間話 贖いと救いの道①
「痛い!」
リリアンが、度重なるアドルフによる暴力によって、とうとう地に倒れ伏してしまった瞬間。
「……お前は、生きろ」
そう言って、アドルフは転移を使い、リリアンの前から姿を消してしまった。
「……っ、アドルフのバカっ!」
倒れ伏したまま、地に突っ伏してリリアンは号泣した。
彼のこの先救いのない道を思い、泣いて泣いて泣いて、その涙すら枯れ果てた頃、彼女は気だるそうにノロノロとようやく立ち上がった。
近くで獣の呻き声がしたからだ。
ワーウルフ。
普通の狼よりも二回りほど大きい魔獣だ。それが一匹、リリアンを獲物にしようと狙いを定めていた。
「……アドルフに助けてもらった命、あなたなんかにあげられないのよっ!
そう、あの子。私を打ち負かしたあの子のように。
無駄なことはせずに、初級魔法を無駄なく撃てるだけ撃ち続けて、数で相手を圧倒する。
……生きるんだから!
だが、撃ち続ける光の矢を掻い潜って、ワーウルフがリリアンめがけて真っ直ぐに突っ込んでくる。
彼女はまだたった十四歳の見習い聖女だった少女だ。回避能力は大して優れてはいない。避けようと横に外れたが、避けきれなかった。
「っ!痛った……」
ワーウルフの牙によって、ワンピースのスカートの布地が裂け、露わになった彼女の太腿から赤い血が流れる。
……まだ動ける。回復より、倒す方を優先するわ。
「
いくつ撃ったかもわからない、その矢のうちの数本が、ワーウルフの前足の腱を切り裂き、ワーウルフが地面に崩れ落ちた。
「戦い方って、あるのね」
最後に一発、頸動脈があるであろう辺りに魔法を撃ち込み、リリアンはようやくワーウルフを絶命させる。
リリアンはそれまで、いかに沢山の魔法を、いかに華やかな上位魔法を撃てるようになるかばかりに気を取られていた。
……でも、それじゃ生きていけない。
頼みの綱だったアドルフもいないから、この獣を解体もできないし火すら起こせない。
食べることにすら事欠くのね。
「ヒール」
ひとまず、リリアンは太腿に負った怪我を治療する。
……とりあえず、人通りのある街道に出て、これを物々交換してくれるか、買って貰えるか交渉しようかしら。
いつまでもここにいたら夜になってしまう。人気のないここは、魔獣たちの狩場になるだろう。
そう考え、彼女はワーウルフの死骸を引きずりながら歩きだしたのだった。
そうして、いく時間歩いただろうか。
リリアンは、ふと、行く手に古ぼけた教会があるのを見つけた。
……神に祈りを、犯した過ちを悔いていることを、祈りたいわ。
それにもう夕方。もし可能だったら、一晩だけでも宿を乞いたい……。
そう思って、リリアンは、その教会に向かうことにした。
ギィ、と古く重い扉を開ける。
「どなたか、いらっしゃいませんか?」
寂れた小さな教会の中に、リリアンの声が響く。
すると、奥の方からコツコツと木の床を人が歩く音が聞こえてきた。
「神の家にようこそ。どのようなご用件でしょうか」
着古した神父服を着た、二十代半ばと思しき男性が、穏やかな声でリリアンに用向きを尋ねながら、姿を現した。
「まずは、神に祈りを捧げさせていただきたいのです。そして、外にワーウルフの死骸があります。それを、食べ物と交換していただけないかと……。あと、一晩だけで良いので、邪魔にならない隅にでも、宿をお借りしたいのです。あの、色々図々しく申し訳ありません……」
生きるためとはいえ、世間知らずだった自分がこんなことを人に頭を下げることができるようになるなんて、と、リリアンは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。
「女性お一人ですし、その服装といい、事情がありそうですね。ああ、そうだ。ここは私の教会というわけではないので、遠慮は無用ですよ。どうやら、ここは遺棄された教会のようですね」
その男に指摘されて、ようやくリリアンは破れて太ももが露わになってしまった自分の服に気づき、赤面する。
男性の勧めもあって、平民女性が着るような簡素なワンピースがあったので、それに着替えさせてもらうことにした。
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