第190話 烈火と結氷の剣
マーカスの言葉に、気持ちを落ち着かせてもらった私は、もう一度錬金釜の中に収まっている素材達を見てみた。
『会うと喧嘩ばかりだけれど、やっぱり俺にはお前しかいないんだよなぁ』
『二人で、一緒に最高の武器になれるあの瞬間。あれは最高の時よね』
『ああ、恍惚の瞬間だ』
なんて、話して(?)いる。
私は、ふう、と一息つく。
……全く、しょうがない子達ね。だったら最初から素直になりなさいよね!
私が最高の武器……、と言っても、できるのはインゴットにするところまでで、武器に鍛えるのはリィンなのだけれど。
私はまだエプロンと軍手をはめたままだ。
壁に立てかけてある撹拌棒を手に取って、錬金釜に差し込む。
……さて、魔力を注ぐわよ。溶けて、一緒になれる瞬間を味わう時よ!
素材達に心の中で語りかけながら、攪拌棒に魔力を通す。
素材の品質やレア度がかなり高いし、性格もアレだからか、ごっそりと魔力を腹の底から根こそぎ奪っていく。
……なかなか、やってくれるじゃない。
私は、少し挑戦を受けているような気分になって、心が高揚して、思わずニヤリと笑ってしまう。
……もっともっと持っていきなさい! 私の魔力は底なしなんだから! 見くびるんじゃないわよ!
そうして、溶け始めたオリハルコンをぐるぐると混ぜ始める。
すると、素材達がまた語り始める。
【烈火と結氷のインゴット?】
分類:合金・材料
品質:中級品
レア:S
詳細:武器にした場合、相反するはずの炎属性と氷属性ダメージを自由自在に与えることができる。だが与えるダメージは弱い。
気持ち:まだまだだね。俺らの力はこんなもんじゃないぜ。
そうよね。まだまだよね、我儘素材さん!
私はさらに魔力を思いを込めていく。
……さあ、絡み合って混ざり合って溶け合って。そして、最高の結合の瞬間を迎えるのよ!
どんどん魔力が吸い取られていく中で、とうとう、窯の中が激しく発光する。
……結合の瞬間だわ!
『ああ、これだよこれ! この瞬間が最高だーー!』
そんな素材の声とともに、あまりの眩しさに、マーカスまで私の元にやってくる。
「爆発……、じゃないですよね。すごい、反応だ……」
マーカスは、その結合の瞬間の発光の凄さに、目を大きく見開いている。
【烈火と結氷のインゴット】
分類:合金・材料
品質:最高級品
レア:S
詳細:武器にした場合、相反するはずの炎属性と氷属性ダメージを自由自在に与えることができる。
気持ち:最っ高の出来だぜ! 嬢ちゃんありがとよ!
出来上がったものは、インゴット型にいつもどおり流し込む。
それにしても、今回できたのは、武器一つ分。リィンのは規格外に大きいから除外して……、今度はレティアかしらね?
レティア達とリィン、アリエルにそれぞれ確認をすると、皆、それでいいとの回答だった。
良い物が手に入るとなったら、争いの一つでも起こってもおかしくはない。
だが。
『チームなんだから、誰のものでも一緒だ』
そう思える、自分の仲間達の気持ちが、その一員である私には誇らしく思えた。
そうして、数日経って、レティアの剣が出来上がってきた。
お披露目は全員で。
表でやると騒ぎになって大変かもしれないので、近場の少し木々が茂っている場所でやることになった。
「はい、レティア」
その剣が、新たな使い手の手に渡る。
【烈火と結氷の剣】
分類:武器
品質:最高級品
レア:S
詳細:相反するはずの炎属性と氷属性ダメージを自由自在に与えることができる。同時に属性付与することも可能な魔剣。
気持ち:華麗に俺たちを操ってくれよ!
「まずは、切れ味」
ザンっと、一閃すると、太い木がバッサリと上下に分かれて倒れた。
(自然は大切に!)
「……さすが、オリハルコン製……。凄い。じゃあ、次は炎」
すると、刀身の周りに炎が渦巻く。
「氷」
次は、刀身を氷が覆う。
「……炎と氷」
すると、驚いたことに、刀身の周りに、炎と、氷の楔が二重螺旋になってぐるぐると取り巻いたのだ。
「これは、凄い……」
冒険者たるもの、得物には目がないのが一般的。
その相反する属性で二重螺旋を描くその刀身を天に掲げて仰ぎ見る。
「ありがとう……。これで、今まで以上に戦えるに違いない!」
レティアにしては珍しく、喜びをあらわにして、キラキラした目で、ずっとその刀身に見入っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。