。
「うーん、おかしいわね」
私は、お客様を見送ってから、腕を組んで首を捻る。
「どうされました?」
蒸留水を作り切って、手の空いたマーカスが私に尋ねる。
「この間新しく売り出したポーションがあるじゃない?」
私がそう言うと、マーカスは、少し逡巡するようにして首を捻る。そして、思いついた! といった表情に変わる。
「ああ、あべこべの実から作ったポーションですね!」
ぽん、と握った拳を反対の手のひらに打ち付ける。
「そう、それ。戦闘職のドワーフさんが買っていくのは、想定内だったんだけれど、最近、そういう職業関係なくドワーフさんが買っていくのよね……」
私が首を捻る。それにつられてマーカスも首を捻る。
「うーん、変ですね。戦闘職以外というと職人さんですか? なんのために使うんでしょう」
マーカスもよくわからないといった体で、唸ってしまう。
と、そんな時に、チリンとドアベルが来客を知らせ、リィンがアトリエにやって来た。
「よっ! 元気にしてる?」
にこやかに笑って、片手で挨拶をしている。
「あら? リィンがお客さんだなんて珍しいわね。どこか具合でも悪いの?」
そう聞いてみるけれど、見た目、リィンはとても元気そうだ。ポーションが必要な病気を患っているような様子もない。
「いや、じいちゃんのお使い。例の新作ポーションを買って来て欲しいって言われてさ」
幸い、リィンやその身内に、具合の悪い人がいたわけじゃなかったらしい。
それと、リィンのお爺さんは、ドラグさんと言って、凄腕の技師さんだ。私のアゾットロッドの制作者でもある。
うん、ドワーフの職人さんが、また例のポーションを買い求めている……。
「ねえ、リィン。ドラグさんは、魔物退治なんかしないわよね? なぜ、あのポーションが必要なのかしら?」
丁度いい。リィンに聞いてみることにした。
「あれ? 知らない? 最近、あのポーションは、ドワーフ達の間で大流行りなんだよ」
いやいや、そんなこと初めて知ったわよ。
そして、やはり魔物退治に使うわけでもないようだ。
「どういうことなのか、教えてもらえないかしら?」
立ち話もなんだから、私はリィンを二階のリビングに招いて、飲み物とお菓子を摘みながら、話を聞かせてもらうことにした。マーカスも誘った。
「ドワーフってさ、総魔力量が基本的に少ないだろう?」
リィンが、ミィナお手製のクッキーを摘みながら、説明をしてくれる。
「そうよね、使うメリットなんて何もないでしょう? それにお酒が……」
私は、そこまではリィンの言葉に頷いていた。
「それがいいんじゃん! 体力が減って、疲れたところに強い酒! キュッと決めると、程よい疲労感とともによく寝付けるんだって!」
「「ええええ!」」
私とマーカスが、あまりにも想定外の使用方法に驚いて、大きな声をあげてしまう。
しかも、あのつよーいお酒を飲んじゃってるなんて!
「ドワーフだもん。酒には強いし目がないよ。しかもあれは、なんか癖になる木の実の香りがして、うまいんだって、みんな言ってるぞ」
まあ、泥酔効果があるだけで、あれは毒ではない。まあ、飲んでもいいんだけど……。まさか、自分達で飲むために買う人が出てくるとは思わなかった。
呆気に取られる私達に構わず、その後リィンは体力/魔力入換ポーションを四つ購入して帰って行った。
「ねえ、マーカス」
「はい、デイジー様。なんでしょう」
私は思わずマーカス相手にぼやいてしまう。
あべこべの実を、魔導師団の体力トレーニング用と言って買っていく軍務卿然り。ナイトキャップとして体力/魔力入換ポーションを買い求めるドワーフ達然り。
「……制作者の意図とは関係なく、購入者達は使い方を見つけるものなのね」
ため息混じりに、私がそう言う。
「確かにそうですね。今回は、悪用とまではいきませんが、今後新作を店に出す時には、用途をそれとなく聞くようにしたほうがいいかもしれませんね」
マーカスも、深く頷いてくれた。
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