第103話 強力マナポーションを作ろう①

 種まきを終えて、一週間くらい経ったある朝のこと。アリエルはまだ実家で特訓のお付き合い中だ。

「コンコン」

 と、私の部屋の窓を叩く音が聞こえた。


 ……何かしら?


 窓辺に移動してみると、窓の外に例の精霊の女の子がいた。

「デイジー!そろそろ賢者のハーブと癒しの苔が落ち着いて、採取できるわよ!」

 わざわざ教えに来てくれたらしい。


「ありがとう精霊さん!朝ごはんを食べたら早速お庭に向かうわ!」

 私は、寝間着からワンピースに着替えて、顔を洗う。そして、ドレッサーの前で髪の毛をとかして、お下げに編んで。前髪をヘアピンでとめたら完成!


 階段を降りて、食卓テーブルのある二階へ降りていく。そして、みんなに声をかける。

「おはよう!」

「「おはようございます!」」

 ミィナとマーカスが揃って朝の挨拶を返してくれる。

 テーブルに載っているのは、シンプルなふんわりパンと、ソーセージが二本と目玉焼き。そして、牛乳。我がアトリエの定番の朝食だ。

「「「いただきます!」」」

 椅子に腰を下ろして、みんなで揃って食事をはじめる。


「そういえば、アリエルさんがいらっしゃるのはまだ先になりそうですか?」

 ミィナに質問された。うん、家事の都合もあるし、彼女が一番気になるわよね。でも、アリエルは実家が落ち着くまではお兄様とお姉様の特訓の付き合いをすることになって、まだ帰ってこない。

「うちのお兄様とお姉様の決闘が終わったら、うちに来ると思うわ」

「うーん。デイジー様のお兄様とお姉様ですよねえ。決闘向けの指導をなさっているなんて、あんな可愛らしい小さなお嬢さんなのに、人の才能は見かけによらないんですね」


 ……小さいけど五十歳だしなぁ。


 感心しながら、朝食をパクパクと食べているミィナを眺めながら、『いつかちゃんと話した方がいいのかしら?』と悩む私だった。


 ◆


 朝食を終えて、苔を乗せるためのお皿を持って畑に出る。

「みんなおはよう!」

 妖精さんや精霊さんたちに挨拶をして、まずは『賢者のハーブ』の所へ。


【賢者のハーブ】

 分類:植物

 品質:高品質

 レア:B

 詳細:肉厚な葉に魔素マナをたっぷり貯える。イキイキとしてやる気満々だ!

 気持ち:もう、準備できているよ!


 ……ふふ。『やる気満々!』ですって。

 鑑定さんの評価に思わずクスッと笑っちゃう。

「じゃあ、葉っぱを数枚いただくわね」

 そして、『癒しの苔』は、と……。


【癒しの苔】

 分類:植物

 品質:高品質

 レア:B

 詳細:魔力があり、薬剤の元に使われる。とても瑞々しくイキイキしている。

 気持ち:準備万端!


「じゃあ、必要な分いただいていくわね!」

 スプーンで苔をすくって、お皿に乗せた。

 そして、実験室へ移動した。


「苔って扱うのは初めてね……。やっぱり、念の為にエキスは別々で抽出しようかな」

 マーカスが朝一で準備してくれる蒸留水の在処を確認し、素材を洗って余分な水気をとる。

 そして、賢者のハーブと癒しの苔を少しだけ齧って苦味の確認をする。

「ん。どっちも苦くないのね。じゃあ、このままみじん切りにするだけでエキス抽出しましょ」


 まずは、慣れている葉っぱのもの、賢者のハーブの葉をみじん切りにして、少なめの水と一緒にビーカーに入れて加熱する。


【マナのエキス???】

 分類:薬品のもと

 品質:低品質ーーー

 詳細:成分の抽出が出来ていない。

 気持ち:もっと温かくてもいいんじゃない?


 少したつと、ビーカーのガラス面に小さな気泡が付き始め、だんだんその気泡が大きくなってくる。


 ……うん、こういうのって久しぶりだわ。ビーカー使っての作業が私の錬金術の原点だものね。

 水が温まり、その表情が変わっていくのを、私は懐かしい感覚を覚えながら微笑みを浮かべて経過を見守った。やがて、気泡がポコりポコりと水面に昇っていく。


【マナのエキス】

 分類:薬品のもと

 品質:低品質ー

 詳細:成分が少し溶けだし始めている。

 気持ち:うん、このくらいこのくらい。いい湯加減だね!



 葉っぱはいつもこれくらいの温度だと上手くいくのよね。しかも、『いい湯加減』ですって。じゃあ、この温度で保てるように、加熱器を調整して……と。


【マナのエキス】

 分類:薬品のもと

 品質:高品質

 詳細:成分が十分溶けだしている。

 気持ち:最高だね!


 しばらく一定の温度を保ち続けると、エキスをちゃんと取り出すことが出来た。


 ……うん、久しぶりだったけれど、葉っぱのエキス取りは成功したわ!

 安堵に、ほう、と息をついて、今度は癒しの苔のエキスをとるために、新しいビーカーを取り出す。そして、癒しの苔をみじん切りにして、少なめの水と一緒にビーカーに入れて加熱する。


【癒しのエキス???】

 分類:薬品のもと

 品質:低品質ーーー

 詳細:成分の抽出が出来ていない。

 気持ち:え?温かくするの?


 ……ん?なんか気になることを言っているけど……。温めて抽出するのって基本よね?


 少したつと、ビーカーのガラス面に小さな気泡が付き始め、だんだんその気泡が大きくなってくる。


【癒しのエキス?????】

 分類:薬品のもと

 品質:ヤバイ

 詳細:成分の抽出が出来ていない。それどころか有効成分が変質しようとしている。

 気持ち:あついのヤダヤダヤダ!


 ええええええ!?ちょっとなにこれ解らないわ。品質が『ヤバイ』って何?しかも名前の『?』がどんどん増えてって……まずいわ、これは、『アレ』が出来ちゃうわ!


 ボンッ!


【産業廃棄物】

 分類:ごみ

 品質:役立たず

 詳細:捨てるしかない。有効成分なんてどこにもない。

 気持ち:ヤダって言ったでしょ!


 うっわー。出来ちゃったわ。『産業廃棄物』。

 トホホ……。

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