第118話 癒しのインゴット?
リリーは魔力詰まりが治って、空いている時間を見つけてはダリアお姉様と一緒に魔力操作の特訓をしているらしい。それに加えて、『魔力を使い切って眠る』という魔力増幅訓練も始められたらしく、一段落というところかしら。
よし、今度こそ『癒しのインゴット』を調合しよう!
エプロンと軍手をはめてっと……。
【癒しの石】
分類:鉱物・材料
品質:良質
レア:B
詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復の効果を発揮する。他の装備品におなじ効果がある場合は加算される。
気持ち:シルバーさんが優しそうだから一緒になりたいな。
じゃあ、シルバーのインゴットと『癒しの石』を入れてっと。
魔力を注いで、徐々に溶かして……。
【癒しのインゴット?】
分類:合金・材料
品質:普通
レア:B
詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復の効果を発揮する。他の装備品におなじ効果がある場合は加算される。
気持ち:ん〜まだ混ざってるだけって感じかなぁ。
まあ、そうね。じゃあもう少し魔力を注いで、均一に仕上げて……。
そう思っていたら、外からいつもの幼い元気な声がした。
「デイジーお姉様〜!」
ケイトに扉を開けてもらって、ドアベルの音が響くと共に早足で歩いてくる子供の靴音が近づいてくる。
私の姿を認めると、急いでこちらにやってくる。リリーだ。
「いらっしゃい、リリー」
作業中なので両手がふさがっているため、笑顔と言葉だけで挨拶をする。
「熱いから、あんまり錬金釜のそばによっちゃダメよ」
私は攪拌棒で釜の中身を掻き回しながら、リリーに注意をする。
すると、リリーが、手に握りしめていたらしい淡い水色の石を、手のひらを開いてじっと眺める。
……何を見ているのかしら。
【??の石】
分類:鉱物・材料
品質:良質
レア:B
詳細:……
……
あ、ちょっとまだ見切れてない!
急に、リリーがその石を自分の耳に当てるから、鑑定が途中になってしまったのだ。
なのに、リリーがなんとその石を、作りかけの『癒しのインゴット』の入った錬金釜の中に、「ポイッ」と放り込んだのだ!
溶けた金属の粘性が高いからか、飛び跳ねは少なくて、釜から熱い金属が飛ぶことは無かったから良いものの……。冷や汗をかいた。
と、安心していると、釜の中では、とぷんと溶けた熱い金属の中に石がじわりと溶け込むように拡がっていく。
……あーあ。
「リリー!」
「リリー様!」
私が叫ぶと共に、後ろに控えていたケイトも慌ててリリーを叱る口調で叫び、リリーの体を捉え、自分の体に抱き抱えるように拘束する。
「デイジー様は、調合中だったんですよ?その品の中に、勝手に屋敷の裏の森で拾った石を投げ込むなんてイタズラをしてはいけません!」
……うわ。よりによって屋敷の裏に転がっていた石ころかあ……。
品質落ちるかなあ、と思って、思わず肩が落ちた。
ところが、リリーは、ケイトに抱き抱えられながら、ぷう〜っと頬をふくらませて反論する。
「イタズラじゃないわ!あのこが、なかにはいりたいといったの!」
……ん?耳に石を押し当てていたと言うにはそういうこと?
ん?石の声を聞いていたの?
どこの不思議ちゃんよっ!
……って私の妹ね。
えっと、決めつけて諦めたりしないで、錬金釜の中のものを見てみようかしら。
【
分類:合金・材料
品質:良品
レア:B+
詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復と
気持ち:ん〜まだ混ざってるだけって感じかなぁ。
「あ〜っ!効果が増えているわ!」
「えっ?」
私の驚く声に、リリーを戒めているケイトの力も緩んだ。すると、リリーはケイトの腕からするりと逃れて、私の隣にやってくる。
「ねっ!なかにはいりたかったんだもんね!」
そういうリリーは、私は正しいとばかりに、仁王立ちの上に腰に手を添えて胸を張っている。
「おねえさま、あのこはまだちゃんと、いっしょになれてないわ。もっとぐるぐるしてあげて」
「リリーにはわかるの?」
リリーは鑑定なんて持っていない。だから、なぜわかるのかに興味が湧いたのだ。
「うーんとね、なかにいるこたちが、ちゃんとおててつなげてないの」
「お手手?」
私はその表現が理解出来ずに首を捻る。
「うん、ちゃんとなかよくなったこたちは、ぎゅっておててつないで、きれいなかたちをつくるのよ」
……私の【鑑定】とは違って、効果を発揮するものの『在り方』が詳細に『見えて』いるってこと?
リリーの見え方を追体験することは叶わないが、ぼんやりと彼女の『知る力』が理解出来たような気がした。
じゃあ、まずはリリーの言う通り、魔力を注いでさらに混ぜていきましょうか。
「わっかになりはじめたわ。でも、まだなかよくなれる」
釜の中を覗き込めるように、ケイトに抱き上げてもらったリリーが、『見た状態』を口にする。
私の【鑑定】も、『もっと仲良くなりたいな』と言っていて、その合致に思わずクスッと笑ってしまう。
さらに、溶けた金属を混ぜていく。
「あ、つながったてがふえたわ。でも、きっともっとキレイなかたちになれるはず」
……ふむ。じゃあもう少し魔力を注いで……。
「あ、みんながなかよく、てをつなぎだしたわ。いいかんじ!」
面白いわ。
そう思いながら、今日はリリーのナビで合金を作ることにした。もう、私は【鑑定】を使っていない。
「あ!みんながキレイにてをつないだわ!」
彼女の言葉が正解とでも言うかのように、錬金釜の中の溶けた金属はキラキラと光を放っている。
【慈愛のインゴット】
分類:合金・材料
品質:良品+
レア:B+
詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復と魔力回復の効果を発揮する。他の装備品におなじ効果がある場合は加算される。
気持ち:綺麗にみんな繋がったよ!見られちゃってたなんて、丸裸にされた気分でちょっと恥ずかしいね!
じゃあ、これと、『ガーディニウム』を持って行って、指輪作成を依頼しないとね!
……と忘れちゃいけない。リリーには注意ね。
そう思ってリリーの元へ行く。そして、目の前にしゃがんで目線の高さを合わせる。
「リリー、今日はリリーのおかげで良いものができたわ」
リリーはその言葉に、うん、と頷く。
「でもね、もし今日作っていたものが、決められたものを作ってくださいって注文だったらどうかしら?」
「……おきゃくさんが、がっかりします」
そうね、と言って、リリーの頭を撫でる。
「あとね、錬金釜の中はとっても熱いの。ものを投げ込んで、中身が私にはねたら、どうなるかしら?」
「デイジーおねえさまが、やけどしちゃいます……」
そこで、目元をうるっとさせる。
「そうね、だから、実験室で何かをしたくなったら、まず、お姉さんに相談してくれないかしら?」
「……はい」
しゅんっとしてしまったリリーを両腕を伸ばして抱き寄せる。
「錬金術は、火を使ったり、熱いものを扱ったり、危ないこともあるの。だから、今日みたいなことはしないって、約束してね」
リリーは、腕を回して私の背をぎゅっと握って、こくん、と頷いた。
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