第104話 強力マナポーションを作ろう②

 じいぃぃぃ。

 私は小一時間『産業廃棄物』に変わった物体を睨み続けている。


【産業廃棄物】

 分類:ごみ

 品質:役立たず

 詳細:捨てるしかない。有効成分なんてどこにもない。

 気持ち:……この人怖いよう(泣)睨みつけたって何も教えないんだからね!


 ……『教えないんだからね』とか言っているあたりが怪しい。なにか知っていそうな気がする。


 そこに、錬金工房の店番をしていたマーカスが通りかかった。

「……えっと。デイジー様は何をしておられるんですか?」

 作業台に乗った『産業廃棄物』が入ったビーカーを、作業台に両手と顎を乗せるというおかしな格好で睨みつけている私を発見し、マーカスがかなり引き気味だ。


「ちょっと、鑑定使って失敗作を問い詰めているの」

「……鑑定ってそういう使い方するもんでしたっけ?」

 私の返答にさらにマーカスは引いている。あ、そうか、マーカスは素材の『気持ち』は見えないもんね。

「……失敗した理由がわかるかなって思ったのよね」

「そ、そうですか……ガンバッテクダサイ……」

 そのままマーカスは行ってしまった。


 さて、問題はあなたよ、『産業廃棄物』さん。


【産業廃棄物】

 分類:ごみ

 品質:役立たず

 詳細:捨てるしかない。有効成分なんてどこにもない。

 気持ち:……錬金術師だったら、ちゃんと自分で調べるか考えろよ!


 あ、怒った?

 うーん。錬金術関連の本を調べてみるかなあ。『抽出』に関して調べればいいのよね。私は、本棚がある二階に移動した。本来なら本って高価なものだから、リビングになんか置かないんだけれど、我がアトリエは、みんなが本を読めるように、リビングに本棚を作っておくことにしたのだ。錬金術の本も料理の本もみんなが読める。


 何冊か気になる本を本棚から取りだし、テーブルに乗せて

「抽出……抽出……」


 んー、そういえば、温めている間『え?温かくするの?』とか『あついのヤダヤダヤダ!』とか言っていたわよね……。ということは、熱が苦手ってことか。


 ……いっそみじん切り以上、凍らせてからすり鉢で粉々に粉砕してみる?そうしたら、水に溶けないかしら。

 めぼしい記述が見つからなかったので、本を一旦全て本棚に戻す。そして、もう一度畑へ『癒しの苔』を取りに行くことにした。


『癒しの苔』の前に来て、頭を下げて一度ごめんなさいをする。

「ごめんね。失敗しちゃったから、もう一回あなたをちょうだいね」

 そして、またお皿に掬いとって実験室に持ち帰る。


「うーん、水魔法の凍らすっていうのは、氷自体を発生しちゃうから、水が余計よね……」

 綺麗に苔を洗って水気を切り、すり鉢の中に苔を入れる。

 手をかざして、目を瞑ってイメージする。

『苔自体が凍るの。ちょっと触っただけでも壊れちゃうくらいに、寒く、冷たく……』

 すり鉢を中心に、冷気が室内に漏れて、実験室がどんどん寒くなっていく。

 試しにすりこぎで苔に触れてみたけれど、すりこぎの温度のせいか、少し溶けて戻ってしまった。

『だったら、もっともっと冷たく……氷よりもさらに冷たく……』

 ふと目を開けると、苔は真っ白になって霜が降ったような状態になっていた。

 すりこぎで試しにトン、と苔を軽く押してみる。すると、パラパラと力を入れないでも砕けてしまった。

 すり鉢ですると、粉々の粉になった。


 ……このまま、溶ける前に蒸留水に入れよう!


【癒しのエキス???】

 分類:薬品のもと

 品質:低品質ーーー

 詳細:成分の抽出が出来ていない。

 気持ち:溶けやすいようにかき混ぜてくれると嬉しいな。


 うんうん、かき混ぜてあげましょう!

 私は、攪拌棒でくるくると水と苔の粉をよくかき混ぜる。


【癒しのエキス】

 分類:薬品のもと

 品質:高品質

 詳細:有効成分がしっかり抽出されている。

 気持ち:よくわかったね!大正解!


「やったー!大正解だって!」

 実験室で両手をあげてバンザイをする。

 そこに、大きな声に気づいたマーカスがやってくる。

「あ、さっき悩んでいたの、上手くいったんですか?」

 私の顔を見て機嫌がいいのがわかったのか、マーカスもリラックスして笑顔だ。

「うん、強力マナポーションを作るのに、『賢者のハーブ』と『癒しの苔』のエキスを抽出していたんだけれど、『癒しの苔』の成分は熱にとても弱かったみたいでね。凍らせて粉砕したら上手くいったのよ!」

 ふたつのエキスが入っているビーカーをテーブルに並べて見せる。

「本当だ。エキスがちゃんと作れていますね。じゃあ、これからこれを混ぜるとして……やっぱり加熱はダメってことですよね?」


 ……あ、そうね。


「まずは混ぜてみましょう」


『癒しのエキス』と『マナのエキス』を布で濾して、混ぜる。


【強力マナポーション?】

 分類:薬品

 品質:低品質

 詳細:成分は全く反応していない。ただ元となるエキスを混ぜたもの。

 気持ち:さあ、どうする?


「うーん、加熱をしないとすると、反応を促す方法は……、魔力を注いで反応を促すか、錬金発酵させる?」

 私が腕を組んで首をかしげながら思いつくものを挙げた。

「錬金発酵だと、ふたつの成分が混ざると言うよりも、ある成分が変質するというイメージがありますけどね……」

 マーカスが私の案に対して、自分の意見を述べる。

「うん、私もそう思う。念の為にビーカーに半分を避けておいて、魔力で反応を促しましょう!」

 私は頷いて、空きビーカーに混合液を半分入れて、残った混合液に手をかざして魔力を注ぐ。

『……ふたつのエキス、反応して強力マナポーションになって……!』

 目を瞑ってイメージしながら魔力を注ぐ。すると。


「出来ましたよ、デイジー様!」

 その声にパチンと目を開いてビーカーを覗き込む。


【強力マナポーション】

 分類:薬品

 品質:高品質

 詳細:マナポーションの2倍の回復量。高品質なのでさらに回復量2.0倍。

 気持ち:よく頑張ったね!


「やったぁ!」

 私はマーカスと笑顔でハイタッチした。

 私の2.0倍マナポーションだと、大体500くらい回復するから、これ一本で魔力は1000回復することになる。


 ……ん?でも私たち兄妹みたいに魔力の高い人には、もっと高品質なのがないと、全部回復するには全然足りないよね?

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