第83話 ダイアウルフ戦

 私たちの国は、王都が国土の北寄りの中央にあり、その北部には高い岩山が聳えている。その頂は通年雪で白くなっているほど高い。その山々は様々な鉱物資源を与えてくれて、我が国の経済を支えている。例えば、以前『新しい白粉』を開発した時の絹雲母や亜鉛もその恵みのうちに入るわね。

 そして山の麓には手付かずの森が茂っている箇所が多数あり、魔獣たちの住処となっているの。

 私たちは、そんな高くそびえ立つ山々と森を風景にしながら、王都の北西門を出て街道沿いに馬や聖獣を走らせていた。

 私たちの目指す北西方向には、森の木々に隠れて賢者の塔の高い高い頂上部だけが覗いている。あそこが最初の目的地よ。


「しばらく街道沿いに行くけど、森の近くを通る時は森から魔獣が出てくる確率も高いから注意ね」

 重戦士のマルクが先頭を切って馬を走らせながら、今回の行程の注意点を説明していく。

「……っと言ってる側から!」

 ちょうど森の中を街道が突っきる形になっている箇所で、ガサガサと音がして狼に似た姿の魔獣の群れが姿を現した。私たちは、足を止めて警戒態勢に入る。

「ダイアウルフ。そこまで強くないけど、群れるから注意ね、行くぞ!」


氷の嵐アイスストーム!」

 私が初撃で氷魔法での足止めを狙う。そう、お父様に教わったとおりにね!

 すると、群れの半数の足が凍り、動けなくなった。

「よし、ナイスアシスト!レティア、リィン行くぞ!」

 マルクの言葉に従って、三人は足止めされていないウルフ達から処理に向かう。


 マルクの得物はハルバード。「槍斧」と呼ばれる重戦士用の武器で、先端が槍のように細くとがっていて、左右の片方に大きな斧頭、その反対にピックと呼ばれる鋭利な突起がついている。

 マルクはその形状を器用に使い分けて、馬に乗ったままウルフの首を掻いたり、斧頭で首を折っていく。


 レティアの得物は細めの長剣。馬をニーグリップで器用に操りながら、ウルフの攻撃を躱して綺麗に致命傷になる箇所や脚などの行動を抑制する位置を凪いでいく。


 凄いのはリィン。レオンの上から片手で巨大なハンマーを振り回しては、ウルフの頭にそれをガツンと当てて、脳震盪で倒れたところを、両手に持ち替えて上からドスン!うわ、頭がぺちゃんこ!致命傷をおった敵の姿は、彼女が一番えぐいかも……。だって、ぺしゃんこになった頭の中身が……、ね。


 私は、そんな前線で戦う三人を邪魔しないように、間を縫って魔法で攻撃する。

風の刃エアカッター!」

 私の掌から飛び出す真空の刃がウルフを襲い、首を狩っていく。

 子供の頃からの魔法の訓練と、『魔力を使い切って寝る』っていうトレーニングのおかげで、私にも『身を守る術』というのがしっかり身についている。ステータス的にはこうなっているわ。


【デイジー・フォン・プレスラリア】

 子爵家次女

 体力:120/120

 魔力:4520/4525

 職業:錬金術師

 スキル:(鑑定(6/10)、緑魔法(MAX))錬金術(6/10)、風魔法(6/10)、水魔法(6/10)、土魔法(5/10)(隠蔽)

 賞罰:なし

 ギフト:(緑の精霊王の愛し子)なし

 称号:(聖獣の主)王室御用達錬金術師、女性のお肌の救世主


 魔力量が半端ないわね。

 そうそう、『緑魔法』っていうあまり馴染みのないスキルが増えているけれど、これは多分緑の精霊王様の影響だと思う。前に使った『茨の鞭ローズウィップ』なんかがこれに当たるんだろうけれど、MAXと言われても、他の魔法はまだ覚えていない。

 錬金術ばかりしていないでリーフに習うべきだったかしら?MAXってことは、知ってさえいれば使用可能よね?

 あと、鑑定のレベルも上がっていたみたいね。『称号』っていうのが増えているけれど……王室御用達になったつもりは無いのだけれど、おかしいわね。あと、『白粉』の件からなんだろうけれど、お肌の救世主ってそもそも称号なの?



 ……と、私のステータスの話は置いといて。

 やがて、十頭ほどいた群れを殲滅し、レティアがその死骸を素材としてマジックバッグにしまい始めた時に、また『ガサリ』と葉が動く音がした。低く繁る低木たちの奥からこちらへ向かってくる影は大きい。

「血の匂いで来たか、この群れのボスか……」

 さっきの群れで終わりと思っていたレティアは、いまいましげに舌打ちをする。


 その大きな影が、草木を割って姿を現す。

 額には一本の鋭利な白い角、むき出しになっている凶悪な一対の太い牙、他のダイアウルフよりふた周りも大きい体躯はフェンリルと見間違える程。ランランと輝く瞳は黄金色だ。ダイアウルフは、野生の獣であって魔獣ではないのだが……。

「群れのボスが魔獣化したかな……こんなとこにこんな奴がいたら、鉱夫達の移動にも差し障る。間引くぞ!リィンとデイジーは無理すんなよ!」

「「はい!」」


氷の嵐アイスストーム!」

 私はダイアウルフ達と同じように足止めを狙う。しかし、魔獣は氷結化しようとした領域を凍る寸前で力強く後ろ脚で蹴って逃れ、足止めはできなかった。

 反撃とばかりに、先頭にいたマルクに二本足で立ち上がった魔獣が鋭利な爪を振り下ろす。一撃はマルクがハルバードの柄で防いだが、もう片方の手が振り下ろされる……、とそのタイミングでレティアが間に割って入って、まさに振り下ろそうとしたその腕を切りつけて防いだ。

 片手はマルクの柄が動きを押え、もう片方の腕はレティアの剣がくい込んでいる。二本足で立ったままの魔獣の腹はがらんどうで無防備だ。

「いっただきー!」

 そこに、リィンがハンマーの柄を両手で握りしめて走っていくと、ぶんっと魔獣の腹に勢いよくぶち当てる。魔獣はその勢いで背後に立っている高木に背を打って、そのままメキメキと音を立てて折れていく木とともに仰向けに倒れ込む。

「せいっ!」

 マルクが地を蹴って高く飛び上がると、ハルバードの斧頭を仰向けに倒れている魔獣の首に叩きつけた。『メキッ』と硬いものがきしんで壊れる嫌な音がして、魔獣は首の骨を折られて息絶えた。

「獣が腹見せるって、こいつアホ?」

 リィンはこんな獣にあったというのに、飄々としていて、さらに相手を阿呆呼ばわりしている。


 ……強すぎるわ、この三人!


 結局、魔獣相手には戦力にならなかった私は呆然と三人を見つめるばかりだった。

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