第132話 樹氷鉱を求める旅②

 翌朝、一晩休んだ宿場町の宿屋で朝食を済ませ、レティアとマルクの馬を預かってもらって、登山用のブーツに履き替えて、登山道の入口へと向かった。

 あ、アリエルはティリオンに乗って飛ぶらしい。そのかわり、私たちが歩く周りを哨戒しながら飛んでくれる。狭い山道で、魔獣と戦闘になったりしたら危ないから、先手をうってくれるのはありがたい。


 私とリィンは徒歩。仮に山道でリーフ達から落ちたら危ないので、きちんと歩きなさいということになったのだ。もちろん体力づくりの意味もある。

 道は、そこまで急斜面では無いのだが、それなりにでこぼことしているし、小石や岩も露出していたりする。そういう整地されていない道なので、定期的に休憩をとりながら登っていく。


「うわ、なにこれ!」

 私が思わず叫んだその目の前には、なんだか巨大な岩が絶妙なバランスで重なった、立派なトンネルのようなものが行く手を阻んでいた。

「これは、登るの?くぐるの?」

 立ち止まって私とリィンはその岩の穴を覗き込む。人は通れそうな大きさは充分ある。そして、登って上を通るのは、小柄な私たちには辛そうだ。


 その様子を見て、マルクが笑う。

「そうそう、初めてだとみんなこれ悩むんだよ。だから『初見迷いの岩』って言うんだよ。この登山道の名所だな」

 そう言いながら、マルクが私をひょいっと抱き上げて、岩の上に乗せてくれる。

「潜っても乗っても大丈夫!だけど、上に登ると絶景だからオススメ」

 そう言われて、岩の上から下を見下ろすと、今まで歩いてきた山道や、もっと下には昨日宿をとった宿場町、そして、その先には広々とした農村地帯や林や森が広がっていた。

「あたしも!」

 と強請るリィンも一緒に岩に乗って景色を十分に楽しんだ後、潜って反対側に回ったマルクが岩から下ろしてくれた。


 まあ、そんな名所もある山道を無理のないペースで歩いていくと、やがて、ぽっかりと穴が開き、下に降りていくタイプの洞窟に辿り着いた。

「ここは、下に降りていくから、俺がロープを張るぞ。それを伝って、ブーツのピックをひっかけながら注意して降りること」

 そう言いながら、マルクが岩場に杭を刺し、そこにロープをしっかりと縛り付ける。そして、ロープの反対側を、下に続く洞窟の中へと放り投げた。

 それを見ながら、アリエルが首を傾げる。

「一人ずつ、ティリオンに乗せてもらって降りれば良くない?」

「ええっ!先に言ってくれよ!」

 すっかり準備万端のマルクは肩を落とす。そしてその横で、ティリオンはOKとばかりに翼をバサバサして答える。

 ガックリ肩を落としながら杭とロープを回収するマルク。


 ……うん、たしかにちょっと可哀想だわ。


 まあ、というわけで、安全に一人ずつ下に下ろしてもらった。

 リーフとレオンは器用に岩場を蹴りながら自力で降りてくる。


「この氷穴は、氷柱とかはないのね」

 足元が凍っているだけで、壁面も岩肌が露出している。前回の擬態したアイスゴーレムの件があるから、ちょっと安心するなあ。

「季節にもよるけどな。と、ここは水属性の氷系のモンスターが出るから、武器切り替えとけよ」

 その言葉に従って、黒炎王シリーズの三人組が武器を持ち変える。


 すると、氷穴の奥から、ズッズッと何かを引きずる音がこちらに向かってくる。

 アイスリザード、背中に氷の棘を生やした大人の男性くらいの大きさのある巨大なトカゲだ。


岩の杭ロックバイル!」

 私が、足止めしようと思って、トカゲの口に地面から杭を生やして串刺しにする。

 と、トカゲが地面を後ろ足で蹴って、氷の棘を生やした背を私に見せる。

 トカゲがその背の棘を射出しようとするのを見て取って、アリエルが私の元に駆け寄ってくる。

炎の壁ファイアーウォール

 私を庇うようにして炎の壁で氷の棘を溶かしてくれる。

「ありがとう!」

「任せて!」

 頼もしい言葉のとおり、射出される氷を全て溶かしきってくれた。

「今度はこっちの番!炎の矢を喰らいなさい!」

 アリエルが叫ぶと、彼女が弓に三本の炎の矢をつがえて、トカゲの両肩と胴を射抜く。

「よっし、その隙にっ!」

 トカゲの気がアリエルに向いている隙に、横から走り寄ったリィンがハンマーを振り下ろす。

 それは、頭部がぺしゃんこになると共に、黒炎王の炎の力で頭部を黒焦げにされて息絶えた。


「よし、奥に進むぞ」

 そう言うマルクを先頭に、レティアを殿にして氷穴の奥へと進む。

「止まって!罠です!」

 私と並んで歩いていたリーフが、小石を咥えてマルクの横に走っていき、咥えていた小石をその目の前の足元に転がす。すると、ザシュッと音を立てて、足元から氷の杭で串刺しにしようとするトラップが出現し、その杭をギリギリの所でのけ反って躱すマルク。

「トラップ付きかよ……。適当な木の枝も転がってないし、どうするかな……」

 マルクが不自然な姿勢のまま、タラりと冷や汗を垂らす。

「私がトラップを探りながら先頭を歩きましょう」

 リーフがそう申し出て、私たちはさらに奥へと進むのだった。


 結局いくつかのトラップをリーフが先に発見して防ぐことで、無事に私たちは氷穴の最深部まで辿り着き、大きな木の形をした純度百%の『樹氷鉱』の塊を発見した。それはとても神秘的な光り輝くオブジェのようだった。

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