第186話 あべこべポーションを作ろう

『あべこべの種』のエキスを取り出して、ポーション化する、ねえ。

そういえば私、植物の種子を材料にしてポーションって作ったことがないわね。

「ねえ、マーカス。『種子』のエキスを取り出すって、どうしたらいいのかしら?」

「そういえば、今までやったことがありませんね」

はて、とマーカスも、腕を組んで考え込んでしまった。


……鑑定さんがあっさり教えてくれたりしないかしら?


【あべこべの種】

 分類:種子類

 品質:高品質

 レア:S

 詳細:食べると、一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替わる、不思議な種。

 気持ち:少しは自分で考えろよ‼︎


……怒られちゃったわ。

流石に『錬金術師』としての、あるべき姿じゃなかったかもしれない。

私は、鑑定さんに反省させられた。


「いつものように蒸留水に溶けるかもしれません。粉状にして、試してみましょうか?」

マーカスが提案してくれた。

「そうよね、今までも水でできていたんだから、温度によってエキスが出てくるかもしれないわ!」


すり鉢を使って、あべこべの種を多めにすり潰しておいた。

量が多めなのは、試行錯誤することになった時のため。


そして、いつもの要領で、ビーカーに粉にした種子と、蒸留水を入れて、加熱してみた。


ビーカーの外側が曇り、内側に、小さな気泡ができ始める。


【あべこべエキス???】

 分類:ゴミの入った水

 品質:?

 レア:?

 詳細:一定時間の間、体力量と魔力量が入れ替るポーションを作る……んだよね⁇

 気持ち:……。


……ゴミの入った水って何‼︎ 今日の鑑定さんは酷すぎるわ!(ぷんすか)


「温度がまだ低すぎるのかもね!」

「うーん……。それにしても、鑑定の結果が微妙ですね」


気を取り直そう。

いつものとおりだったら、温度によって、抽出できるんだから!


加熱を進めて行く。やがて、小さな気泡が少し大きくなって、ぽこぽこしてきた。


「鑑定の結果、変わりませんね。水に溶けるなら、この辺りで、少し溶け出すんですよね……」

なんとなく漂う雲行きの悪さに、マーカスの顔も渋くなる。

確かに、私の鑑定の結果も、全く変わっていない。


……おかしいわね。


やがて、水は沸騰を始めるんだけど……。


「溶けませんね」

「うん……」

「水では溶けないってことなんでしょうね。ちょっと、安易すぎましたね」

マーカスが、水の中でぐるぐる回り続けるだけの、種子の粉を眺めながら、見事な失敗にため息をついた。

「他に溶かすベースになるものを調べてみるわ」

私は、むしろ俄然やる気になった。

だって、『ポーションになる』って鑑定さんは言っているんだもの。

きっと何かあるはずよ!


後片付けは、マーカスが引き受けてくれたので、私は、本棚のある二階のリビングに移動した。

「さてと……。どの本に書いてあるのかしら」

アナさんから譲り受けた本や、国王陛下や王妃殿下に色々本をいただいた本で、すっかり私のアトリエの本棚は中身も充実して立派になっている。

錬金術関連、というだけでもたくさんあるのだ。

「探すのは大変そうだわ……」

あれも、これも、と言いながら取り出して机に置いた本の山に、私はため息をつくのだった。


「……溶媒、溶媒」

呟きながら、今日も私は本を捲る。

一日目は、初級の本を全て確認してみたけれど、物を溶かすためのものは水以外に出てこなかった。

そうして、今日も、本と格闘中なのである。

本と言っても、意外にみんな体系だってなかったりするものが多い。

自分の過去の研究を、延々と書き連ねているような本もあるのだ。


「……絶対、私の作る教科書はこんなふうにはしないわ!」

ついつい、今やるべきことじゃないことを、やりたくなってくる。

……そんなものよね? 勉強しないといけない時って、お片付けしたくなったりしない?


「さてと。そんなことを言っていないで、探さないとね……」

私は再びページを捲る作業に戻る。

ぱら、ぱら……。


ん……?

「命の水?」

私は、気になるページを見つけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る