第97話 苔むす癒しの洞窟

 翌朝朝食を済ませ、テントなどの野営の片付けをして、一行は、次の目的地である『苔むす癒しの洞窟』へ向かうことにした。

 今まで、王都の北西出口から出て、街道沿いに北西方向へ進んできた。今度は、国の北部山脈沿いを東西へ繋ぐ街道を使って、東を目指すことになる。

 この道は、北部の山沿いに転々と存在する鉱山を行き来するのによく使われており、見回り警戒中の兵士さんや、人数調整などの関係で移動をする鉱夫さんたちに出会う。人通りも多く、暫く魔獣に出くわすことも無く、平和な旅を続けていた。


 旅は安全で、時々魔獣と兵士さんが戦っているのに加勢するくらい。だから、旅は会話混じりに進んでいた。


「ねえリィン、ちょっと作って欲しいものがあるんだけど、聞いてくれないかしら?」

「ん?アタシに作れるモンだったら相談乗るぞ」

 そうそう、私には今欲しいものがあるのよね。それは杖!当然、普通の魔導師用の杖とかじゃないわ。


「杖を作って欲しいのよ。ポーションを二種類くらい入れておけてね、スイッチを押すと、ポーションが中から噴出されるの」

「は?なんだそりゃ」

 リィンが、あまりにも想像とかけはなれた『杖』なるものの構想を聞かされて、顔を顰めて首を傾けた。

「そしたら、私が水魔法で制御して、ポーション弾か、範囲回復させるのよ!なんて言うか、ポーション瓶を開けるのが面倒なのよね」

 そう、ポシェットからポーション瓶を取りだし、蓋を開ける。この工程を省略したいのよね。


「……デイジー、それ、使い切ったらどうするんだ?」

「ポーション瓶から補充……ってあ!」

 そこで、しゃがみこんで杖と何本ものポーション瓶の蓋をあけて、ポーションを補充している自分の姿を想像した。

 ……全然ダメだわ。


「それにさ、液体入れておくんだろ?杖が揺れる度にその重さで手に負担かからないか?」

 回復師のように杖で回復をするという計画が穴だらけだったことに気づいて、ぷうぅ〜と私は頬をふくらませる。

「……いや、ポーション弾だけで十分アタッカーは助かるぞ?」

「……既に規格外だしな」

 レティアが慰めと、マルクがなんかボソッとこぼしている。


「それじゃあ、杖は置いといて。ドレイク対策って、どうするの?」

 私は、賢者の塔を攻略する気満々だ。きっとあそこにはお父様たちのお役に立つような魔導書や装備品があるに違いないわ!


「炎を吐くドレイクなら、相反する氷属性には弱いだろう。だから、武器に氷属性を付与するとかだな。まあ、俺とレティアとリィンの『魔剣』の類の製造をお願いすることになるかな」

 マルクが馬に揺られながら答えた。

「私も、熱に強そうなドレイク相手だと決め手に乏しいので、氷属性を付与した矢なんかがあれば、お役に立てると思います」

 バッサバッサと翼をはためかせるティリオンに揺られながら、アリエルが希望を述べる。


「あとは防具かなあ……熱や炎に耐性があるような防具を作ることが出来れば、格段に被ダメージは減ると思うぞ」


「あとはデイジーの体力を上げたいところだけど……、十歳の女の子の体力が、ドレイクのブレスに耐えるということ自体がまずありえないから、みんなの回復に徹して、入口のところに隠れているというのは必須かなぁ」

 そして、マルクが私に釘を刺した。


 ……うっ、どうせ私は体力ないですよ。ぷんぷん。


 と、今後について相談しながら歩いていると、目的の『苔むす癒しの洞窟』に着いた。

「あ、ここもなにかある気がする」

 そう言って、リィンが洞窟の奥に入っていく。


 そうして、レオンから降りて、洞窟の奥まで辿り着くと、彼女の周りにたくさんの土の妖精、黄色い小人さん達が現れた。

「鉱物抽出!」

 リィンがそう言って洞窟の壁に指を指すと、黄色い小人さんたちが一斉に両腕を掲げた。そして、洞窟の奥の壁が黄金色に輝き、キラキラと輝く粒子が壁一面から出てきて、宙を埋め尽くす。

「鉱物再結晶!」

 リィンがそう叫ぶと、小人さんたちが宙のある一点をいっせいに指さす。すると、キラキラ輝く粒子はその一点に集まり、複数のごろごろした鉱石になって、リィンの掌に落ちた。沢山いた小人さんは居なくなっていた。


 リィンが私たちの方に向き直り、その鉱石を手のひらに乗せながら、私たちに見せる。

「うーん、優しい感じがするけど、デイジー、ちょっと見てみて」


 そう言われて、私はリーフから降りて、リィンの元へ駆けて行ってその鉱物をじっと見る。


【癒しの石】

 分類:鉱物・材料

 品質:良質

 レア:B

 詳細:装備品に加工することで、自然に体力回復の効果を発揮する。他の装備品におなじ効果がある場合は加算される。

 気持ち:僕がいれば、安心安全!


「装備品にすると、自然に体力が回復するらしいわ!しかも効果加算よ!」

 私は興奮して、結果を伝える。

「ってことは、この『守護の指輪』の回復量にさらに加算か……もし装備出来れば、凄い楽になるな」

 マルクが中指にはめた指輪を見下ろす。

「これで全員分の装備に足りる量のインゴットができるといいんだけどな!デイジー、これよろしく」

 やはり、まずは私の加工が先ということで、リィンから鉱石を受け取り、ポシェットの中にしまった。


 あとは、当初からの目的の『癒しの苔』だ。

 この洞窟中が苔むしていて、ちょろちょろと湧水が流れ出している。この水が苔たちを育んでいるのだろう。辺り一面が苔だらけで、その中から『癒しの苔』がびっしり繁殖している岩を見つけた。


【癒しの苔】

 分類:植物

 品質:高品質

 レア:B

 詳細:魔力があり、薬剤の元に使われる。とても瑞々しくイキイキしている。

 気持ち:水をたっぷりちょうだいね!ひなたは嫌いだよ!


「この岩に付いた苔が欲しいけれど、出来ればアトリエで栽培したいのよね……」

 苔って剥がして持って帰っても繁殖させられるものなのかなあ?ちょっと、剥がしていくことを躊躇っていたその時。

「じゃ、この岩割るからな!」

 止めるまもなく、リィンがハンマーで岩の下部を叩き割った!


 ……ということで、私はやっと当初の目的の二品を手に入れて、王都への帰途につくのであった。

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