第188話 体力/魔力入換ポーションを作ろう
「換気扇をまた回してね」
「承知しました」
マーカスが、私のお願いを聞いてくれて、換気扇のスイッチを入れるのを横目で確認する。
それを見た私は、『生命の水』の入った瓶を、保管庫から二本ほど取り出した。
そして、あべこべの実を、乳鉢で新しくすり潰す。
瓶の蓋を開けて、ビーカーの中に、擦った実を入れて、『生命の水』を注ぐ。
【体力/魔力入換ポーション???】
分類:薬品
品質:低品質
レア:B
詳細:一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替るポーションになりそう!
気持ち:少し待ってね!
「『生命の水』はあっという間に蒸発してしまいますから、このままで溶けるか、様子を見てみませんか?」
マーカスが提案してくれる。
うん、鑑定さんも、『少し待って』って言っているし、加熱はしないでおこうかしら。
「あれ、よーく見ると、砕いた実から、『生命の水』に、モヤっとしたものが流れ出ていくのが見えますね」
じっとビーカーを見ていたマーカスが、指摘してくれた。
「あ、本当! 鑑定で見てみましょうか」
【体力/魔力入換ポーション】
分類:薬品
品質:低品質(+1)
レア:B
詳細:一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替るポーションになりそう!
気持ち:今、成分が溶け出しているよ! 見えた?
……うん! ばっちり見えましたとも‼︎
「うん、成分が溶け出して、品質が少し上がったわ!」
「溶け出しやすいように、優しくかき混ぜましょうか!」
マーカスが、撹拌棒を持ってきて、くるくると優しく溶液をかき回した。
【体力/魔力入換ポーション】
分類:薬品
品質:普通(−1)
レア:B
詳細:一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替るポーションになりそう!
気持ち:優しくね! もう少しだからね!
「うん、もうちょっとで出来るわ!」
そして、くるくる回すこと少々。
【体力/魔力入換ポーション】
分類:薬品
品質:普通
レア:B
詳細:一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替るポーション。体格・体質にもよるが、泥酔効果付き。経口摂取、経皮吸収共可能。
気持ち:おめでとう!
「「出来たー!」」
ゴミを取り除くために布で濾して、瓶に詰める。
「でもこれは、人には使えそうにありませんね。だって、酔っ払っちゃうみたいじゃないですか」
出来たことは嬉しいのだけれど、ちょっと使い所が難しそうな品だ。
「私だったら、敵に遭遇した時に、鑑定で相手のステータスを確認してみて、飲ませちゃうって使い方もあると思うんだけれど……」
私達は二人で首を捻る。
「……売れますかね?」
「うーん?」
とりあえず、『素早さの種』とかと一緒に、『新しい商品』として、マーカスが宣伝用の紙を書いてくれるそうなので、一緒にラインナップに加えてもらって、様子を見ることにした。
そんなある日、珍しい来客がやってきた。
軍務卿と鑑定士のハインリヒだ。
ドアベルの音に気付いて、私が顔を上げると、普段来ることのない来客に驚いてしまった。
「いらっしゃいませ! わっ! 軍務卿おん自ら⁉︎ わざわざご足労いただき、ありがとうございます」
……声、うわずってないかしら?
「いやいや、ちょっと珍しい商品が加わったと噂に聞いて、直接見てみたくてね」
そう言って、カウンターの客側の方に置いてある椅子に二人が腰掛けた。
「珍しいというと、これでしょうか?」
私は、マーカスが新しく書いてくれたポスターを見せる。
「ああ、それだ。『素早さの種』と『力の種』、それを栽培出来たということが革新的だ。あとは、『あべこべの種』と、『体力/魔力入換ポーション』? 聞いたこともないな」
軍務卿と、ハインリヒが顔を見合わせる。
「鑑定をお持ちのハインリヒさんがいらっしゃるんですから、全部見ていただいた方が早そうですね」
私はにっこり笑って、二人に一礼をすると、保管庫から、それらの品を一つずつ持ってきて、カウンターの上に置いた。
並べられた品を、ハインリヒが一つ一つ鑑定にかけていく。
「『素早さの種』と『力の種』は、間違いない品です。ただし、ダンジョン産のものより、高品質。ということは、能力の上昇幅が他より高い可能性がありますね……」
「ふむ。これも是非納品物に加えたいものだな……」
満足そうに頷きながら、軍務卿がヒゲの形を整えるように弄る。
「あとは、まずは『あべこべの種』。これは、一定時間、体力と魔力の値が入れ替わるようです。新種ですね……」
「ちょっと、どう使ったものかと、悩ましい品でもあるんですよね」
私が、ハインリヒに苦笑して答えた。
「……いやいやいやいや」
そこに、軍務卿がカウンターをバン! を叩く。
「これは画期的だ! なまっちょろな魔導師団の体力訓練に役立つじゃないか! あいつらは、体力訓練の時になると、体力切れですぐに音をあげる。これがあれば、基礎体力が一時的に上がる。そこを、猛特訓させれば、体力の向上が見込めるじゃないか!」
……えー! それは、可哀想じゃない?
カウンター向かいのハインリヒも、ちょっと微妙な顔をしている。
だが、軍務卿は、完全にこれを使って魔導師団の人たちをしごく気満々になっている。
だって、目が嬉々として爛々としている。
……お父様、ごめんなさい。私ごときでは、お父様の部下を守れそうにありません。
「そ、そして、こちらの『体力/魔力入換ポーション』ですが、これは、泥酔状態になることもあり、使うとしても、魔獣用でしょう。飲ませるか、かけるかすれば、『あべこべの種』同様の効果を得られますね」
「基本的に魔獣共は、体力が魔力を上回るものが多い。適切に使えば、最初から弱体化できるな……」
ふむ、と、軍務卿が思案げに髭を弄る。
「閣下、品は確固たるものです。いかがいたしましょう?」
「ふむ。『あべこべの種』がそれ程入り用でないのなら、まずはそれは、買えるだけ買わせていただきたい」
……ああ。軍務卿の心は、すでに魔導師団のしごきに占められている……。
「では、当店にある、半分量ぐらい今回はお持ち帰りいただいて、様子を見てはいかがでしょう?」
「ふむ、そうさせてもらうとしよう。うん、足を運んだ甲斐があった! デイジー嬢、これからも励むのだぞ!」
軍務卿が、私の肩をバンバンと叩く。顔は非常にご機嫌だ。
あとは、他の種と、ポーションも何本か使ってみたいということで、お買いあげ。
定期納品の量については、後日改めて、ということになった。
ご機嫌な軍務卿とハインリヒは、アトリエを後にした。
「……これでよかったのかしら」
私は、明日からでもしごきが始まりそうな魔導師団の方々に、ごめんなさい、と頭を下げるのだった。
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