第168話 姉妹一緒に①
さて、奪い合いのもとは、小さく分けることができた。
となると、あとは作れるものを作るだけだけれど……。
まず一つは、対ドレイク対策の、溶岩鉱を入れたインゴット作成。
そして、もう一つは、偶然発見した、癒しの石からの宝石作成ね。
せっかくだから、リリーにも新しい技法を経験させてあげたいけれど、錬金釜で金属を溶かすのは温度的に、まだあの子に扱わせるのは怖い。何かあって撥ねたりしたら、大火傷じゃ済まないものね。
そうすると、残るは宝石作り。これも溶かすとはいえ、宝石用の錬金釜自体が小さいから、障壁を貼って貰えば安全に出来るかもしれない。
……今はリリーはお昼寝中だから、先にインゴット作りをやってしまいましょうか。
ということで、溶岩鉱と聖女の煌石と、ミスリルのインゴットを錬金釜の側に持ってくる。
さてどうしよう。
先に、インゴットと溶岩鉱を釜の中に入れて、溶かしてから、聖女の煌石を少しずつ投入するか。それとも、もしかしたら、素材合わせみたいに側に近づけるだけで、必要量がわかったりするかしら?
後者なら、素材を誤ってたくさん使ってしまうという失敗はないわね……。
私は椅子を自分の近くに引き寄せて、腰を下ろす。そして、ミスリルのインゴットと、溶岩鉱を引き寄せ、聖女の煌石のかけらをひとつひとつそばに寄せてみる。
一個目。
『聖女様成分が全然足りない』
二個目。
『もっと聖女様カモン』
……いや、カモンってノリが軽いわね。
三個目。
『だからさ、全然少ないのわからない?』
……ちょっとイラッとしたわ(笑)
だけど、鑑定で見る感じ、まだまだ足りなさそう。
私は気合を入れるために、自分の両頬をパチンと叩く。
「さあ、めげずに頑張るわよ!」
四個、五個、六個……と加えていって、ちょうど十二個目で、満足行ったようだ。
『うん、聖女の力は、このくらいあるのが俺には相応しい』
ですって。
さて、残りは一欠片。足りるかちょっと不安だったけれど……。
『聖女様と一緒だなんて嬉しいなあ』
と、癒しの石は十分満足してくれたようだった。
インゴット作りを始めるために、私は、ミスリルと溶岩鉱と聖女の煌石を錬金釜に入れる。
そして、撹拌棒を握って魔力を注ぎ込む。
……さあ、聖女の力が欲しいと強請った貴方の底力を見せて……!
ぐるりぐるりと溶けて混ざっていく金属達に、祈りを込める。
すると、錬金釜の中から強い光が溢れ出て、調合が成功したことを教えてくれる。
【聖炎のミスリル】
分類:合金・材料
品質:高級品
レア:A+
詳細:ミスリルに火属性と聖属性を加えたもの。武器にすると火属性と聖属性を併せ持った魔剣になる。
気持ち:聖なる炎で邪悪な悪魔を焼き切るぜ!
……なるほど。『聖なる力』が欲しいと言ったわけだわ。
我儘に振り回されたものの、結果を見て納得しながら、まだ液体の合金をインゴット型に流し込んだ。
と、インゴット型に流し終えようとする頃、ちょうど、階段をコトコトと降りてくる子供の足音が聞こえてきた。
「おねえさま。おはようございます」
そう言いながら、背後にふわふわ飛ぶピーターとアリスを従えながら、リリーが姿を見せた。
「おはよう、リリー。よく眠れたかしら?」
階段を降りてくるリリーを見上げながら尋ねると、リリーはコクリとひとつ頷いた。
「ピーターとアリスがいっしょだったので、ゆめのなかでも、あそべました」
インゴット型を邪魔にならないように部屋の端に避けてから、私は手袋を脱いで、机の上に置き、リリーを迎えに行く。
「それは良かったわ。ピーター、アリス。リリーのお守りをありがとう」
リリーを抱き留め、頭を撫でながら、ふわふわと宙を浮く彼らに礼を言う。すると、彼らは、「滅相もございません」と礼儀正しくお辞儀をした。
私はしゃがんで抱きしめていたリリーと目線を合わせて、計画していたことを提案してみることにした。
「ねえ、リリー。貴方が譲ってくれた聖女の煌石を使って、一緒に宝石を作ってみない?」
ね、と首を傾げて見せると、リリーの目が大きく見開かれて、彼女は、うんうんと何度も頷いた。
「おねえさまといっしょ!やりたいです!」
「じゃあ、まずは最初にお勉強ね」
私は、コトン、と聖女の煌石の欠片を床に落として見せる。
「これが重力。大地に向かう一方方向への力よ。これが私たちを大地に繋ぎ止めてくれる力なの」
そして次に、欠片を拾って、その欠片をリリーに握らせて、私が外からリリーの手を覆うようにしてぎゅっと力を加えさせる。
「これが圧力よ。多方向からの力。この二つの違いはわかるかしら?」
そう言いながら、私は椅子に腰を下ろし、私の膝の上に座るようにトントンと叩いて彼女を促す。
「はい。じゅうりょくは、だいちにしか、ちからがむかいません。でも、あつりょくは、ぜんぶのほうこうから、なかのほうにむけて、ぎゅーってなるものです」
リリーはそう答えながら、私の支えを借りながら、私の膝の上に座る。
私の目の前の作業机の上には、宝石作り用に新たに購入した小ぶりの錬金釜と、聖女の煌石の欠片、そして、癒しの石が置いてある。私は、材料を全て錬金釜の中に入れた。
その後、リリーの両手を私の掌の中に左右とも収めて、錬金釜の左右に添えさせる。
「私の指定する通りに、魔力を使うイメージをするのよ。順番にね」
「はい!」
ちょっとリリーが張り切りつつも緊張しているのが、膝の上に乗せているリリーの力み具合で伝わってくる。
「私が一緒だから、大丈夫よ。緊張しないでね」
「……はい」
リリーの後頭部が私の胸に預けられて、彼女が力を抜いたことを感じた。
……じゃあ、始めましょう。
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