第169話 姉妹一緒に②
「リリー、始めるわよ。まずは、この錬金釜の周囲に、物理障壁を張ってくれる?」
「はい、おねえさま。
すると、錬金釜の周囲に障壁が形成される。これで、熱を持っていても、理論的には『物』である金属は外に飛び出さないはずだ。これで、リリーに怪我をさせる心配は大きく減る。
「まずは、この小さな錬金釜の中に入っている鉱石を溶かすの。氷が溶けてお水に変わるのを思い出して。あんな風になあれってイメージして魔力を送り込んで」
私の言葉を合図に、リリーの両手から温かい魔力が流れ出ていくのを感じる。
「そう、上手よ。ゆっくり慌てずにね」
私の腕の中でコクリと頷くリリーの表情はじっと錬金釜の中を見つめていて真剣そのもの。
「ゆっくりでいいから……、じょうずに、とけて、まざって」
リリーが願いを込めるように呟くと、トロリと鉱石が溶け出した。
「いいわ、その調子」
「うん」
小さな攪拌棒を使って錬金釜の中をかき回すと、トロトロに溶けた鉱石の成分が混ざり合う。
「リリー。均等に混ざっていそうかしら?」
「ええ、だいじょうぶよ。おねえさま」
リリーの『目』で見て大丈夫なら、そうなのだろう。私は彼女のその能力を信用することにした。
「じゃあ、次に行くわね。今度はこれを冷やして固めるの。今度は、お水を氷にするイメージよ」
「はいっ!」
真剣な眼差しで釜の中を見つめながら、リリーが返事をする。
「こんどは、なかよくいっしょに、かたまるのよ……」
そうして、再びリリーの掌から魔力が流れ出ていく。そして、それは錬金釜の中を冷やし、混ざった鉱石が固まる。
「リリー、綺麗に仲良く固まれているかしら?」
「はい、だいじょうぶです」
うん、ここまでは大丈夫なようだ。今度はこれに圧力をかけて、宝石に変成するんだけれど……。
「おねえさま! このこは、もっとぎゅっとならないと、ちからをだせないわ。だから、『あつりょく』なのね」
わっ。さっき教えたばかりのことと、『目』で見た状態で、もう理解ができるなんて。
「リリー。正解よ! あなたは本当に賢い子ね!」
よしよしと頭を撫でると、嬉しそうにきゃっきゃと笑って足をバタつかせる。……と、足が作業台に当たってしまったようで、ドン、と音が鳴る。
「……いまの、おかあさまには、ナイショね」
リリーは首を捻って私を見上げると、えへへ、と笑って誤魔化し笑いをする。きっと昔の私のようにケイトからお母様に告げ口をされているのかしら? 思い出して、私はなんだか懐かしくなった。
「じゃあ、足はもうおとなしくね」
「はぁい!」
私がリリーの太ももをスカートの上からぽんぽんと軽く叩くと、リリーが片手を挙げて返事をする。
私は、また、さっきのようにリリーの両掌を外側から包み込み、錬金釜の周囲に添える。
「じゃあ、次は『圧力』による『変成』を始めるわよ」
「はい!」
リリーが、緊張をほぐしたいのか、ふう〜っ、と深く息を吐いた。
手が塞がっているので、そんなリリーの頭の上に私は顎を軽く乗せる。
「大丈夫。私が一緒だからね」
その言葉に、こくんと頭が縦に揺れて、強張っていたリリーの体の力が少し抜けた。
「今、氷みたいに塊になったものが見えるでしょう? あれを、魔力で、ぎゅーーーっと握るみたいに力を加えるのよ。でもね、もっと具体的なイメージが必要よ。圧力により石の組成が変成し、新たな物質に生まれ変わる、そこまでイメージしてね」
少し難しいかしら?
でも、リリーの掌から、かなりの濃度の魔力が流れ出してきた。
「そう、上手よ。その魔力で、圧力で綺麗な宝石ができることをイメージして」
私は、リリーに手を添えているけれど、基本、私は魔力の補助はしない。なるべく、リリーを誘導する方に専念して、リリー本人の力で完成させてあげたいのだ。
「まんなかに、ぎゅーーっと。いしのなかの、みんなが、ちがう、てのむすびかたをして、ほうせきに、うまれかわるのよ」
リリーが、私の腕の中で一生懸命魔力を放出している。ちらっと鑑定で見たけれど、残りの魔力量はまだ大丈夫そうなので、リリーに任せる。
「そうよ、上手よ。イメージも良くできているわ」
すると、しばらく圧力をかけた後、急に石が眩しく光って、無色透明の宝石ができていた。
【癒しの魔法石】
分類:宝石・材料
品質:高品質
レア:A
詳細:身につけたものが、中程度の回復魔法まで使えるようになる。ヒール、ハイヒール、キュアポイズンが使用可能。
気持ち:頑張ったね!
「やったあ! できたわ、おねえさま!」
リリーは、ニコニコしながら錬金釜からキラキラした宝石を取り出して、親指と人差し指で挟んで、あかりに向けて掲げて覗き込んでいた。
成功だわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。